賢者・・・
教皇姿の龍体と今後の打ち合わせの後あの子がこちらに向かって来るという事で私は見つからないように食堂から裏手を回り込み聖堂に向かう。
私は後悔しているのだろうか・・・あの日あの時アステリオを復活させた事を・・・
あの時から十二年が経った時、成人の儀を二人きりで執り行った、星の位置がまさしくアステリオの石と反応する時、賢者様の言い付け通り誰にも賢者様の事を話さず成人させ独り立ちさせたのだが・・・。
あの日の約束を守り通した事を思い憂う・・・。
『女神よ、我の声が聞こえるであろう。』
逆星読みを無事に終えたあとホメロ様達が今後について話し合っている傍らで優しくも力有る声が頭に響いたのを思い出す・・・。
「誰?」
思わず声に出しながら立ち上がり辺りを見回した。
『我は目の前に居る。』
「目の前?・・・まさか!」
私はゆっくりと視線を下げ眠っているアステリオに視線を合わせながら。
「賢者の石・・・賢者様なのですか?」
ホメロ様が言った事は本当であったと内心呟きながら語り掛ける声に震えながらも返事を返した。
『賢者の石か・・・間違ってはおらぬが少々異なる。まずは礼を言おう、我は其方の術とオリジンの思惑とが相容れた時オリジンから欠片として放たれた、其方の術は全ての理を無視した物ではあったがオリジンがそれを容認し手助けした事により全ての理を内包する賢者の石に我の、オリジンの欠片という神威を纏う容となりえたのだ、この子には世界を変える力が必要とされたのだからな、あまり時間が無いから簡潔に説明するが良いな、我はこの子の生体の一部となっておるので赤子状態では短時間しか活動出来ぬしこの子の負担が大き過ぎる、星読みの儀にてこの子の星の位置や尊の星が分かったのであろうから我が反応し目覚めた時成人の儀を済ませ独り立ちさせるがよかろう、ただ一つだけ不安が有るが・・・成長してからでなければ答えは出ぬ・・・我はこの子の負担にならぬよう眠りにつく、それから主であるこの子含む全ての者・・・特に神々には他言無用にな頼んだぞ女神よ。』
「ホメロ様にもですか・・・分かりました約束致します。」
その後の私は任されていた星のヒト種と女神として初の接触に失敗、かの星においての神とは偶像崇拝であって真の神を崇める物では無かった。
失意のまま星の管理を保留とされホメロ様の言い付けを守りアステリオを家族として教育し育てる事に心血を注いだ。
アステリオが8歳を過ぎた頃から記憶を転写した器達が記憶の風化と共に動かなくなる者が出始めた、アステリオには他の村民の家に勝手に入る事を禁じていたため動かぬ器を発見されたりはしていないかったが・・・一部のアステリオに近しく消えられては困る者に関しては龍体に頼み分身で誤魔化したりもした。
アステリオは感情の起伏が乏しいので何を考えて居るのか分からない時が多く、私は彼の心を読むのに苦労した。
アステリオが10歳になった時、一年に1~3回ほど様子を見に来ていたホメロ様より管理の復帰を言い渡された。
あの星に降り立った者達と共にアステリオの生きる基盤を整え成人後のアステリオを陰ながら支えよとの御達しであった、それを私が疑問に思い何故そこまでして下さるのかとの問いに。
「彼の誕生と共に行った我等の禁忌を上は不問とし何のお咎めも無かった、第三世代とはいえ我とて上神そしてそれが疑問となり自分とそれを取り巻く神の実情を探ってもみたが・・・今はまだはっきりとは言えぬ、が、アステリオは我等の未来を左右する存在となりえるかもしれん。」
神の・・・神界の未来・・・ホメロ様の言葉は私の心に重く圧し掛かった。
「ホメロ様の命により戻って参りました、皆には苦労を掛けたと思いますがこれからも宜しくお願いしますね。」
その後天界に戻った私の事を温かく迎えてくれた天使、天女達、私の半身となる彼女達は私が不在の間の管理を任されていた。
