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第9回〜冒険者ギルドを始めて訪れた件について〜

冒険者ギルド。

冒険者と呼ばれるモンスターを倒すことを生業としている荒くれ稼業を斡旋するための大型組織で、主にモンスター関連の依頼をクエストとして冒険者に提供し、達成した内容に応じて報酬を渡すことが大きな役割である。


ギルドは世界各地に酒場と併設した建物(拠点)を持ち、もちろんフォンベルグ国の城下町にも存在する。


リーエル姫の申し出で俺はギルドの酒場へと向かうこととなった。


「ここが、酒場ですか」


ガヤガヤと武装した男や女が呑み騒ぐ、そんな上品さの欠片もないところを訪れたリーエル姫の反応は好奇心に満ちてたものだった。


「すごい、夢にまでみた冒険者への入り口がここにあります!」


「さすがはお姫様、こういった施設には行ったことがないのか?」


「はい、わたくしは幼少の頃よりほとんどお城から外出したことがなかったですので……それよりもゆう様」


「どした?」


「わたくしたちは既に仲間です。対等の相手を様付けで呼ぶのはいかがなものかと」


可愛らしく頬を膨らませ、軽い注意をするリーエル姫。

くっ、だから可愛いんだよ!

俺がどんだけニヤけるの我慢していることか、教えてやりたいくらいだぜ。


「あっ、あぁ……それじゃあリーエルでいいか?」


「はい、よろしくお願いします。ゆう」


膨れっ面から一転、無邪気に笑うリーエル。

これは無双伝説よりも先に結婚ルートを急いだ方がいいのか?


「っかリーエル、そんなに堂々と歩き回っていいのか? この国のお姫様がギルドにいるなんて知れたら騒ぎになるんじゃないか?」


「そういうことなら心配は無用です。国民絡みの行事には王族の代表として基本的にお父様とお兄様が出席しているためわたくしの顔を知る者はほとんどおりません」


ふ〜ん。

隠れた民衆に認知されていないお姫様とか珍しいな。


「ところでゆう。どうやって冒険者ギルドに登録すればいいんですか?」


そういえば俺もレベル上げやら勇者の剣騒動やらでギルドに冒険者としての登録手続きをやっていなかったな。

これを機に冒険者になっておくか。

仕入れた情報によると、冒険者として正式に登録していない者は依頼を受けて報酬を貰うことができない、つまり仕事としてモンスター退治ができないらしい。


「俺も登録したことないからわからないけど、とりあえず受付のお姉さんにでも要件をいえばいいんじゃないか?」


「なるほど。わかりました! わたくし行ってきますね‼︎」


「いやいや、俺も一緒に登録するから」


高揚とするあまり先走りそうになるリーエルを宥めつつ、俺は受付嬢さんがいるカウンターへと向かう。


「すみませーん」


「はい! ご用件はなんですか?」


カウンター越しに呼びかけると、明るく、活発そうな印象を強く与える若い受付嬢さんが対応してくれた。


「俺たち冒険者ギルドに登録したいんですけど」


「ご登録の方ですね。それでしたらこちらの冒険者手帳にまずはサインをお願いします」


「あっ、俺は手帳はもう持ってるので、彼女の分だけで大丈夫です」


「はい、わかりました。それではこちらの手帳にサインをお願いします」


「わ、わかりました!」


リーエル、若干緊張してないか?

心なしか声も上ずってるし。

リーエルが手帳にサインを終えると、今度は奥から水晶体のようなものを取り出してくる受付嬢さん。


「続いてこちらの玉に手をかざしてください。こちらは人の魔力などに反応してその者のステータスを瞬時に読み取り情報化できる特殊な水晶体となっていまして、その人と適性の高い職業がすぐにみつかるようになっています」


「す、すごいです!」


緊張の趣がありながらも感動するリーエル。

今更だけど俺の職業欄って空白のままだったっけな。


「ギルドに加入せずともモンスターと戦う人はたしかにおりますが、その者とギルドが認めた正式冒険者の違いは職業に就けるか就けないかの違いがあります。もちろん職業とはその人の持つ先天的な体質が濃く現れるものですので、ギルドの非加入者でもその職業専用の魔法やスキルを習得することは可能ですが、自分の才能や特技を加入時に理解している者の方が圧倒的にそれらの専用魔法やスキルを扱いがうまくなります」


要はそこらの野良野郎とは完成度が違うってことか。


「それじゃあ、早速俺から自分の適性職ってやつを判断してもらおうじゃないか」


リーエルの結果は大体予想できるので、ここは未だ職業不明の俺が先陣を切る。

っか、ここで勇者なんて職業最初に出されちゃ周りが大騒ぎする+後から適性職を調べる俺の影が薄くなる。

それだけはなんとしてでも避けるっ……!


