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第22話 好き?

「リーゼ……」


 僕はフェンスの上に立つリーゼの方へと駆けて行く。

 彼女は僕の顔を見て微笑を浮かべるが、僕は言う。


「そんなことに立ったら危ないから!」

「は?」

「はじゃないよ、はじゃ! リーゼが死んだら、僕後を追いかけるよ!?」

「いや、こんなところから落ちたところで死なないし……」


 リーゼはクスクス笑い、フェンスから飛び降りる。

 そして僕の頭を撫で、意地悪な声で囁く。


「だけど、お前が心配ならやめておくよ」

「そ、そうしていただけるとありがたい」


 彼女の息が耳に当たり、こそばゆい。

 ずっと耳元で囁いてくれててもいいと僕は思う。


「リーゼ、だけど、どうして僕がここにいるって分かったんだ?」

「風の精霊に教えてもらったんだよ。お前の家が分かったのも、精霊のおかげさ」

「はい?」


 精霊とはこの人、何言ってるんだろうと僕は一瞬思う。

 しかし、リーゼは別の世界に住人で、エルフなのだ。

 こちらの世界の、人間の常識なんて意味もないだろうと思い至る。


「まぁ精霊さんに感謝だね」

「ああ。ついでに私にも感謝して、美味しい物を作ってくれてもいいんだぞ?」

「そりゃもちろん! 毎朝毎晩、君が満足するまで作り続けてもいいぐらいだよ!」

「そう。それは嬉しいね」


 僕たちのやりとりに、憤怒の表情を向けている楓。

 リーゼはそんな楓の顔を見るなら、ふんと鼻を鳴らす。


「で、私の旦那に何か用か?」

「か、勝手に耕太を取って……絶対に許さないから!」

「お前の許しなんて必要ないだろ? お前は赤の他人なんだから」

「だよね」

「だよねじゃないって! 本当に何言ってるの、耕太!」

「え、ええっ……?」


 僕は楓の言葉に戸惑うばかり。

 本当に何が言いたいんだよ、こいつは。


 リーゼは嘆息して、楓を睨み付ける。


「お前が何をどう言おうとも叫ぼうとも、私たちはもう夫婦なんだ。もうこいつにちょっかい出すな。これ以上お前が耕太に何かしようというのなら……」


 リーゼの周りに風が集まる。

 小規模の台風が生まれたような……

 僕は風に頬を撫でらる程度で済んでいたが、楓はめくれ上がろうとするスカートを押さえて必死に風に耐えている。


 なんだか不思議な感覚だ。

 僕とリーゼには影響がないのに、楓には猛威を振るっている。


「え? 何これ? なんなの?」

「秘密だ」

「なるほど……秘密の多いリーゼも素敵でいいね!」


 僕は親指を立てて、リーゼにそう言った。

 リーゼは少し恥ずかしかったのか、一つ咳払いをして誤魔化している。


「まぁ、こんなもの使わなくても、お前ぐらいは簡単に八つ裂きにできるんだけどな」


 リーゼは風を止めて、ギロリと楓を睨む。

 その迫力と威圧感に、楓が過呼吸を起こす。

 あれ? もしかして、睨むだけで人を殺せるとか?

 顔を青くした僕は、リーゼを必死で止める。


「ちょ、死んじゃうから! 楓が死んじゃうから!」

「? 殺してもいいだろ?」

「ダメでしょ! いいわけないでしょ! 人を殺してはいけません!」


 クスクス笑うリーゼ。


「分かってるよ。これで人を殺すことはできない。相手を威圧するだけの能力だ」


 威圧できるって……どんな力だよ。

 リーゼは当然のように言っているが、やはりこの世界とリーゼの世界とでは常識が違いすぎるようだ。


 だが死なないと聞いた僕は、ホッと胸を撫でおろし、楓の方に視線を戻す。


「う……ううう」


 彼女は苦しそうに胸を押させている。

 え? 本当に死なないんだよね?

 目の前で人が死んだら、さすがに後味悪すぎるんだけど。


「も、もういいからさ。やめてあげなよ」

「…………」


 リーゼは短く息を吐き、楓から目を逸らす。

 楓は見えない力から解放されたのか、その場に膝をつき、大きく息を切らしていた。


「今度はこの程度じゃ済まさない。分かったら金輪際、耕太にちょっかいを出すな」

「…………」

「分かったな?」


 また楓を睨むリーゼ。

 楓はリーゼに恐怖を覚えたのか、顔を青くして踵を返す。


「絶対に諦めないから!」


 そう言い残して、楓は屋上を後にした。

 僕は首を傾げて、屋上の入り口付近を眺めていた。


「諦めないって……どういうこと?」

「……お前は面白い奴だな」

「え?」


 リーゼは呆れた顔で僕を見ている。

 なんでそんなに呆れているの?

 もしかして、僕に愛想をつかしたとか?


 焦った僕は、リーゼに言う。


「ぼ、僕はずっとリーゼのことが好きだよ! これからもずっと!」

「そ、そうか……」

「リーゼは、僕のことが嫌いになったの?」

「なんでそんな話になっているんだ!?」


 驚いた顔をしてリーゼは僕を見ている。

 違うのか……と少し安心する僕であったが、だが、どうしても彼女の気持ちを聞きたいと思い、もう一度訪ねてみる。


「僕のこと嫌いじゃないなら……好き?」

「き、嫌いだったら結婚なんてするわけないだろ」

「好き?」

「…………」


 顔を逸らしてリーゼは何も答えない。

 そのまま無言でリーゼの横顔を見つめ続ける。


 するととうとうリーゼは痺れを切らしたのか、首元、そして耳の先まで真っ赤にしてポツリと呟いた。


「す……好きだ」


 僕はガッツポーズを取って天に向かって叫ぶ。


「やったああああああああああああ!!」

「さ、先に戻ってる……」


 リーゼは赤い顔のまま宙を舞い、屋上から飛び降りて去ってしまう。

 僕はそんなリーゼの姿を見届けた後、感動に叫び続けるのであった。

 

 リーゼに好きって言ってもらえて本当に嬉しいんですけどぉ‼

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本作のタイトル後半の回収って、いつになるんだろう・・・・・・。 [一言] 主人公にヘイト買っている上に、スペック的にもメインヒロインに遠く及ばないヒロインって、そもそも作品的に存在価値…
2021/08/02 18:11 退会済み
管理
[気になる点] 無粋だが屋上から飛び降りのが怖いよ!笑
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