復帰しての挨拶に彼女達が涙しながらお帰りなさいと言ってくれた。
「これからアステリオが成人するまでに彼の生活基盤となる場所を確保し、今後の生活や活動の手助けをする為の素地を確立しておかなければなりません、その為に急ぎ地に降り立った者達・・・エクシア達に連絡し繋ぎをとってください。」
龍体にも念話を飛ばし連絡が取れるまで何時もの場所にいますねと言って万年桜の木の根元付近に設えた椅子に座り桜越しに神界の空を仰ぎ見ながら力を抜きホメロ様の言葉を思い出す。
アステリオが神界へ与える影響とはなんであろう・・・。
最上神様が絡んでいるのだろうけど・・・。
あの子に過酷な運命が待っているのだろうか?無我夢中で復活させたのは私・・・。
手助けと言っても管理者として復帰したからにはこの星で個人的な理由で理を曲げるような手出しは出来ないし、龍体との打ち合わせが大事ね。そう思って居ると。
「アステリア様お待たせ致しました、そして管理者としての復帰おめでとうございます。これからもアステリア様の為私も粉骨砕身御助力させて頂きます。」
ティーセットを持った龍体が近付き頭を下げて声を掛けお茶の用意を始めるのを見ながら、有難うこれからも宜しくねと返す。
御茶の用意が終わったので一口頂いてから現在の状況を尋ねアステリオの事についても補足する。
「急に呼び出して悪いわね、この星は相変わらず・・・いえ前にも増して悪い方の魔が渦巻いている様に見えるわね世界樹が苦しそう・・・どうかしら?それからこの星に成人してからのアステリオが生活出来る基盤を整えておきたいの、何か良い案は無いかしら?」
「ならば私が天眼族の拠点として陽光教という宗教を御輿し彼らに活動させておりますので、その教会を生活基盤にしては如何でしょう?」
「陽光教?・・・確かこの星には数多の宗教が犇いていたはずなのに何故?・・・。」
「この星には邪教が大半、民の導きとなる宗教など海洋の中の砂一粒程も御座いませんよ、ならば真の神を崇め善なる民の・・・いえ民を善なる姿への導きとなる宗教をと思いエクシアと共に設立致しまして。」
紳士然とした笑顔を向けながらそう語る龍体の一瞬の陰りに気付き、私がこの星の人種との最初の接触が失敗に終わった事を嘆いていた龍体の姿を思い出し、私の為でもあるのでしょうねと思いながら。
「アステリオを教会に全て任せては独立させた事にはならないでしょう、エクシアも居るのなら付近に私名義の居を預け教会からは生活上の不足分の援助をして貰う形が良いでしょう、まぁアステリオには援助して頂いた分は労働で返させますし。」エクシアへの繋ぎも心配せずに済み安堵する。
「教会の総本山はシンクレティ教国の私の拠点でもある龍鳳山の麓に御座いますが、エクシアの拠点は10年前あの事件を起こした者共の国ズルワ帝国の帝都に御座います。ですのでエクシアを本山の教会に戻して準備致しましょう。」
あの子を危険から遠ざけていては成長の妨げになると判断し。
「今のままの態勢で良いでしょう、こちらの準備が出来次第地上に降りてエクシアに直接お願いしようと思っています。」
ティーポットを私のカップに傾け「畏まりました、エクシアには私が伝えておきます。」言いながら新たに淹れなおしたカップを私の前に差し出してから「早速準備に参ります。」一礼してから付近に居た天使達に声を掛け歩き出しこれからの行動を指図しながら天使達と共にこの場を離れた。
その後はアステリオとの生活、それと同時に管理する星の現状把握と成人後のアステリオが一人で生活出来るよう環境を整えながら二年が過ぎ・・・
『時が来たのだ女神、我の声に応えよ。』
その声は大きく私の心を揺さぶった。
普通なら年度末で忙しいのだが・・・コロナで書く時間が出来るとは・・・。




