未来と願い
「皆聞いてくれ、最後の天眼族を連れて来たのだが少々待ってて貰いたい、キャルとアレクは先に向こうに行ってくれ。」
そう言ってからホメロがキャルに近付き解術の為だと小声で言ってから送り出した。
「皆にはこれからの事を相談して決めて貰おうと思っているのだが…一つの道標として言って置かねばならん事があるのだが…皆が揃ってから説明しようと思う。」
あれが見えるなとそう言いながら手を女神の居る方に向け。
「あれが見えるな、女神の居るテーブルの上に籠が置いてある、あの籠の中に天眼族の未来が眠っている。」
集団の中の一人の男が問う。
「未来ですか…それはどういう・・・?」
「そう慌てるな、キャル達も時機に仲間と共に戻って来るだろう、詳しい話はそれからにしよう。」
ホメロの言葉を聞き皆が静かにテーブルの上の籠を見つめるなかホメロは龍神が居る方向からの魔力の高まりが終息した事を感知して念話を飛ばす。
『龍よ首尾はどうだ。』
『何とか無事に解術できましたが…少々問題が御座います。』
『問題?』
『解術中私が魔力操作を行った為にキャル様とエステル様が私の魔力を内包して融和し、石を最適化させたようで…他の方々は私の魔力に反発してすぐに体から排出したようで良かったのですが…まさか私の魔力波動と同調されるとは…。』
『後遺症でも出る危険があるのか?』
『いえ、魔力が高まったのと・・・魔力の自然回復力が著しく上がってしまって…それも魔力酔いを起こすほどに・・・。』
『・・・と・とにかく解術は成功したのだな。』
『はい、これからそちらの向かいます・・・道すがら二人には魔力が変化してしまった事を説明いたします。』
『わかった、私は女神の側にいる。』
その後ホメロはアステリアとアステリオの今後の話をして龍神がキャル達と戻って来たのを確認してから皆の元に戻り。
『さあ、これからの話を・・・天眼族の未来の話をしようか・・・と・・・その前にキャル達には逆星読みと開眼の儀を執り行ってもらおうか、それによって君達の未来が目を覚ますのだから。」
そう言ったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ エクシア ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私のここでの使命は三つ、この集落を襲った者達の情報と石の回収その後は成人された後のアステリオ様の為にこの星での生活基盤の確保、キャルの情報は本人に認識阻害の術が掛けられていた事もあり重要な部分が欠落している、襲った者達は間違いなくこの国の軍隊ではあるのだろう、天幕に入る際に見た制服を着た女性達は皆お揃いの綺麗な軽鎧と細剣を身に着け居ていたし・・・それにしても龍神殿・・・(もう天女ではない私が龍神殿と呼ぶのも恐れ多いか)龍神様達がこの世界からあちらに転移してからずいぶん経ったように思う、などと考えて居ると外が騒がしくなってきた、何かあったのだろうかと考えて外に出ようか迷っているとこちらに近付く人の気配を感じたので地面に手を置き龍神様に語り掛ける。
『誰かがこちらの天幕に向かってきます、龍神様の分体でも良いので他の子達の身代わりをよこしてはいただけませんか?今は怪しまれないように私が対処いたします。』
そう言い終えると天幕の出入り口付近で誰かの足音が止まり。
「星読み師殿居られるか?居られるなら返事を。」
「はい。」
外から小さな女性の声が聞こえて来たので少し間を置いて極力怪しまれないようにしながら静かな声で応えたのだが・・・。
「おおっ、やはり貴方も・・・少し話があります、入っても宜しいか?」
声そのものは大きくは無いが興奮したような返事が返って来た・・・何事か有った事は間違い無さそうなのですが・・・どうしたものかと思案していると足元から小さな龍神様の念体が現れた。