期待と不安が混ざる複雑な感情を抑えつつ、俺はゆっくりと水晶体に手をかざした。

さぁ、結果を聞こうじゃないか⁉︎


「はい、ステータスは平均値ですね。高くもなく低くもなく。これでしたら下位職でしたらなんでもなれますが、どうしますか?」


下位職業の一覧が記載された紙を渡される。

どうせこんな展開になるのはわかっていたから今更ショックなんて受けませんよぉ〜だ。


「えっと、じゃあ……無難な旅人で」


「はい、わかりました。それでは職業を登録しますので、冒険者手帳をお預かりしてもよろしいでしょうか?」


俺が受付嬢さんに手帳を渡すと今度はリーエルの番になる。


「それでは、こちらに手をかざしてください」


「わ、わかりました」


「そこまで緊張するほどのことじゃないぞ」


「は、はい。ご心配ありがとうございます」


毅然と振る舞っていたあの態度はどこにいってしまったのか。

これじゃあふつうの女の子だな。

ガチガチになったリーエルが水晶体に手をかざす。

果たして結果はーー


「ステータスは、平均値よりやや低いくらいですね」


「はっ?」


拍子抜けというか、意外な展開だ。

いままでのパターンからして、リーエルはとんでもない才能の持ち主なんてことが発覚するかと思ったが、意外や意外そのステータスは俺よりも少し低いレベル。

これじゃあ勇者どころか、下位職ですら就けるものに制限が出てくるんじゃ……。


「このステータスですと、いくつかなれない職業がありますね」


やっぱりか。


「そう、ですか……」


期待していた分、ショックがでかかったようだ。

そりゃあ勇者の剣を抜けた自分が低スペックだと知った日には傷つくだろう。

ここは、俺が慰めてやるしかなーー


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


なぜか急に声を荒げる受付嬢さん。


「就ける職業欄に勇者の名前があります! 通常いくつかの職業を極めないと就けないといわれている伝説の職業のはずなのですが……もしかして、あなたは?」


「はい、わたくしは先日南の村より勇者の剣を授かり、魔王討伐の旅をしている勇者リーエルと申します」


「ま、まさか勇者の才能を持つ人が現れるなんて……」


「あの、あんまり噂を広めたくないからこのことは内密にお願いできないかな?」


いまにも公表しそうな勢いの受付嬢さんに俺はそっと告げ口をする。


「わ、わかりました。勇者様ご一行の方がそういうのでしたら公にはしません」


物分りが良い人で助かった。

これで俺の面子は保てたかな。


「そうだ! 勇者様になら任せられる依頼が届いているのですが、早速受注しませんか?」


随分と切り替えの早い子だな。

さっきまでの驚きが嘘のように別の話題を振ってきた。


「どんな依頼ですか?」


「内容は近くの村を襲う山賊の退治なのですが……報酬がその村に伝わる秘宝らしいんですよ」


「その話詳しく聞かせてもらおうか」


「は、はい……」


光の速さで食いつく俺に若干引き気味の受付嬢さん。

匂うぞ!

その秘宝は勇者の剣に匹敵するほどの強力な武器な予感がする。

それを手に入れれば今度こそ俺のチートライフが始まる!


「その村は代々伝説のアイテムを祀ってある村なのですが、東の山にアジトを持つ山賊たちに村の食料を奪われ、このままでは村人全員が飢えてしまいます。そこで村を助けるために冒険者の派遣を依頼してきたのですが……」


「なにか渋る理由でもあるのか?」


「はい、実はその山賊たちが中々の強者でして、生半可な実力では敵わないとギルド側が判断したため、信頼に足る冒険者にしか受注させないという現状となってしまいまして……ですが、勇者様であるならその実力は問題ないです!」


あれこの子俺たちのステータス確認したよね?

もしかして、勇者なら奇跡起こしちゃうなんて甘い幻想を抱いている系?

ふっ、甘いな!

そんな幻想がいくつも壊されていくのを俺は経験した!


「そのご依頼わたくしたちがお受け致します! 勇者として困った村人を見捨てるわけにはいきません‼︎」


堂々と宣言するリーエル。

まぁ、俺も報酬が報酬だから拒否しないけど。

相手が山賊ってのが不安だなぁ。

俺がチート能力を使えれば話は別だけど。


「お受けしてくれるのですか⁉︎ ありがとうございます! 早速クエスト受注の手続きをして参りますので少々お待ちください」


「ゆう、わたくしたちの最初の依頼です! 絶対に成功させましょう⁉︎」


やる気に満ちた表情のリーエル。

ステータス的なは不安こそあるが、どうせ勇者の力が覚醒してすごく強くなるとかお決まりなパターンだろ。

これなら山賊退治だろうと心配いらない。

そうだかを括りながら、俺はクエストを引き受けたのだった。

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