謎
ホメロ様の言葉に少しだけ冷静さを取り戻し、一度に色々な事を考えるのやめた、何をどうするかではないのだ、『何を』とは、思考の前提が間違っている。
『アステリオの事だけ考えよう。』
そう思えた時、自分の中で凝り固まっていた焦りとも思える強迫観念にも似た思考の渦が溶けて消えた。
心が軽くなった、全てを護ろうなどと、傲慢な考えだ。
『何も出来なかったわけじゃない、命を救った。』
ああ、そうか、そういう事か・・・自然な笑みでバスケットの中で眠るアステリオに語り掛けられる。
「今日の私は泣いてばかりだ、なぁアステリオよ私はあの時村の者たちの思いと一緒にお前を助けた、あの瞬間私の心はお前に救われていたんだな。」
私はバスケットをテーブルの中央へ押し出し、人型に変化して小器用に紅茶を入れる龍神に向かい。
「私がやりましょうか?」
「女神様がですか?」
疑問形の返事にむっとしながらも笑顔で答えようと思ったのだが・・・
「女神様のティーセットが白を基調としたかなりの物ですし、新しく出来た星なので空中の水分を集めてみましたが、かなり柔らかい印象ですし、茶葉は中々標高の高さが感じられますしかなりの高級茶葉です、まぁ思ったより細かいので少量でも味が短時間で出ますでしょうからそれ程お待たせしませんよ。」
と捲し立てて茶器を自分の力で温めだした。
『危なかった私より器用だし知識も高い、普段側近にさせて自分ではやっていないのが龍神には見抜かれる。』
龍神の女子力の高さを心のメモ帳に彫刻刀で刻み付けた。
『くっ!ホメロ様の前で!私は負けて無い!』
「いつまでじゃれている、龍体もアステリアを元気付けるならもっと分かりやすくやれ、とにかく茶を飲んで落ち着いてからアステリオを調べさせてもらう。」
私は横目で何事も無かった様に無表情な龍神を睨みがら頭を下げた、それを見てからホメロ様は徐にバスケットを引き寄せてから両手を翳し。
「皆との情報を共有するため気付いた事は全て口頭で伝えよう、では始めようか・・・肉体外部に問題は無いようだ、中を診てみる・・・脳に一部何かの感覚器官と思われる部分が有るが概ね問題は無い、脳幹においてはヒト種と比べ驚異的に発達しているようだ、五感も全て大丈夫のようだが瞳から延びる視神経の経路に一部謎な部分が有るな・・・次は内臓部分だな、特別な器官は見られないが、心臓と肝臓の一部が大きいようだが問題にはならない?いや待て心臓を何かが纏わり付いているのか詳しくは後だ・・・取り合えず宝石眼だな・・・アステリア、結界は二重にしているのだな?」
「はい、謎の部分があり、分離させなければ固まる様子が見られなかったようでしたので・・・。」
私が答えると、ホメロ様が目を瞑り上を向き暫し悩み何かを呟いた後溜息をつき。
「暫し様子見が必要か・・・アステリア、開眼の儀は全て恙無く終わったのか?不思議な現象が多すぎる、儀式の時何があったのか情報が欲しい、もし私の考えが当たりなら大変な事になる。」
それから私はあの時の記憶を全てなぞりながらホメロ様に語った、そしてホメロ様は疑問点が三つ有るという。
「良いか、まず一つはアステリオの母親のウラディナが御婆のアッソルに助けを求めた事だ、ウラディナの星占術師としての力は当代随一だ、確かに星々との道引きは数が多ければ捌くのが大変だろう、星々の道引きとは『属性の星との共鳴と星の記憶の共有』例えばアステリオの父親のアダマンソルは『金剛石』の属性だったから、道引き反応は星々の属性波動でその星で一番高いのが金剛の波動だったはずだ、ここでウラディナ一人で十分な理由は『範囲』だ、波動の共鳴は相手の星がこちらからの波動を受け反応して『星の力』で共鳴波動を返す、ウラディナだけでさばけぬ程の遠くの星とは何だ、遠くてもこちらに届ける力を持つ星とは?」
「次の疑問だ、アステリアの要請でこの星を創った後、この星に実体化して降り立った瞬間に見たアステリアに纏わり付いた負の思念のようなものをアステリオが吸収したように見えて驚愕したのだが、有り得ないと自分で納得していたんだが、その後一旦離れてから戻った時に確信した、戻った瞬間に見た女神には有ってはならない事だがアステリアの体に纏わり付いた『魔』の思念がアステリオに吸収されたのだが、何の現象だ?何故アステリオは平気なのだ?」
「最後に、宝石にならない、いや、固まらないと言えば良いのか?この星であれば誰にも迷惑が掛からないんだから、アステリアに結界を一度解いてもらい様子を見たい、かの星と同じ環境にするべきか・・・アステリアよ羽衣を取り寄せてくれ、我は星に降り立つ事は禁忌なのだが喫緊だしな、龍体よ一度母星へと戻り魔力を纏って来てくれ、準備が整いしだいアステリオの結界を開放しよう、それからアステリアよ、自分と向き合えば今後の行動も見えてこよう、時間は有るからお前の意志と側近達の思いも尊重しよう。」
謎が多すぎてアステリオが心配なのだが、私に出来る事は多くないと思いながらホメロ様の言葉を聞き、私は側近達に連絡を取った。