驚愕
アステリアが羽衣の力の塊をアステリオの眠るバスケットの側に置いて溜息を付きながら静かに椅子に座る、それを見て兎人族疑似メイドが新しく入れ直した紅茶を差し出しながら声を掛ける。
「それ程心配なさらなくてもホメロ様は之迄の事を知って行動し始めました、もっと気を楽にして明るい未来になるようにアステリア様も前を向いて頂かなくてはね、皆がそう考えて行動すれば悪い事にはならないと思いますよ。」
ゆっくりと紅茶を飲みテーブルに両肘を突いてカップを両手で包みながらアステリオを見やる、張り詰めていた心がユックリと解けていき自然と笑顔が零れた時自分の進むべき道が見えた気がして龍神を真正面に見据え感謝の言葉を綴り始める。
「この星の監視調整役の女神としてホメロ様より生み出されて早二十万年、今まで支えてくれて有難う、私は自分だけでは何一つ出来ない事に気が付きました、あなたに感謝の気持ちを言葉にするのにこれ程の時が掛かってしまう愚かな私です、ホメロ様から女神を降ろされるかもしれませんがこれからも私を支えてね。」
女神だけを必死に守護してきた龍神の全てが報われた瞬間だった、アステリアは涙を滲ませながら笑顔で感謝の思いを伝え終え静かに頭を下げそのままゆっくりと椅子に座り直して紅茶のカップを両手で包み、カップとその先に映るアステリオを慈母の眼差しで見つめ、その後ろにはアステリアの斜め後方で両腕を体の前後に折り曲げて頭を下げたまま身じろぎしないメイド姿から執事姿に変化した龍神がいた。
「どうかな落ち着いたかな、良い意味でかなり力が抜けたようだね。」
だいぶ離れた場所に飛んで戻り、歩きながらアステリアに向かって声を掛けるホメロ、しかし先に答えたのはアステリアの為に執事姿に変化し付き従う素振りを見せる龍神であった。
「これはホメロ様お早い御戻り感謝します、女神様も落ち着きを取り戻し私共々準備に抜かりは御座いません、アステリオの方も何ら問題無きように思えますが、畏まって上申したい事が御座います。」
つい先ほどまでヒョウヒョウとしていた龍体のあまりに真面目な態度に引き気味に『うむ』と小声で返事を返していると、執事がアステリアの正面の椅子を引き座るように促してからホメロの分の紅茶を入れながら『落ち着かれてから話します』とアステリアにも紅茶の御代わりを入れようと移動し、全ての動きを終わらせてから徐に口を開く。
「まず開眼の儀を完全に慣行し最後までやり遂げねばアステリオが自身の力に呑まれ消滅してしまうでしょう、それから彼の宝石眼は宝石ではなく『宝珠』です、私達の星々に対る『共鳴共感』がアステリオにも反応し彼の宝珠はヒト種が悠久の時を超えて追い求めているモノで発現は世界初となります、それが核となり光の力が周りを覆うように力が石化して一つの宝石眼となるようですが、儀式が不完全でしたので固まらず流動化したままで心臓を覆うはずの力をも巻き込んでしまい混沌とした力の暴走を女神様の結界で抑えている状況です、なお彼の宝珠の発現は儀式中において我々の力の介入、まぁ一番の責任はヒト種の放った星落としですがその事を念頭に置いて判断して頂きたいのです、ホメロ様には多大な働きを要求してしまいますが我々の為、アステリア様の為にも宜しくお願いします。」
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「何と、宝珠の発現とは詳しい話は後で良いが私達だけで儀式の続きが出来るのか?アステリオの道を開くには星読みが必要では?既にこの世に星占術師がいないはず力は貸せるがこれについてはどうにも出来ないのではないの・・・まさか何か秘策があるのか。」
「この星はホメロ様が時間凍結させてますが、件の星は現在深夜ですので何かと介入しやすいと思われますので神様方からお許し頂ければと、ヒト種の集団に天女かこちらが操る器かを潜入させなければならないと思いますので禁忌に触れる公算が高いかと思われます、事の次第は私達龍体が神様方に説明致しますのでホメロ様には神様方との交渉をお願いいたします。」
「なるほど分かったこれから初代様方の元に飛び許しを頂けるよう交渉してこよう。」
会話が終わると執事はアステリアにむかい。
「アステリア様には潜入させる天女に連絡をお願いします、私は一旦初代様達の元に説明に向かいます。」
そう言い終えてから姿が掻き消えた、アステリアは自分に付いて来ると言ってくれた全員の側近達に連絡を取り今迄の事を説明、準備を願って焦る事無くゆっくりと紅茶を飲んだ。
「何だあれは!『こんな事態の為の第三世代ではないか』だと!他神事では無いだろうに我関せずな態度はおかしいだろう!挙句『自己責任』とは・・・ん?おおっ・・・これがアステリオの力か、負の感情が持って行かれるではないか、恐ろしい力ではあるな・・・ふぅ強制的に落ち着かされるとは、まぁ良いかとにかく『好きにしろ』との事なのだろうな、少々混乱してしまったようだ落ち着こう、紅茶はもういいから水を貰いたい。」
ホメロは同じに戻って来た執事姿の龍体に向かって言った後椅子に座り目を閉じた、そして暫し間を置いてから口を開く。
「まずアステリア、ここに潜入させる天女を来させなさい、龍体は向こうに残る分身の持てる力全てを使って状況把握に努めろ、こちらの龍体は私に向こうへの潜入が何故難しく無いのか説明を求む。」
アステリアが側近達に念話を飛ばす中、執事がホメロの側まで歩み寄り怒りに震える声で語り出す。
「向こうの認識阻害の方法が天女の羽衣の使用、こちらも天女の羽衣を纏っての潜入です、まず異物としての認識は困難かと思われます、更に許されるならば向こうの魔術師の一人と入れ替わろうかと考えて居ましたのであまり深く介入して禁忌に触れる事を恐れておりました。」
大慌てでホメロが言い返す。
「チョッと待て、向こうも羽衣を使っていると断定とはどういう事だ、羽衣は天女の秘術だぞ。」
「少々端折り過ぎましたね、ホメロ様は天女達が地上で子を生した後、天界から降り立った時に持っていた光の力がどうなるかご存知ですよね、子に分け与えた分の力は天界との縁を切ってしまった天女には補充が効かないのでその時点で寿命という概念が発現します、そして彼女達は自分達の墓を一人一人自分の思うように好きに作り上げました、一番人気だったのが所謂『ダンジョン型』ですね、子孫に墓守を頼み安らかに天へ召される事が彼女達の願いだった、その墓を暴いたのでしょうだから羽衣を持って居た、それにあの村周辺にはなぜか星占術師の瑠璃石が三つ有る、だからこその『星落とし』でしょう、持ち込まれた瑠璃石はヒト種の誰かが天眼族の誰かを殺して奪ったのでしょう。」
ホメロが湧き上がる怒りの感情を抑えながら現れた天女三人に準備が出来次第向こうに飛ぶと言い渡し、静かに準備が整うのを待つ、程無く全て準備が出来たと言うアステリアの言葉を聞き『アステリアよ朗報を待て』と言い残し皆の合意と共に飛ぶのだった。