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第10話 おろしハンバーグ

 区役所に行くと、ビックリするぐらいあっさりと受理されてしまった。

 こんなに簡単に夫婦になれるというのか……


 ちなみに両親に電話で結婚することを伝えると勝手にしろとのこと。

 そんな適当でいいのかよ、お父さんお母さん。

 まぁ、リーゼと結婚できるから別にいいけどさ。


「じゃあこれからよろしくな、旦那さん」

「は、はい。よろしくお願いします、奥さん」


 リーゼはキョトンとし、そして笑い出す。


「そうか。私も奥さんか」


 何がそんなに面白いのだろうか。

 いまだ見たことないほどコロコロ笑うリーゼ。

 そんなリーゼも可愛く思え、僕は携帯で彼女の写真を撮る。


「? 何をしたんだ?」

「写真を撮ったんだよ」

「写真?」


 僕は携帯の画面をリーゼに見せる。

 すると彼女は自分の写真を凝視して、顔を赤くした。


「……今すぐ捨てろ」

「なんで携帯を捨てないといけないんだよ。これ、そこそこ高いんだよ」

「ほら。これをやるから捨てろ」


 そう言ってリーゼが僕に手渡したのは、大金の入ったキャリーケースであった。

 僕は仰天し、気絶しそうになる。


「ちょ……なんで家に置いて来なかったの!? なんでこんなところに持って来てるの?」

「? 別に持って来て悪い物でもないだろ?」

「心臓には悪いです。お願いだから僕を昇天させるような真似は止めてください」


 肩を竦めるリーゼ。

 キャリーケースを僕に手渡し、携帯をずーっと眺めている。


「しかし、これは不思議なものだな……」

「写真だけじゃなくて電話もできるんだよ。と言うか、電話の方がメインなんだけど……あ、電話っていうのは、遠く離れていても会話できる手段のことね」

「ふーん。結構便利なんだな。よし。私も手に入れるとするか」

「だったら、このまま携帯買いに行く?」

「ああ。そうしよう」


 リーゼは僕に携帯を放り投げて寄こす。

 僕は携帯をポケットにしまい、彼女の隣を歩こうとした……

 が、キャリーケースの中にある大金のことを思い出し、手足が震え出した。

 中身は……二億円から百万を引いただけあるはず。


「寒いのか?」

「違います。大金を持っているのが怖いんです」

「なんで怖いんだ? 魔物みたいなのが襲ってくるようなこともないっていうのに」

「魔物って何!? リーゼのいた世界にはそんなのがいたの?」

「ああ。魔物と戦って生計を立てている人間も少なくないと聞いている。ちなみに私も結構強いんだぞ」

「お願いだから危険な真似は止めて。僕と平和に暮らしていこう」


 僕は真摯にそう願う。

 リーゼが死ぬとか……想像もしたくないんですけど!


 リーゼは僕の必死な顔を見て、クスリと笑う。


「お前とはお前が死ぬまでは一緒にいてやる」

「……リーゼが先に死ぬ可能性は?」

「こっちの人間って、どれぐらい生きていられるんだ?」

「確か……八十ぐらい?」

「だったら私の方が長生きだ。その十倍ぐらいは生きてるだろうさ」

「…………」


 八百歳!?

 僕は仰天し、彼女の綺麗な顔を見て固まってしまっていた。

 そんなに生きられるの?

 そんなに長生きするの?

 ……そんなに僕は先に死んでしまうの?


 驚き、そして少し寂しさを感じる。

 できることならもっとリーゼと一緒にいたい……

 しかし、どう考えても八百年は僕には無理だよな……


 僕が俯いていると、リーゼはニコリと笑い、僕の肩に手を置く。


「せめてお前が生きている間は、私を楽しませてくれよ」

「……分かった。何が何でも楽しませるし、幸せにしてみせるよ!」

「ああ。期待してるよ」


 僕の短い人生。

 その全てを使い、リーゼを幸せにしてみせる。

 僕は暗くなってきた空を見上げながら、そんな風に決意していた。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 リーゼの携帯を購入し帰宅すると、彼女はそれが面白いらしく、ずっと操作をしていた。 

 機械なんて触ったことないらしいが、中々慣れるのも早いご様子。

 いきなり動画なんてご覧になっている。


 僕はそんなリーゼの顔を見ながら、調理を再開させていた。

 と言っても後は焼くぐらいだけど。


 楕円形の肉を焼き、その間に桂むきに失敗した大根をすりおろしていく。

 肉がこんがり焼けると、それを皿に盛り付け、上から大根おろし、そしてポン酢をふりかける。


 熱々の上に冷たい大根おろし。

 おろしハンバーグの完成である。


「ご飯、できたよ」

「ああ、ありがとう」


 リーゼの分は、500グラムのハンバーグ。

 これだけ用意しておけば、さすがに足りるだろう。

 と言うか、デカい。

 僕は300グラム。

 これでも小さくはないが、やはりリーゼの大きな奴と比べると随分小さく見える。


 彼女にフォークとナイフを手渡すと、音を立てずにハンバーグを切り分け、口にした。


「ん……美味しいじゃないか」


 彼女の嬉しそうな顔が僕にとってはなによりも幸福を感じる。

 僕が作ったハンバーグを喜んで食べてくれている。


 ガッツポーズを取り、僕もハンバーグを口にした。

 肉汁が口の中に広がり、ポン酢の酸味が肉のうま味を引き立てている。

 これは大成功といってもよいのではなかろうか。


 初めて作った料理であったが、自分としては大満足。

 リーゼも満足しているようで、ぺろりとそれを食べきってしまった。


「おかわり」

「え……まだ食べるの?」

「ああ。後これを十個ぐらいは軽く食べれそうだ」


 となると……5000グラム。

 5キロですよ!?


 僕はリーゼの勝ち誇ったような顔を見て、唖然としていた。

 よく食べると思っていたけど……フードファイタークラスだったとは。

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