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第31話 マラソン大会当日

 学校の運動場に、全校生徒が集まっている。

 今、マラソン大会が始まろうとしていた。


「旦那くん、調子はどんな感じだい?」

「そうだな……万全も万全! 今なら誰にも負けない自信があるよ!」

「おおー! これはリーゼのチューは、旦那くんのものだね!」

「そうだと信じたいし、誰にもリーゼにチューはさせるつもりはありませんから!」


 僕は拳を握り締め、山下と会話をしていた。

 山下も山下で、拳を握り締め僕を見つめている。

 僕たちは炎を瞳に宿し、リーゼの方に視線を移す。


「なんで山下まで燃えてるんだ?」

「旦那くんを全力応援ですから! 二人の仲が進展するのを楽しみにしてますから!」


 山下はリーゼに近寄り、彼女の耳元で囁く。


「旦那くんと進展しないって、悩んでたもんね」

「バ、バカ! 何言ってるんだ!」


 山下がニヤニヤしてリーゼが真っ赤になっている。

 何を話しているのかは聞こえないけど、リーゼがとてつもなく可愛い。

 僕の心音、リーゼに聞こえないか心配する僕。

 まぁ、僕の好きって気持ちが伝わってくれたら、それはそれでいいけれど。


 周りにいる生徒たちは面倒くさそうな、出来ることなら参加したくないと言ったような表情をしている。

 分かるよ。

 僕もほんの二週間前までは、同じ気持ちだったから。

 だけど今の君たちと僕じゃ覚悟が違う。 

 少年漫画のバトル物で言えば、僕は最後の敵と戦う覚悟ができたようなものだ。


 ハッキリ言って敵じゃないね、この人たちは。

 って、敵でもなんでもないのだけれど。


 そして今まさに、マラソン大会がスタートする瞬間がやってきた。

 教師がスターターピストルを上空に向け――


 パンッ! と破裂音が周囲に響き渡る。


「じゃあ頑張ってね、旦那くん!」

「ああ! 僕は勝ってみせる、リーゼのために!」


 山下を置き去りにして、僕は先頭に向かって駆ける。

 ごぼう抜きというやつであろう。

 ドンドン他生徒たちを追い抜いていく。


 一番前を走る男子が一人いる。

 しかし、彼は調子に乗って先頭を走っているだけ。

 あれは気にする必要がないと判断する。


 そう考えた僕は、その後方に位置する先頭集団の先頭を走った。

 ペースは悪くない。 

 息も全く切れていない。

 リーゼへの気持ちも満タンだ。

 負ける要素は見当たらないぞ。

 これは僕の優勝で決まりではなかろうか。


 自分のペースで走っていると、とうとう先頭を走る男子が息を切らせ、抜き去ることに成功する。

 よし、思った通りだ。

 後はこの集団に勝つだけで――


「中々頑張ってるじゃないか」

「リ、リーゼ……」


 彼女が飄々と僕の隣を走る。

 やはりリーゼは圧倒的な体力を有しているようだ。

 彼女が敵でなくて良かったよ。

 もしリーゼと競い合うなんて話になったら、100%僕に勝ち目は無かったからね。

 

 僕は走りながらホッと胸を撫でおろす。


 ペース配分は現在申し分がない。

 後ろにいる生徒たちは徐々に息を切らせているが、僕はまだビクともしていなかった。


「この間まで、まともに走れなかった奴がここまでできるようになるなんてね」

「ふふふ……リーゼのためなら僕はなんだってできる気がするよ! なんだったら、君の世界の平和も守ってあげようか?」

「なんでお前が私の世界を救う必要があるんだ。と言うか、あっちのことは私はどうでもいいと思ってるから」

「ふーん……でも、リーゼと冒険するってのも面白いかも! そんな世界なんでしょ、あっちは?」

「まぁ……そうだな。でも耕太と冒険か」


 リーゼは涼しい顔で思案している。

 そしてプっと吹き出し、僕の顔を見た。


「耕太が戦ってる姿とか、想像するだけで面白いな」

「あはは。喜んでもらえて幸いです。って、僕はリーゼのためなら世界最強になってなってみせるから! 絶対に惚れ直すから!」

「はいはい。分かったよ」


 リーゼはクスクス僕の隣で笑っている。

 僕は走ることに集中し、少し会話を減らすことにした。

 リーゼとずっと話をしていたかったけど、そういうわけにもいかない。

 

 彼女と会話をしたまま勝てるほど甘くはないだろう。

 後ろの奴らに、いつ抜かれるかは分からないのだ。

 その後方で走る奴らの中に、意外な伏兵がいる可能性も否定はできない。

 最後まで気を抜くわけにはいかないぞ。


「……本気で優勝するつもりなんだな」

「うん。最初からそのつもりだよ」

「そうか……」

「ああ。リーゼが味方で良かった。リーゼ以外になら、勝てる自信はあるんだけどね」


 リーゼは僕の顔を見て、キョトンとする。


「……いつ私が耕太の味方になったと言った?」

「……え?」

「私は――お前に負けてやるつもりはないぞ」

「え、ちょ――」


 僕を置き去りにして、リーゼがグングン走る。

 その速度はとてもじゃないが、僕に追えるものではなかった。

 ってか、短距離選手の世界記録保持者でも余裕で置いていかれるだろ、あれは。


 いや、リーゼが敵になるとしたら……僕に勝ち目は無い。

 あれ? この場合キスはどうなるの!?

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