開眼の儀
ウラディナが舞台中央で最後の星読みを始めたのを見てアダマンソルや村の住人達は儀式の準備に余念が無い、そんな中御婆がアステリオに桜石を額に押し当て悪戯して遊んでいるアーレスに向かって近寄って行く。
「若くて優秀な星占術師が生まれていよいよわしも御役御免じゃしアーレス様に少しだけ聞きたい事が有りましての、わしら天眼族の事でわしにだけなら話せる事も有るかと思いますのじゃ、それにもう少しすればウラディナがアステリオに瞑想魔術をかけて儀式の為の魔力循環と自己魔力波動と相性の良い星々の魔力波動が引き合う為に必要な魔力放出をうながさねばならんし、アステリオの宝石が何になるのか失敗は許されませんしの、そろそろアーレス様も邪魔にされますぞ。」
「ぐぬぅ、仕方ないねぇそれじゃ向こうで話そうかしらね。」
アーレスはまだ幼い世界樹の方に居る目深にフードを被った人物の方に歩き出した、遅れて歩き出した御婆が向かう先に居る人物に気付きながらも無言で顔を顰めしばし歩き御婆がフードを被った人物が女性だと認識出来る距離になるとアーレスが少しだけ早歩きになり女性に寄り添って・・・
「前にも見ましたが、それで誤魔化せて居ると本気で思ってます?羽衣三枚重ねにローブ風に加工までした羽衣を重ね着しているとは・・・なんと言って良いやら・・・。」
アーレスがフードの女性に耳元で囁いたが、相手はまだ何の動きも見せていない状況で。
「失礼ですが以前一度だけ御見掛けした事が有るような気がしますが・・・アーレス様・・・アーレス様のお知り合いですかのぅ、うーむ・・・どこまで聞いて良いものか・・・。」
御婆は悩んだ、踏み込み過ぎは災いにしかならんと心が警鐘を鳴らすのだ、しかしアーレス様は自分が聞いた質問の答えを聞かせる為にこの女性に向かって歩き出したのではないのじゃろうか?と、どこまで口に出してしまって良いのか悩んで動けなくなったのを見てアーレスが。
「御婆様、こちらは私の知人のアステリア様です、アステリア様、こちらはこの部族の長老のアッソル様で皆には御婆様と呼ばれております。」
「は?知人ですか?」
御婆が素っ頓狂な声を上げる。
「知人です。」
「イヤイヤ、しかしそのフードは・・・。」
「知人です。」
「そう言われましても、はいそうですかとは。」
「知人です!」
「・・・・・・・・・・」
有無を言わせぬアーレスの返事に御婆は折れ、仕方が無いので話の方向を天眼族の発現の理と、宝石眼の真の意味を聞こうとしたのだが。
「御婆様あちらでウラディナ様が大至急手伝って欲しいと呼んでおられます。」
儀式の準備をしていた下回りの若い女性が大急ぎで呼びに来たのを見て、星占術師としても星読みとしても文句無く自分より上だと思っているウラディナが助けを求める等有り得ない、そう思いながら「あぃ分かった。」と返事をして走り出した。
「主様、私も行かなければ不味いような気がします、側近誰一人連れて居ないようなので主様も御気を付け下さいませ。」
そう言って娘に向かって走り出したアーレスを見送りながらアステリアは周りを警戒しながらアステリオに向かってゆっくりと近付きながら呟く。
「いったい何が起こっている、折角私が名付け親になった子の儀式を見に来たというのに、ホメロ様にも『くれぐれも問題無きように見届けて来なさい』と言われているのに、それにしてもホメロ様のあの言いようはどうだ、まさか更に上からでも言われたかのような・・・まさか原初の・・・それこそまさかだな、とにかく現在置かれている状況を何とかしないと。」
アステリアがアステリオにもう手が届く距離に来た時、星読みの為に設えられた祭壇の方から声が上がる。
「お母様、瞑想魔術などまだ掛けては居ないのにアステリオから放出される魔力波動が大き過ぎてもう私一人での星々の道引きは無理です、お母様にはアステリオから星々に道引きされた魔力をアステリオの体内を循環している魔力に何とか戻す事を、御婆様には比較的近くの星への道引きの制御をお願いします、私は遠方に手を尽くしますので他の皆様も篝火の間に魔力の導線をお願いします!」
集落の者達全員大慌てで動き回っている中で、アステリアが祭壇奥に居るアステリオを冷静に見つめながら必死に考えるが情報が足りない。
「開眼の儀でこんな事は有り得ない、どうしてこうなる、原因が全くわからない、何故だ。」
アダマンソルの悲痛な叫びが聞こえた時、アステリアがアダマンソルの方を向いてその奥の異変に気付いた、アダマンソルの方向は先程まで自分が居た場所、世界樹が淡く光っていたのだ、謎は深まるばかりで愈々黙ってはいられなくなり、アステリオに手を翳して魔力の暴走を防ごうとしているアーレスに口と手同時に出した。
「アーレスよホメロ様より『恙無きよう』と言われている、手を出させて貰うぞ。」
「主様、私だけの力だけではこの暴走を歯止め出来ぬと焦っていた所です、暴走の理由に皆目見当もつかず、体に封じ込めるだけでも。」
アーレスが『願っても無い』とアステリアに向かい一気に捲し立てる中、手を翳してアステリオの体を調べ始めて驚愕の顔を上げながら。
「くっ、こんな事が、アーレス、今でも羽衣に波動調整された『光の力』を持っておるか?」
「有ります。」
「稀代の星占術師二人掛りでの『星読み』から道引かれたる『力』の道、魔力だけなら問題無かったのだが、これでは固まらん『宝石眼』になどならん、分離しながら固める為『羽衣』の力ならば何とか・・・すぐ私に寄越せ、私は余分には持っていない。」
アーレスは光の力の塊をアステリアに向かって放出した、アーレスから受け取った光の力だけでは足りなかったため自分のローブも使って何とか二重の層を持つ宝石眼が、大きくなると圧縮する工程を繰り返していく、アステリアの手元を見ながらアーレスが呟く。
「恐ろしい程の『魔力』を内包しようとしている。」
「ふぅ、魔力だけでは無いのだがなまあ良い、かなり安定してきた。」
アーレスに向かって安堵の顔を向けるアステリアは、作業を止め突然空を見上げ出した皆に気付き自分も明け始めた空を見たアステリアが叫ぶ。
「何だこれは!いったい何事だ!まだアステリオは安定していないのに、何という事だ!」
祭壇から駆け出したウラディナがアーレスの横に並び立ちながら。
「母様、そちらの方が息子の名前を・・・なれば息子、アステリオを。」
「わかっている、主様アステリオの事、何卒宜しくお願い致します。」
「くっ!こんな事になるとは、あ奴等も何と業の深い、これから私は自分の内包する力を全て使う、周りの者には済まないがな。」
アステリオの側まで来て囲んでいたウラディナやアダマンソル、御婆ら村の皆が笑顔を湛えて『有難う』や『お願いします』等々発しているのを見て、アステリアが力を開放した。




