キャル
『まだエクシアが行動していなかったのだななれば先程の話を聞いていたなら分かるだろうがウラディナの石が必要になった、龍体と相談して何とか手に入れてくれ頼む。』
ホメロ様が急ぎ指示を出すと龍神殿が賊の女と共にホメロ様の元に現れ私も一旦ホメロ様の所に戻れと言われたので結界内を急ぎ走り出した時ホメロ様と龍神殿の会話が飛んできた。
『ホメロ様この者キャルという名前に御座います、このキャルの体を調べてみてください話はそれからです。」
『私はホメロ君の体を調べさせてもらうよ。」
会話が終わり暫くしてから私が到着した時にはまだホメロ様が彼女に目を瞑り手を翳していたが、少しして手を放しゆっくりと目を開ける。
『これ以上この場所で調べるのは危険だ、君の波動が漏れてはマズイから場所を変えさせて貰おう一旦キャルと私でここを離れるぞ、アステリアの元に向かうがエクシアは彼女のテントに飛ばすので周囲を探って居てくれ、龍体は一部をアステリアの元に良いな。』
皆が頷くのを確認してホメロ様達が消えた、龍神殿は私をキャルが居たテントに一緒に飛び術で周囲を探る時は地に手を置いてから術を発動しないと龍神殿の分体と情報共有できないので気を付けろと言われ頷く、その後龍神殿の気配と共に実体が消えた後一旦瞑目してキャルの記憶を精査する、彼女の感情的な部類と遠い過去の記憶は鍵が架かった状態・・・だが・・・一部外部からの改竄の痕と思われるような鍵痕が有る・・・ならば尚更開けないよう気を付けなければ拙いし感情は同情心で動きを鈍らせる、彼女と一緒に行動している羽衣のローブを纏った魔術師は五人、そのうちキャルを除いた四人のうち三人が奴隷で魔力が異常に高くキャルとの仲間意識が強い、表向きは魔術師団長はキャルだが奴隷では無く魔力が並位しかない一人が指示を出しているらしいし隷属紋で縛られキャルは完全に逆らえなかったようだ、整理しよう。
ファニエが19歳で一番の友達でセフィが17歳でファニエの実の妹、エステルが16歳で最近仲間にされたようだ、そしてキャルから憎しみを感じるキンム・クミジャが監視役で苗字持ちって事は貴族か・・・とにかくファニエと接触を図る為まずは周囲の気配を探る。
『何か分からないが嫌な気配を感じる。』
私は地に手を当てて龍神殿にこの気配が何なのか調べて貰う為念を飛ばすと。
『暫し待て、こちらはホメロ様がキャルの深層を覗き始めるのだ。』
『わかりました。』と返し簡易寝台に腰掛け落ち着いてゆっくり待つ事とした。
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「アステリアよこの娘はキャルだ星落としの術を発動させた本人だ、言いたい事は後で聞くこれからキャルの体を調べねばならん、キャルよ慌ただしく連れ回し済まぬな龍体より聞いて居るだろうが私は創造神ホメロだ、今から術を発動するのでテーブルから距離を取ってその羽衣を解除してくれ。」
私は体の内外に纏った全ての羽衣を解除する。
「・・・やはりそうか、調べるまでも無いな天眼族の末裔とは・・・ヒト種では有り得ない魔力の内包も天眼族なら当然か、しかも羽衣を石に纏わせて種族を隠し通すとは・・・元来羽衣は天女以外は自在に使えなかったのだが石を包むとなると女神しか・・・その前にキャルよ誰かに術を掛けられたようだが覚えて無いか?お前の恨みの矛先が弄られているようなのだが解術は後でするか、では話してもらおうか。」
ホメロ様に聞かれて連綿と続く先祖からの伝承を語り出す。
「私の・・・いえ私達の御先祖様は天女様だと伝えられています、御先祖様は天眼族の男性と結ばれ男一人女二人の子に恵まれ集落で静かに暮らしていたそうです、ヒト種の襲撃が襲い掛かるまでは・・・その襲撃により夫を殺され娘二人が攫われてしまい逃げ延びた地で残された息子と二人で仲間を募り攫われた娘達を取り返そうと逃げ延びた地を離れたそうです、その時の仲間は御先祖様親子二人の他天女様が二人と天眼族が八人いずれも自分の最愛の者を殺されたか恋人や娘を攫われた者達だと伝えられています、私の御先祖様と他二人の天女様達は女神様に心配させてはならないと龍神様の手を借りる事を拒んだそうです、龍神様に見つからないようそしてヒト種にも疑われないようにと天女様方が羽衣の使い方を皆に教え石に纏う方法を考案して授けたそうです、その後御先祖様達は攫われた同族を見つける事叶わずヒト種が同じ事をした時に抵抗出来るようにと、天眼族が大手を振ってこの地で生きて行けるようにとヒト種に紛れ地下で活動しながら天女様方は『いつか天に召され女神様の元に戻る』事を願いながらダンジョンにて永い眠りにつき、御先祖様方は『いつの日か女神様が気付き助けてくださる』との言葉を信じそうなる事を夢見ながら子孫を残し頑張ってきたのですが、羽衣の力が少しづつ弱まり石に纏っても魔力が漏れ出るようになり私達若い世代は襲われて奴隷にされてしまったのです。」
「そうか・そうだったのか・・・済まなかったなこのような事態になるまで気付けなかった・・・ふぅ・・・ではキャルよ思考の一部に隷属の紋と共に刻まれた術から解放しようか、龍体よ彼女の心を守れ。」
「アァ・・・アアァ・・・ゥアアアアアアアアアアアアア。」
私は泣き叫んでいた・・・ホメロ様の術が発動し私の心に刻まれた『同族殺し』
龍神様が私の感情を抑制しようと入って来るが私はこの罪の重さに耐えられない・・・そして同族殺しをさせたヒト種への憎悪が渦巻き魔力が暴走する我等種族は善を是とする種族、復讐は有り得ないならば死を願う・・・叫びながら跪き死のうと暴走した魔力を開放しようとした時背中から誰かに抱き締められた。
「御免なさい御免なさい御免なさい・・・私が愚かだったから星の管理を任されておきながら貴方たちに罪を犯させるまでその存在に気付きもしなかった、貴方の存在が罪だというならそんな貴方達を生み出したのは私、全ては私の罪なのよ貴方が全てに絶望して消えようと思うなら女神の私の願いとして生きて欲しい・・・御免なさい・・・そしてお願い・・・」
私の肩に背中越しで顎を乗せ頬を寄せて語る女神様の暖かな物が私の頬に伝い落ちる、私の心の枷を溶かすように・・・それでも私は叫ぶのを止めない溢れ出る涙は止まらない『自分の心が弱いから奴隷にされたのだ』と『心に隙があったから術を受け洗脳されたのだ』とだからこそ『同族殺し』は自分の罪で『そんな私に生きる価値は無いのだ』と・・・そう叫びながらもそれを許してくれる存在に請い願う。
「助けて・・・ください・・・」
声が枯れるほど泣き叫んだ私が言える事はそれだけだった。