神の誤算と魔力の発現
神の誤算と魔力の発現
アステリオの開眼の儀を控えて『星並びの時間』を待ちながら神々の伝承と自分達の原点を知る長老達から驚きの声を上げながら天眼族の歴史を聞いていた。
御婆は雲一つ無い天を仰ぎ見ながら口を開く。
「時にウラディナよ、儀式に一番良い時間まで後どれくらいかのぅ。」
「夜明け前、薄暗闇より明ける前あたりかと、まだまだ時間が御座いますよ、御婆様方長老の方達には大変かもしれませんが。」
御婆や村長、長老達が集まっている方に笑顔を向けて答えたウラディナに御婆は視線を天から周囲の者達を視回してからウラディナに笑顔を見せて話し出す。
「さて儀式まではまだまだ時間があるそうじゃし長くなる話に付き合って貰おうかの、神様達が人類をどうやって消滅させるのか話し合いを始めてからの事じゃな、創造神様方はまず数多有る星々一つ一つに監視者を置く事を決める、それまでは性別の概念に興味が無かった神様方も善と優の象徴としての女神を創造しこれを監視者とし、全ての星々に女神を配置するのにかなりの時間と力を使われ、人類が勝手に吸い上げて使っている星々の力とは別に女神達が采配して使える力を人類が手を出しにくい場所に巨大な塊として配置し、更に女神の行動に対し阻害とならぬよう完全に補助させる為に『思考の種』を植え付けたそうじゃ、他には女神様の仕事を手伝う為の天使様の創造と、神様方と女神様方の意志疎通や補助行動を素早く行う為の使徒様の創造・・・星々に対する影響を最小にしながら人類を消滅させる為の準備が終わった時、既に数十年の時が過ぎ去っておったそうじゃ、神様方と人類の時間に対する考え方があまりにも違い過ぎた事に気付かなかった神様達の落度じゃった、数多の星々の多くは既に死滅寸前まで人類に力を搾り取られており、人類が生息する星の上から人類を排除消滅させようと世界を睥睨した創造神様は言葉を失った、人類は勝手に星々を渡り歩き、侵略行為を働き更には星から星に攻撃を加えたり・・・時既に遅し、人類は宇宙を自由に飛び回っており、どこの星にどれだけ生息しているのか把握する事が出来なくなっておったのじゃ。」
御婆は茶を啜り目を瞑りながら続ける。
「神様達の作戦はヒト種の進化の凄まじさを甘く見たため全て失敗に終わったのじゃ、またもや創造神様達は女神様や天使様、使徒様など新たに造られし神様や側近の方々などまで交えた天上に住まう全ての者を集めての緊急会議を開いた、そこでは新たに創造して星々を監視させていた女神様からの考察と、それを基に細部まで分割しながら色々な統計を取り纏めた天使様による新たな角度からの考察がとても役に立ったそうじゃ、思考を持った種族は数多有るがそれらは分類上『獣』とされ行動原理は本能が優先され『本能=生命維持』が直結した種類であった、またその上位種として行動原理が異なり『本能』が直結しておらず、喜怒哀楽の感情を優先する種族が三つ確認された、エルフと呼ばれる『森人族』ドワーフと呼ばれる『土人族』そして件の『ヒト種族=人類』であったそうじゃ、ヒト種の進化の凄まじさの理由が分かったのは天使様の統計のおかげであったそうじゃ、ヒト種の輪転は十五年~三十年、つまり誕生してから次の世代を産むまで短くて十五年から、その後没するまで子を生し続けるのである、神様達が何十年と時間を掛けている間に何代も世代が変わっていたのじゃ『対抗策が過去の物』では謎が深まるわけじゃのぅ・・・まぁそんな時一筋の光明が女神様へ念話で届けられる。」
「我等女神様の星々の管理の為にと創造神様より力と知恵を授かった者、ヒト種の暴虐ですでに我らの星々は創造神様が星々の形成基盤とした光の力を湛えたる地脈がその地脈循環の為の世界樹共々枯れる寸前、補充の為に我の持つ創造神様より預かった光の力をそのまま使ってしまっては奴らに即吸い尽くされるは明白、そこで神の皆様に願う、奴らに搾り取られた力を取り戻して良いかと、光の力をヒト種に使えなく変質させても良いかと、尤も変質させる為に使う力はヒト種から頂く、奴らの生きる原動力となっている『欲望』という『悪の思念』を取り出し光の力に錬り込みたい、神の皆様には大変ではあろうが今から一気にやらねば手遅れになりかねん、全ての技術者のつくった機械から力を吸出す、星々から離れて宇宙に居る奴等の船の力は我が取り返すので動かなくなるであろうしどうせ消滅対象だったのならば悪の思念を限界まで搾り取っても問題無いと具申する。」
