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第16話 リーゼは隠そうとしない

 教室に戻ると、また僕は質問攻めにあった。

 もう勘弁してくれ……

 そんな風に思いながら、リーゼの方に視線を向ける。


「な、なあ……蓮見とはどこで知り合ったんだ?」

「…………」

「いつ結婚したんだよ」

「…………」

「あの……」


 男子たちに取り囲まれているリーゼ。

 彼女は席に座りながら、男たちを無視して窓の外を眺めている。


 すると一人の男子が腹を立てたのか、リーゼの肩を掴もうとした。


「話聞いてんのか――」

「私に触れるな」


 ギロリと世界を凍りつかせてしまうような視線。

 実際のところ、教室の空気が凍り付いてしまった。

 あまりの冷たさに僕はゾクリと背筋を凍らせていた。

 

 リーゼの言葉に、男子はピタリと手を止め、固まっている。

 そんな男子たちにリーゼは言い放つ。


「私と耕太が夫婦で、お前たちに関係あるのか? もし私たちが夫婦じゃなかったとしても、お前たちと付き合うことはない。だから説明したところで無駄だろ? 分かったら消えろ」


 冷たいよぉ……冷たすぎるよぉ、リーゼさん。

 僕は彼女の言動に肝を冷やしながら、皆のことを見ていた。

 男子諸君たちは、肩を落としてリーゼから離れていく。


 しかしリーゼは他の男子と喋りたがりもしないんだな……

 これが女子の場合はどうなんだろう。


 そう考えていたら、丁度女子がリーゼに声をかけた。

 リーゼが何を言うのか、僕はビクビクしながら、そちらに神経を集中させる。


「あ、あの……リーゼロッテさん? 出身はどこですか?」

「出身? 私の出身はアポリカールという町――」

「日本だよ、日本! 母親がアメリカ人ってだけで、彼女はれっきとした日本人なの!」

「そ、そうなんだ……」


 当然、嘘である。

 彼女の戸籍を確認させてもらったが、一応、母親がアメリカ人のキャサリン・ジャクソンということになっていた。

 ちなみに父親は田中武。

 だから僕は咄嗟に、それを話しただけである。

 もちろん、その情報が嘘だらけなのだが……

 と言うかアポリカールってどこだよ!? 

 本当のことを言ってるんだろうけど、もう少し隠そうとしようよ!


「じ、じゃあさ……なんで耳が尖ってるの?」

「なぜって……エルフだからに決まって――」

「ぼ、僕がエルフォン持ってたことまだ怒ってるの? もう、そんなに怒らないでよ」


 エロ本とエルフを混ぜ合わせたイントネーションで誤魔化したら、ドッと教室が湧く。

 女子たちがケラケラ笑いながら僕の方を見ている。

 恥ずかしい……エロ本なんて持ってないのに。

 しかしリーゼは話を隠す気がないんだな……

 戸籍を取得して身分を隠蔽したのに、なんでそんなところはバカ正直に言っちゃうんだよ! 

 そんなところも好きだけど、バレないようにしてくれ!


「リ、リーゼは生まれつきの病気らしくてさ……み、耳の形がおかしいらしいんだ……」

「そうなんだ……」


 皆、リーゼに同情の視線を送っている。

 リーゼはなんのこと? なんて首を傾げて僕を見ていた。

 分かっていないようなので後でしっかりと言い聞かせておこう。

 

「と、とにかく、リーゼの耳に関しては触れないであげてほしいんだよ」

「……わかった」


 皆納得したらしく、耳から話題を変えリーゼに質問をする。

 リーゼは少し面倒くさそうにしているが、質問には一応答えている様子だ。

 男子とは仲良くするつもりはないが、女子とは普通にコミュニケーションを取っている。

 

 旦那として、他の男と会話をしないのは嬉しい限りだ。

 よし。僕も極力、女子と話をするのは止めておこう。

 そうしよう。


「ねえねえ、奥さんとはどこで知り合ったの?」

「えーっと……」


 いきなり女子が僕に質問をしてきた。

 リーゼみたいに冷たく相手をあしらうつもりことはできない。

 だからほどほどに距離を保つことを意識しよう。


「…………」


 しかし、リーゼの視線が痛かった。

 彼女はジト目でこちらを視認している様子。

 意外と嫉妬とかするのかな?

 となれば、僕は彼女のためにできることをしよう。


「ごめん。リーゼに訊いてくれない? 僕は男子と会話しなければいけないので……」

「ああ、うん」

 

 女子は僕から離れ、リーゼの方へと行く。

 出来る限り、僕も女子とは会話しないでおこう。

 その方が面倒も少なそうだ。

 僕にはリーゼがいればそれでいいんだから。

 リーゼが小さくため息をついたのが見えたので、僕は彼女に笑顔を向けておいた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 昼休みになり、僕はリーゼを連れて家庭科室へとやって来ていた。

 ここなら昼休みに誰も来ない。

 部屋の鍵がいつも開いてることを知っていて良かったよ。


「リーゼ。お願いだから、もう少しエルフだとか別世界だとか、隠す努力をしてくれ」

「? ダメなのか?」

「良くはないでしょ。バレたら大変なことになるよ? 色んなところから、リーゼのことを調べにやって来ると思う」

「それは……面倒だな。分かったよ。これからは適当な話をすることにする」

「頼むよ。はい。これ弁当」


 僕は持参した弁当箱を、リーゼに手渡す。

 彼女は弁当箱を開け、「おっ」と短く声を漏らした。

 彼女の弁当は男子用の物を二つ分用意しておいた。


 一つはたっぷりのご飯。

 昆布を上から乗せたけど、口に合うだろうか。

 もう一つにはおかずをぎっしりと詰めておいたが……足りないだろうなと、僕は苦笑いした。


「また今度、弁当箱を追加するから、今日はこれで我慢してね」

「……頼んだぞ」


 やっぱり足りないんだ。

 今日作ったのは簡単な弁当。

 卵焼きにウインナー、そして鮭を入れておいた。


 リーゼは卵焼きを口に入れ、ほんのり笑みをこぼす。

 可愛いなぁ、と思いながら、僕も卵焼きを口に入れる。


 フワフワの触感で、甘みが口に広がる。

 うん。結構美味くできたようだ。


 リーゼも量以外は満足している様子で、幸せそうに弁当を食べている。

 僕はリーゼの笑みをおかずに、弁当を食べていた。

 リーゼがいるだけで、どんなご飯もご馳走になってしまう。

 幸せを噛みしめながら、僕は弁当を食していた。

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