魔錬の宝飾師
魔錬の宝飾師
「お前の体から溢れ纏わり付いているモノを俺に売ってくれないか、売ってくれるならその消えかけているお前の命の灯を永らえさせて見せよう。」
小さな町の外周部、魔物の侵入を防ぐための防壁に凭れ掛けながら黒い布の上に少しばかりの宝飾品を並べ、厚手のローブのフードを目深に被った少年が、強く握り締めた左手の内側を少しだけ光らせながら自分の腰のあたりを力無く掴む手の持ち主に小声で同じ事を尋ねる。
「お前の体から溢れ纏わり付いているモノを俺に売ってくれないか?」
「たす・・・け・・・」
彼女が口を開いて喋り出すのと同時に、少年の左手が彼女の胸部に当てられ光が体内へ消え入る。
「よし、契約は成った、もう死にはしないが壁側に寄ってしばらく休んでおけ。」
そう言ってから少年は彼女を壁側に寄せ荷物袋から大き目のローブを出して頭からすっぽりと被せ、足首にあるわざと付けられたであろう腱への傷と彼女の首筋にある隷属紋と首輪を目立たぬようにし、手の中で魔法水で小さめの布を濡らして彼女の口に当てた。
彼女を殴り飛ばした奴隷商が、静かに舌打ちして離れていく、衛士が寄って来たのだ。
「おい小僧そこに転がってる奴隷の死体片付けておけよ、せっかくお前に商売させるために俺達が確保した場所だ綺麗に使ってくれねぇと俺らに入って来るアガリが減るからな。」
下卑た笑いを残して門を守る衛士たちが戻って行った。
「さてどうするか・・・まぁ上客が現れたんだから帰るか。」
広げていた荷物をたたんでから、死んだように眠る彼女を背負い門とは逆方向へ歩き出す、俺は町の住人ではないし近くに住んでいるわけでもない。
街道を西に向かって歩き衛士から見えなくなった辺りで森側に体を寄せ、周りを警戒しながら森の中へ入り転移でねぐらへと戻る。
連れ帰った彼女も少しずつ傷も癒えて快方に向かっている、外部から魔素を取り込み自分の魔力と錬成して彼女と契約した魔力回路に割り込み少しだけ生命魔力を流し込んだ、もうこのまま休んでいれば1~2日で目を覚ますだろう。
夕食を済ませて長椅子で寛ぎながら伸びをし、ベッドの上で寝息を立てる彼女を横に見てねぐらにしている地下室から表に出た。
俺が活動している大陸には四季があり、現在は雪も解けて春の色に染まりつつある、俺の周囲の土も最近までは雪を被っていたのだが今は緑色へと変わっている。
広い範囲に点々と廃墟とも呼べないような焼け跡に瓦礫が散乱している中で小さく呟いた。
「どうしてだろうな、彼女から懐かしさが垣間見えたような・・・」
彼女の内部『心臓や肝』から溢れ出した叫びが見えた時、何故か昔を思い出した。