プロローグ もの静かなバイオリニスト
どうも、作者のあたっちめんとっ!です。
この作品を書くに当たって、途中でデータが消えてしまったりしてしまったこと、携帯から完璧に打って、PCは使わないぞと思っていたこと。すべては私の良き思い出です。
これからがんばって連載していきますので温かい目で見守ってください。
※作者はまだ学生ですので、誤植等あるかもございません。ご了承ください。
これは、魔法が人々の生活を助けていた頃、旅をしながらバイオリンを弾き歩くバイオリニストの物語・・・
「次の街でも演奏が出来ればいいが・・・。」小さな荷物袋とバイオリンのケースを持った若い男は静かに言った。
とはいえ街から街までは近いとはいえない距離だ。当然、何処かの村に立ち寄って食料を調達したり休養をとらなければならない。
そして次にこの男が訪れる村は広大な平原に麦畑が広がるラス村である。
村では祭の準備をしていた。おそらく麦の収穫祭だろう。
村に着いてその男は、まず村の中心にある噴水に近づき、水を水袋に汲み、一口飲んだ。
「久しぶりだな、こんなに澄んだ水を飲むのは・・・。」男は一人呟いた。
その後、男はとりあえず宿を捜した。
“小麦色の金木犀”
この宿に入り、宿主に尋ねた。
「この村にこいつの演奏が出来る場所はあるかな?」バイオリンを指差して男は言った。
「へぇ、あんた、演奏家さんかい?この村は何処ででも演奏は出来るぞ、まぁ人の多い場所で演奏したいのなら、村の真ん中にある噴水の周りだな。今晩は収穫祭の1日目で村長が祭りをひらく宣言をする日だからそこが一番だ。」宿主は言った。
「ありがとう、行ってみるよ。」男は、宿を後にした。
収穫祭が始まるまで、少し時間がある。
男は、酒場に入って一息ついた。さすがに祭りの前ともなれば酒場も、かなり賑わった様子だ。
そこは、酒場といっても調理台やかまどが姿を覗かせた、定食屋のような店である。
酒場には人が多く集まるため、自然に情報が集まるという。
男は、次に目指す街までの道のりや盗賊団が出るかもしれないということ、楽器の職人や音楽に関係する人の事などあらゆる情報を集めた。
そして、男は酒場を後にした。
夕暮れ時、収穫祭が始まろうという頃・・・
辺りは、屋台やら出し物やらで賑わっていた。
そして、村長が短めのスピーチを始めた。男も泉に寄り掛かり、バイオリンのチューニングを初めていた。
「今日は、半年に一回の収穫祭だ。今回の麦はもう借り入れるだけだ。皆、普段の仕事を忘れて楽しんでくれ。」村長が話を終えると、男はバイオリンを弾きはじめた。
祭りで賑やかになった広場に、バイオリンの綺麗な旋律が音を成していた。
ゆっくりとしていて落ち着きのある曲だ。さほど音量があるわけでもないはずなのに、村人たちの心の奥に響いていた。
高い音から低い音への"跳躍"、そこから階段のように繰り出されるリズム。
村人たちは、いつしかその音色に聴き入っていた。そして、この村では特に珍しい、不思議な出来事が起こった。その、バイオリンの音に合わせて泉の水が跳ね上がりはじけ始めたのだ。
この世界の物質には精霊と呼ばれるものが宿っている。水、風、炎・・・これらのものに宿っている精霊は、意思を持っている。
そして今、水の精霊が男のバイオリンの音に同調したのである。
泉の周りは、幻想的な雰囲気に包まれた。泉の水は花火のようにはじけ飛び、そのまわりは霧が張っている。
村人の心だけでなく精霊とも同調したそのバイオリンの音はかなり澄んでいた。
男は"跳躍"、"三連譜"を終え、高い音で一曲目を終えた。
村人たちは盛大な拍手を男に送った。
「いいぞ〜、バイオリニスト〜!」
「もう一曲行こう!」とアンコールまで送られてきた。そして、アンコールに応えて弓を構えた。
二曲目は一曲目とは対照的なアップテンポのなかなか速い曲である。
低い音から一気に高い音まで駆け上がり、高い音で伸ばし、テンポを少し下げる。
これだけ速い曲にもかかわらず、まったく音が乱れない。再び水の精霊が同調した。今度は、水のはじけ方が違った。
今度は水の階段を作るように綺麗に跳ね上がり、はじけていった。今回も、村人たちの心をつかんでいた。
二曲目を終えると、再びの拍手喝采に男は頭を下げた。
村人は礼儀として、銀貨を一枚ずつ置いていった。
男はバイオリンをしまって昼間訪ねた宿に向かった。宿主は笑顔で迎え入れてくれた。
「部屋を取るのかい?光栄だね。こんな偉大な演奏家をここに泊められて。」
と宿主は、快く歓迎してくれた。
今日集まった、銀貨を数えてみると、50枚はゆうに超えていた。
そして、次の日・・・
男は旅支度をすませて再び酒場を訪れた。
男が訪れたことに気付いた主人は男に声をかけた。
「いらっしゃい、なんにするかね?バイオリニストさん。」と男に注文を促した。
「じゃぁ、パンと卵を焼いてくれ。」男は言った。
「今日、もう旅立つのかい?来てからまだ一日だぞ?」主人はフライパンの上で卵を割って言った。
「すぐに旅立たなくてはならないわけではないが、街の方にも行ってみたくてね。」バイオリンケースをさすって言った。
「そうか、残念だな。またきたときに演奏を聞かせてくれよ。」主人は名残惜しそうに言った。
そして、男の前に焼きたてのパンと卵が出された。
「やはり、麦の村だな。パンがとても良い。」男はパンをかじって言った。
男は、食事をすませて、村人たちに別れを告げて村を出て行った。
街に向かって、男は歩いてゆく・・・。