第30話 体力作りに食事は大事
筋肉の疲労回復に必要な糖質とタンパク質。
サプリメント及びプロテインでタンパク質を摂り、バランスのいい食事を心がける。
サラダにフルーツ、野菜をバランスよく取り込み、ニンニクなどを意識的に摂取し、ビタミンB1を取り込む。
そうすることによって代謝を上げることができる。
完璧だ……こうやって僕は毎日食事からもパワーアップする。
食事によって身体は作られるというが、まさにマラソンをするための身体が作られていく感覚がありありと感じられていた。
マラソンを始めてから一週間。
既にマラソンはそこそこできるようになっていた。
体力が以前と比べて段違い。
まるで進化でもしたような気分だ。
しかし、今日は今日とて限界を超えて走ったので、朝からすでにグロッキー。
プロテインを飲みながら、意識を失いつつあった。
「走れる時間と距離がドンドン伸びていくな」
リーゼはシャワーを上がり、牛乳を飲みながらそう言ってきた。
「ふふふ……まだ残り一週間ある。僕は絶対に優勝してみせるよ」
「あっそ。死なない程度に頑張ってくれ」
「簡単に死なないと言ったのはリーゼだ。僕は死なないよ。君がいる限りね」
「……八百年も生きるつもりか?」
「すいません。言い過ぎました」
僕は土下座でもする勢いでリーゼに頭を下げる。
彼女の寿命のことを忘れていた。
僕が人間の限界まで挑戦して生き続けれたとしても120年。
とてもじゃないが、リーゼが死ぬまで付き合うことはできない。
悔しいが、成そうとしても成らないこともあるというわけだ。
僕は死んだ後のリーゼの人生のことを想像し、ポロリと涙を流す。
「な、なんで泣いてるんだ……?」
「だって……僕が死んだ後、リーゼは一人で生きていくんだろ?」
「……そんなの、慣れっこだよ。これまでずっと一人で生きてきたようなもんだしね」
「……そうなの?」
「ああ。そうさ」
なんて寂しい人生なんだ。
よし。僕が生きている間は、絶対にリーゼに淋しい思いなんてさせないぞ。
さらに、僕が死んだ後に彼女が孤独を感じないように、たくさんの子供を残すことにしよう。
家族がいるなら、リーゼも一人じゃないんだから。
「子供は十人以上作ろうね」
「は……? どうしたんだ、急に?」
リーゼは少し恥ずかしいのか、顔を染める。
シャワー上がりの火照っている感じではなく、照れている様子だ。
……子作りが恥ずかしいのかな?
そんなの僕も恥ずかしいに決まってるじゃないか
キスだってまだできてないというのに……
あ、だから頑張てるんだったな。
というか、どれだけヘタレなんだよと今更ながら思う。
結婚してるはずなんだけどな、僕らは。
「…………」
「どうした?」
「いや、なんにも」
リーゼの顔を見て、一つため息をつく。
こんな情けない僕でごめんなさい。
だけど、いつか君が自慢できる男になってみせるよ。
それからも特訓を続け、僕はわずか二週間で以前とは比べ物にならないほどの体力を手に入れることができた。
人間、やはりやればできるのだ。
今ならマラソン大会に優勝できる可能性だってある。
僕は残り一日前、明日のために食事制限をしながらそんな風に考えていた。
そしてマラソン大会当日。
天気は晴。
これ以上ないほどの快晴。
雲一つない。
もう少し太陽が顔を隠してくれた方が、涼しくて走りやすかったんだけどな……
なんてことを考えながら僕は空を見上げていた。
「で、自信の方はどんなもんだ?」
リーゼはテレビゲームをしながら、僕にそう訊いてきた。
僕はリーゼの朝食を用意しながら答える。
「ふふーん。まぁ陸上部が相手でも、僕は負ける気がしないね。リーゼのためなら、オリンピックでも優勝してみせるよ」
「なんだ、そのオリンピックてのは?」
「えー……四年に一度開催される体育祭? みたいな感じかな」
「ふーん」
全く興味なさそうなリーゼ。
人間の、こちらの世界の運動能力はリーゼから見たら相当劣るだろう。
そんなの見ても面白くともなんともないか。
バナナとヨーグルト、そしてチーズをリーゼに差し出す。
彼女はゲームを一度中断し、それらをパクパクと食べていく。
量は普通の10倍ほど。
しかしそれを瞬く間に食べきってしまうリーゼ。
「そんなに食べたら、走らなくなるんじゃない?」
「問題ないよ。これぐらい食べても、500キロぐらいは走れる自信はある」
人外だ!
エルフだからそうなんだろうけど、僕らの常識が一切通用しない!
これは夫婦喧嘩なんかしたら、一瞬で殺されるんだろうな……
僕は怖気を覚え、ブルブルと背筋を震わせる。
絶対にリーゼには逆らわないでおこう。
怒らせたらどうなるか分かったもんじゃないぞ……
まぁ、どちらにしてもリーゼを怒らせるつもりはないけれど。
だってずっと好きだし、ずっと大事にしたいって思ってるんだから。
「じゃあ今日はリーゼのために頑張るからね」
「ああ。応援しておいてやるよ」
「うん!」
そうして運命のマラソン大会が、始まるのであった。