この念話の主こそ光の力の塊に知恵を与えられ勝手に自己改変してしまい、後々龍神と呼ばれる存在となる・・・と小さく御婆が言葉にし茶を啜り菓子に手を伸ばした。
「なぁ御婆様、菓子食って休んでる所すまんがちょっとした疑問なんだが、ヒト種の偉い奴らが大金使って買い集めてる遺物って、その使えなくなった技術の・・・機械とか呼んでたやつか?」
「よう気付いたの、では話を続けるぞ、ここからが我等種族発現の原因が起こる、まぁ神々全員ゆっくり考える時間を与えられなんだから返事もそこそこに皆が力を開放する、何せ神々様達は星自体には干渉出来るが、その星々に土着したあらゆる物達個々には制約により干渉出来んのだから、神々が解放した力を預かりながら・・・ええぃ面倒じゃから龍神としよう、その力を預かりながら龍神はヒト種と奴らに付随する全ての物に干渉し、盗られた力を取り返し、ヒト種の体の内外に纏わり付く悪の思念を分離させて塊とした、その塊こそが『魔』の発現である、そして大地より離れておったヒト種は機械の全停止により死滅した、更に生き残った者も大変じやったという、今まで培った技術が意味を成さず機械は動かないのじゃから、何もかもヒト種の者各々が手頭からやらねば生きて行けなくなったのじゃしの。」
「御婆様、続きを語るのを今少し待っててくれませんか、アステリオの儀式の為に湯を沸かしゆっくり体を拭いて穢れを落とし清くしてやりたの。」
「任せておけ、話は八割方終わっておるし、アステリオの為じゃしのぅ、ゆっくり準備して来るがえぇぞ。」
御婆が続きを語るまで時間を置くと言ったので、舞台周囲の篝火に薪を足す者や飲食物を充足させるために動き出すものなど皆で色々とはじめ出す中、身じろぎもせずに皆が集まる片隅で集落内では見慣れぬローブ姿にフードを目深に被った者を見つめるアーレスの姿があり、それに気付いた長老のグライが話しかける。
「何か気になるのかの?」
「あぁ、長老様何でも有りませんよ、ちょーっとだけ昔の記憶を思い出していただけですよ、それこそウラディナを産んだ頃の記憶をですが。」
村長は「問題無いなら良いんだ。」などと呟きながら気圧され気味に離れて行き、入れ替わるように笑顔を振り撒くアステリオを抱いたウラディナがアーレスに近付きながら話す。
「アステリオの事なのにお母さんが来ないなんて思わなかったわ、何かあったの?」
「何でもないの、ちょっとした事よ、さあ御婆様娘達も戻ったのだから話しの続きをお願いするわ。」
アステリオの笑顔に吸い寄せられるように歩き出した御婆にアーレスがアステリオの頬を楽しそうにつつきながら話の続きを促す。
「ぐぬぬ・・・覚えておれ・・・ふぅ、仕方がないのぅ、では続きじゃ龍神様の慈悲無き制裁によりヒト種は絶滅寸前まで減らされただけでなく、創造神様方の星々への干渉によりいかなる種族であろうと一定以上の強い悪の思念は『魔』となり恒久的に星々の大地に吸い取られるようにされた、光の力の地脈は吸い取った魔を浄化させる世界樹の元に運ぶ為の『龍脈』へと変化し、『魔』は浄化され『魔素』となり一部は光の力と融合されて『魔力』となり龍脈の維持に当てられ余剰分は魔素のまま大気中に放出され全ての星々は魔素で満たされた、それまでヒト種が利用していた『純粋な光の力』は完全に無くなった事で、それまで研究され培われた技術や機械、まさに科学の結晶はただの『ゴミ』となった、それに伴いそれまで他者を蔑み威張り散らしていた科学者達は社会のクズ、役立たずとして迫害され『科学』と共に消滅したそうじゃ、それから魔を浄化して魔素を分離された『思念の力』は世界樹の養分として吸収された、世界樹にも限りが有り・・・残滓は・・・まぁアレじゃ、塵も積もればでじゃな、長久の時を経て魔力の影響などもあり霊体などと呼ばれる『レイス』とか・・・うーむアーレス様に睨まれておるし禁則事項に抵触しそうじゃし・・・まぁ何にしても我らの種族固有の『天眼石』の元となる『魔力』はこうして発現したそうじゃ。」
ゆっくりと顔を上げながら目を開きアーレスに向かって御婆が言う
「アーレス様、どうにもここからは説明が難しいのぅ代わってくだされんか?禁則事項が怖いもんでの。」
頼まれたアーレスは無言で頷き立ち上がるのだった。




