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第3話 リーゼ

 玄関を開け、彼女を部屋に招き入れた。

 中に入ると廊下が伸びており、右手にキッチンがある。

 左手にはユニットバスがあり、奥に一つ部屋があるだけ。


 とても狭い部屋ではあるが、独り暮らしで困ることはない。

 いつも何もない当たり前の空間に、幻想的な美女が足を踏み入れる。

 僕は彼女の横顔を見て、バカ面で呆けていた。


「リーゼロッテ……」

「リーゼでいいよ。これから一緒に暮らしていくんだし」

「はい?」


 一緒に暮らしていく?

 暮らす? 暮らすってどういうこと?

 僕は首を傾げながら、奥の部屋へと彼女を案内する。


 そこにはベッドが一つと小さなテレビが一つに小さなテーブルが一つ。

 後はクローゼットに全てをしまっているので、何もない。

 リーゼは部屋を見渡し、「ふーん」と短く声を漏らす。


「二人で生活していくにはちょっと狭いけど……まぁいいか」

「……生活?」


 生活って……どういうこと?

 さっきからこの人は何を言っているんだ?

 

「あの、なんの話をしてるんですか?」

「敬語、それもいらない。これから夫婦として生活していくんだから、遠慮はいらないだろ」

「フウフ……?」


 熱いものに息を吹きかける。

 それはふうふう。

 白くて四角い食べ物。

 それは豆腐。

 じゃあフウフってなんだろう……

 夫婦以外に思いつかない。

 と言うか、夫婦の話をしている!?


「ふ、夫婦って……えええっ!?」

「? お前が言い出したんだろ。結婚してくれって」

「あ、いや……そうだけど」


 あの時僕は確かに言った。

 彼女も納得していたような顔をしていたけど、まさか本気だったなんて……

 正直、喜びよりも戸惑いの方が勝っている。

 いや、リーゼと結婚できたら嬉しいけど、まだ僕は18歳だぞ?

 あれ? リーゼって何歳なのかな?

 見た目はあの頃と全然変わってないけど……


「色々聞きたいことがあるけど……本気で結婚してくれるってこと?」

「ああ。そのつもりだけど」


 リーゼは気怠い瞳であっさりとそう言い放つ。

 僕がポカンとしていると、彼女はニヤリと笑い、こちらに近づいてくる。


「なんだ? 嬉しくないのか?」

「い、いや……嬉しくないわけはないけど」

「んん? 聞こえないな。ハッキリと言ってくれ。嬉しいのか? 嬉しくないのか?  どっちだ?」

「う、嬉しいに決まってるじゃないか」


 僕が照れてそう言うと、リーゼは満足そうにニヤニヤしていた。

 この子、結構攻めてくるタイプか……恥ずかしいけど、そこもいい!


 リーゼはベッドに腰を掛け、僕の顔を見つめてくる。

 彼女のその飛び抜けた容姿に、僕は緊張しっぱなしだ。


「あ、あのさ……リーゼって何歳なの?」

「私? 耕太は何歳だ?」

「僕は18歳だけど……」

「ふーん……だったら、私もそれでいくか」

「それでいくって何? 年齢って変えられないでしょ? サバでも読むつもり?」


 リーゼは片頬を上げ、話を続ける。


「この世界では、身分証明が必要なんだろ? こっちで暮らしている知り合いがいてね。そいつに頼んだら戸籍ってのを用意してくれるらしいんだ」

「へ、へー……?」


 それって犯罪なんじゃないの?

 身分を偽装するってことだよね。

 あれ? この世界って表現してたけど、この世界の住人じゃないの?

 いや、耳も尖ってるし変な恰好してるし、別の世界の住人というのは納得できるけど。


「だから私も18歳だ。それで用意してもらう」

「……本当の年齢は?」

「女に歳を聞くか?」

「…………」


 そんなことを言われたら聞きづらい。

 まぁ、リーゼがいてくれたら、それでいいか。とも考えてしまう。


「で、結婚はどうしたらいいんだ? 精霊に誓えばいいのか?」

「あ―……婚姻届けを出せばいいはずだけど」

「婚姻届け……また面倒な」

「……え? 本当に結婚しちゃうの?」

「? 初めからそういう話だったろ?」

「そ、そうだけどさ……」


 あまりにも簡単にそう言うものだから、僕は戸惑いっぱなしだった。

 リーゼはあくびをして、眠たそう。

 そんな感じで決めちゃっていい話なんだ。

 え? この人から見たら、結婚ってそんなレベルの話なの?


「その婚姻届けはどこに出すんだ?」

「区役所だけど……リーゼが戸籍を手に入れてからじゃないと無理だと思う」


 それでも無理なような気がするが。

 その証明が完璧なら、あるいは出来るかもしれないが。


「…………」

「どうしたの?」

「いや。あまり嬉しそうじゃないからな」

「……嬉しいよ。だってリーゼのことはずっと好きだったから!」

「……そ」


 彼女は抑揚のない声でそう言った。

 だが……顔は真っ赤だった。

 え? 可愛い。

 何この人。可愛過ぎんだけど。


 好きって言われて真っ赤になってる!


「リーゼ。ずっと好きだったよ!」

「そ、そうか……ありがとう」


 またまた顔が真っ赤になるリーゼ。

 僕は果てしないときめきを覚え、彼女の顔を見つめ続ける。

 リーゼは僕から顔を逸らし、冷静を装っていた。

 そんなことしても可愛いのはバレバレだ。


 まぁとにかく、こうして僕とリーゼの生活は突如として始まった。

 こんな可愛い人が傍にいて……僕の心臓は大丈夫だろうか。

 それがまず何よりも心配だった。

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