『その者はアンジュとか申す操られて居た女兵士、私が情報収集の為思念同調させたおり善性が強かった彼女は術に対してかなり抵抗していたようで私の介入により術の一部が解けてしまい意識が覚醒し仕方なく私の術で眠らせたのだ、その者には悪意が殆ど無いので敵意は無いと思われる。』
そう念話で語る小さな龍神様に、では大丈夫そうですので招き入れて対話してみますねと言い天幕の出入り口の向こうに返事を返すと念体が消え一人の女性が中に入ってくる、彼女は龍神様のおっしゃった通りこの国の第三王妃の近衛騎士団長のアンジュと名乗った。
「騎士団長様、それも近衛のアンジュ様ですか・・・どういった御用件でしょうか?」
外の騒ぎを無視して努めて平静にして聞いてみてから自分の失敗に気付く、行動を共にしている人をキャルが知らないはずは無いのだが・・・キャルから引き継いだ記憶に彼女の情報は無かったはず・・・術のせいだろうと思われるが・・・彼女に疑われるのは非常に拙い。
「おおっ、ちゃんと会話出来るという事は貴方も何らかの術を掛けられていたが解けたようですね、今まで数回お会いしましたが虚ろな目のままだったのが今は聡明な表情に変わっている、私も何らかの術で操られていたようなのですが先程意識がはっきりしてこのままでは拙いと思って貴方を探しておりました。」
私を探した?何故?そう思って聞いてみると。
「同じ操られて利用された者同士協力しなければこの状況は抜けられないと思ったからです、外がどうなっているのか分かって無いのでは?何故か先程からこの辺り一帯が魔物に襲われています、今はまだ兵士達が戦って撃退しては居ますが魔物は増える一方、そのうち数で押されると思われます。一旦外に出て見ればわかりますよ・・・操られて犯罪に手を貸した挙句魔物に殺されたのでは情けなくて・・・貴方のその力を貸して欲しくて探していたのですが・・・私も魔物の撃退に行きますのでもし手伝って頂けるなら向こうに居ますから。」
では失礼します。そう言って彼女は天幕から離れて行ったのと同時に龍神様の念体が現れて愚かな事だと呟いた。
「世界樹を弱らせたのだ魔の浄化が不完全になっている、そして如何な善良な者達であっても理不尽に攻撃され滅亡させられた魂は怨念という魔を纏う、天に召される時纏わり付く魔を神の禊にてこの地に魔を振り撒いて行く、よって周辺は魔溜まりとなり魔物を引き寄せるのは当然の事。」
私はなっとくしながらも龍神様ならどうにかできるのでは?と呟いた。
「馬鹿な!女神様を悲しませたあ奴等を助けろと?何の冗談だ、それよりエクシアよ魔物に石が喰われたらどうなるか・・・それにキャルの姿の器も急造品だ、何れ定められた肉体に戻ってしまぞ、世界樹の力も弱く魔に曝されたのでは光の力で造ったその器はそれ程長時間持つとは思えない、急いで石を回収した方が良いのではないか?キャルを含め助けた三人の少女達を探している奴等も居るようだぞ。」
先程のアンジュと同じ理由でしょうか?と言う私を見て龍神様が薄く笑い。
「利用価値の無くなった者の末路などどうなるかわかるであろう?殺され石を奪われて終わりだろう、あのアンジュとか名乗った女騎士は私が干渉して分かった事は善よりで悪意が小さいというより心根が真っ直ぐなのだろう、ここで切り捨てるには少々惜しいか・・・とにかく中央の天幕に石の波動を感じる、あちらでは逆星読みの準備が整ったので意識をこちらにまわせぬようになるし私はあまり石に触れる事が出来ないのだから。」
最後に頼んだぞと言い終えてから龍神様の念体が消えたのを確認して耳を澄ますと外の戦闘音と叫び声が聞こえて来た、天幕から外に出る為静かに出入り口の側まで近寄り辺りの気配を探る、羽衣を纏い誰も居ないのを確かめてから気配を消し外に出て中央の一際大きな天幕へ向かって走り出した。
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――――どうも思惑と違ったようだが成長が楽しみではあるか・・・まぁあの子には頑張って欲しいものだ――――




