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第33話 キス。その後にトンカツ

「…………」

「…………」


 長いキスをしていた。

 リーゼは抵抗もせず、黙って僕のキスを受け入れてくれている。


 そしてゆっくりと顔を放すと――彼女は真っ赤になっていた。

 リーゼがとてつもなく可愛く思え、そして愛おしく感じる。


「ほ、ほら! 帰るぞ!」

「う、うん」


 リーゼは大慌てで僕から顔を逸らし、そして手を握って歩き出す。

 僕は完全にニヤけながら、彼女の隣を歩く。


 キス……しちゃったんだな。

 しちゃったんだな!


 柔らかかった。

 この世界で一番柔らかかったような気もする!

 一番柔らかく、そして一番幸せであった。


 僕はリーゼの赤い横顔を見ながらトロンとした表情をする。

 ああ……こんなに可愛い子とキスをしたんだな。

 圧倒的幸福感に圧倒的な興奮。

 ドコンドコン心臓を鳴らしながら、リーゼと歩き続けていた。


 会話は何もない。

 だけど信じられないほど幸せであった。


「リ、リーゼ。何か食べて帰る? それとも、何か作ろうか?」

「き、今日はマラソンで疲れてるだろ……何か食べてから帰るとするか」


 リーゼは依然として僕の方を見ようとはしない。

 耳の先まで赤くなっているのを見て、僕は彼女を抱きしめたい衝動に駆られる。

 抱きしめてもいいのだろうが……しかし、それはまた帰ってからの楽しみにしよう。

 今はキスができただけでも大満足。


 だがリーゼがどう考えているのかというのは常に考えておこう。

 彼女は満足しているのだろうか?

 これでいいと考えてくれているのだろうか?


 僕だけの気持ちじゃなくて、リーゼも何を考えているのか。

 それは忘れてはいけないことなのだ。

 今回のマラソンで体力的な成長と共に、そんな部分も成長できたような気がする。


 もっともっといい男になろう。

 精進あるのみだ。


 リーゼとショッピングモールに向かい、飲食店のあるフロアへと移動する。

 その辺りになると、さすがに照れも薄れたのか、リーゼは微笑を僕に向けながら話かけてきた。


「どれにしようか? 色々あって迷うな」

「僕はリーゼが食べたいものでいいよ。リーゼの幸せな顔が、僕の一番の好物だからね」

「そ、そうか……」


 先ほどのキスのことでも思い出したのか、また顔を赤く染めリーゼは顔を逸らす。

 どんだけ可愛いんだよ、こいつめ!


 リーゼと手を繋ぎながら店を見て回る。


 そしてリーゼはトンカツ屋さんの前で足を止めた。


「トンカツって、どんな料理なんだ?」

「肉を油で揚げた物だよ」

「ふーん……面白そうだな。ここにするか」


 リーゼと共に店に入り、トンカツを注文する。

 僕は一人前。

 リーゼは十人前を注文した。

 まぁ僕が十人前で制したと言うのが正しいのだけれど。


 当然店員さんは仰天していたが僕はもう驚かない。

 十人前でもペロリと食べてしまうであろう。


 だがリーゼはそれでも量に対して少し不満があるらしく、頬を膨らませて僕を睨んでいた。

 頬を膨らませた顔も可愛いよ。


「心配しなくても、ここはご飯とカレーとサラダが食べ放題なんだ」

「食べ放題……どれだけ食べてもいいってことか?」

「そういうこと。じゃあ取りに行こうか」

「?」


 僕は席を立ち上がり、カレーなどが置いているコーナーへと歩いて行く。

 リーゼはシステムを理解していないらしく、怪訝そうに僕について来ていた。


「へー……ここで好きに取っていいってことか」

「そういうこと。僕が入れようか?」

「いや。自分で入れるよ」


 カレーとサラダをセルフサービスで取れるコーナー。

 リーゼは小さいお皿にご飯をてんこ盛りにし、別の皿にカレーを盛る。

 それを持って席に置いてきたと思ったら、またご飯とカレーを盛り始めた。


「……リーゼ、やっぱり僕が入れるよ。リーゼは食べててくれ」

「そうか? 悪いな」


 僕は自分の分をテーブルに置き、リーゼのカレーを取りにまたコーナーに戻る。

 とにかく、いっぱい入れておこう。

 そう考えて僕は、入れれるだけご飯とカレーを盛り、彼女の下へと運んで行く。

 リーゼはカレーを一瞬で完食してしまうので、僕は次々にカレーを追加して彼女の下へと届ける。

 まるで女王蜂のために働く蜂のような気分だ。

 気分は悪くない。

 リーゼのためなら、いくらでも働き蜂となろう。


 そうしていると、ようやくトンカツが到着し、僕らのテーブルは置ききれない程いっぱいになっていた。

 店員さんのご厚意で、隣の席まで提供してもらえたので、なんとかトンカツを置くことはできた。


「ふーん。美味しそうだね」

「だね。じゃあいただきます」


 甘い香りのするソースに肉をくぐらせ口に含むと、カリッとした触感がある。

 口の中でソースの甘みと肉汁のうま味が一つになっていく。

 柔らかい肉は、噛むほどにうま味がし、食べているだけで幸せな気分になった。


「うん。美味いな。これならいくらでも食べれそうだ」

「まだまだあるから、ゆっくり食べよう……って、ゆっくりしてたら冷めちゃうね」

「それは勿体ない。ガンガン食べるぞ、耕太」


 ガンガン食べるのリーゼだけだけど。

 僕は美味しいトンカツをさっさと完食し、後はリーゼが美味しく食べれるようにフォローに回った。


 周囲の驚きの声を耳にしながら、彼女の嬉しそうな顔を見る。

 本当にリーゼがいたら飽きないし、幸せだな。


 またキスの柔らかい感触のことを思い出し、僕はニヤニヤしながらリーゼが食べる姿を眺めていた。

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