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天眼の宝飾師  作者: 広大
第二部 天界の禁忌と更なる禁忌
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解術

「皆さま、下を向いて座り込んで居らずに立ち上がって前を向いては如何ですか?。」と執事姿の龍神が声を掛けると三人の体を爽やかな風が駆け抜ける、転移した先の小高い丘の草原は三人の娘たちに安堵させるだけの居心地の良さと優しい光に溢れていた。


 龍神の言葉を受けて「助かったの?」とセフィが最初に立ち上がりながら。

「もう大丈夫なんだよね?」と龍神へ問いかける言葉に「そうですよ、ホメロ様が向かった先に他の皆様が御待ちのはずです。」

 龍神はそう答えながら笑顔を向ける。


「大丈夫なんだって。さあお姉ちゃん達も立ち上がって歩き出そうよ。」

 座り込んだままのファニエに振り向きながら手を差し出した。


「ごめんねセフィ、安心したら体から力が抜けちゃって・・・ちょっと立てないや、姉として失格ね。」

 セフィは元気ねと続ける言葉に「エヘヘ。」と笑う妹を眩しそうに見つめる瞳から安堵の涙が溢れ出す、そのやり取りを見つめていた龍神が「来たようですね。」と呟く。


「お―い!ファニエ―、セフィ―。」

「エステール!」

 先に保護されたキャルやエステルの兄アレク、龍神がホメロに頼んでこちらに来てもらったのだ。


 駆け寄って来る二人を見て皆が笑顔で立ち上がる。

 一番に到着したアレクが妹を抱き上げて叫ぶ。

「エステル!怪我してないか?大丈夫だったか??」

「ちょっとお兄ちゃん、私は大丈夫だから降ろしてよ。」

 兄の行動にエステルは困り顔で宥める。


「皆無事で良かったよ。」

 キャルが声を掛けながらの笑顔は少しだけ不安を感じさせている。再開を喜ぶのも束の間龍神が口を開く。


「少々急では御座いますが皆さまには記憶の改竄が見られます、キャル様にも同様の術がかけられておりましたのでホメロ様が解術致しました、心を強く持っていなければ壊れる可能性も御座いますので私が心に介入しながら術を行使します、他の天眼族の皆様にお会いになられる前に解術させていただきます、キャル様、アレク様、術をお受けになる方達をお願いします。」


 分かりましたとキャルはそう言いながらファニエとセフィの二人に正面から抱きつきアレクも抱き抱えていたエステルを一度降ろして抱きしめた。


「これから起こる事は私も乗り越えた事、ファニエ、セフィそしてエステル、皆私の友人にして家族なんだから絶対乗り越えられる、頑張ってね。」

 キャルは憂いの無い笑顔で言い切り抱き締める両腕に力を込めた。


 気を確かにお持ちになっていてくださいと言いながら手を翳すと三人の足元に魔法陣が現れる。

 キャルは強い魔法力が仇となって強固な隷属の紋と術を掛けられていたが、こちらの三人は軽い術であったため龍神でも心を壊さず解術出来るとホメロに任されていたのだが、少しでも不安要素を取り除くためにキャルとアレクを同席させたのだ。


「本当の記憶が徐々に自分の思考に呼び起されていく事に驚いているようですね、心を落ち着かせて私に任せ下さい、少しだけ私の思念制御が入りますが安心していてください。」

 キャル様とアレク様もお力添えをと龍神が言った途端少女達の呻き声が小さく響く、同族殺しを思い出し自分の心が押し潰されようとしているのだろう。


「皆!しっかり!」

 キャルの叫び声が響く。三人の少女達は唇を噛んで耐えながら「これが私達のしたこと・・・。」とファニエがキャルに泣きながら問いかける。


「思い出したのね・・・そう、いくら操られていたとはいえ私達は『同族殺し』を行った・・・だからこそ操られて居た事を逃げ道にせず贖おうよ、これからは同族の命を奪ってしまた罪を償う意味でも生きて残された私達にはやるべき事がある、わかるよね。」

 御願いだから皆も生きる意味を考えて意識を強く持ってと優しく語るキャルの顔は皆を安心させる笑顔があった。


 ホメロに指示されて歩き出してからキャルに先行させられた理由を聞き、妹のエステルに行われた残酷な仕打ちに憤りながらもまだ遠くに見える自分の妹から目を離さずキャルに。

「俺はどうすれば良いんだ?」

 そう聞いてキャルに『不安な顔を見せない。』『常に笑顔。』と言われた事を妹のエステルを抱き締めながら思い出しエステルにむかって笑顔で兄ちゃんが付いてるから大丈夫と声を掛けて励ましながら悲しみに歪む妹の瞳を見つめ落ち着くのを待った。


『フム、やはり主軸となって術を行使したキャル様と違って解術は簡単でしたが大量殺人、しかも同族殺しという記憶を一気に蘇らせてはいけませんね、三人の少女達の様子に気を配り記憶を操作しながらというのも骨が折れますね。』


 龍神がキャル様の時は記憶操作が遅れ失敗してしまいましたしと呟きながら一番幼いエステルの様子の変化に一旦記憶の流し込みに制御を強くする。こちらは大丈夫とファニエとセフィの制御を終了させエステル一人に集中しながら。

「エステル様、お心をしっかりお持ちになってください、アレク様、他の皆様もエステル様にお声掛けをお願いします。」

 これ以上沈んでしまいますと傷が大きくなり過ぎますと言いながらエステルに両手を翳す。


 龍神の声に押されてファニエとセフィは自分達が落ち込んでいたのも忘れキャルと共にエステルとアレクを囲んで「一人じゃないよ、皆ここでエステルが元気になる事を願ってるよ。」と声を掛けはじめ間も無くエステルがお兄ちゃんと呟きながら顔を上げ、皆が泣きながら安堵した。


 龍神はその光景を見つめ落ち着くのを待ってから声をかけた。

「どうですか?落ち着かれましたか?それぞれ思う事が御有りになりますでしょうが私は多くを語りません、皆様が前を向いて歩き出すのであれば後押しする事を押しみませんよ、向こうでホメロ様や皆様の同胞の方達が待っております。ああ、キャル様とエステル様には後程お話が御座います。」


 ホメロ達が居る方向に手を指し示しながら参りましょうと促した。

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