第7回〜勇者の兄が変態な感について〜
「お兄様、落ち着いてください‼︎」
リーエル姫の制止など聞く耳を持たずリーエル兄が剣を携え飛びかかってくる。
とっさにその攻撃を受け止めようと錆びついた剣を構える。
「ぐっ!」
だが、剣と剣が交わった瞬間、鋭い気迫のこもった一撃の前に俺の剣は耐えることができずに無惨にも破壊されてしまう。
剣の破壊と同時に襲いかかる重たい衝撃。
それを掌でまともにくらってしまい、酷い痺れを覚える。
「くっそ、ここまで一緒にやっていた愛剣をこうもあっさりと破壊してくれちゃって……地味に思い入れの深い物なんだからなこれ!」
「避けてください⁉︎」
リーエル姫が叫んだ。
その声にハッと意識を前に集中すると眼前にリーエル兄が迫っていた。
は、早い! なんてお決まりの台詞吐いている場合じゃねぇよな、これ⁉︎
とにかく無我夢中で体をひねる。
相手の攻撃方向を予測するなんて芸当、いまの俺にはできるわけもないので完全に運ゲーなのだが……。
「ふぅ……あっぶねぇ」
回避の向きがよかったのか、スレスレのタイミングで剣を避けることに成功した。
髪の毛の1、2本は犠牲となったが、命はなんとか守りきった。
「ていうか、あの狂戦士はなに?」
「申し訳ございません。お兄様は幼少期の頃からわたくしのこととなるとああなって手がつけられないほどに暴走してしまう癖があるのです」
ふむ……つまりはシスコンってわけか!
「キサマヲコロス……コロス……コロスコロスコロス⁉︎」
おいおい、口から煙を吐く人間なんて見たことも聞いたことないぞ。
妹への愛だけでそこまで覚醒できるものなのか?
俺への殺意剥き出しだなぁ……。
「ここはわたくしに任せてください」
「お、おいっ、大丈夫なのか?」
「はい。あぁなってしまったお兄様を止める方法は心得ていますから」
「そういうことなら、任せるぞ」
「フー、キサマコロス、コロス⁉︎」
リーエル姫は、ゆっくりと兄の前へと歩み寄って行く。
さすがに最愛の妹は区別がついているらしく、ある程度まで近づいても攻撃をする様子は一切ない。
「お兄様、よく聞いてください」
「リーエル?」
「お兄様なんて、大嫌いです⁉︎」
あ〜それはシスコンのお兄ちゃんに言っちゃあかんやつや。
「がはっ⁉︎」
あっ、お兄さんが力尽きた。
血を吐き、膝から崩れ落ち地面に伏すリーエル兄。
さすがに色白系なイケメンもこうなってしまうとカッコ悪い。
「これでもう大丈夫です」
「平然と語りますけど、あなた随分と酷なストレートをかましましたよ、いま」
「それで……あなた様にお願いがあるのですが」
お兄さんを一発KOさせると、リーエル姫は振り返り、ほんのりと頬を染めながら上目遣いで俺を見つめる。
いや、ほんと惚れてしまうのでその顔やめてください!
「わたくしの……」
そんな俺の心の声などお構いなしにリーエル姫は続ける。
なんだなんだこのポワポワとした空気は!
も、もしかして告白!
だが、俺は世界を無双で救う英雄(予定)。
このタイミングでの告白はシナリオにない。
それに俺は姫様と結婚して伝説をーー。
……あっ、この子本物のお姫様か。
ならなんも問題ないな⁉︎
「わたくしの……」
ドクドク、と心臓の鼓動が急に速くなる。
やばい、落ち着け俺。
こういう時こそ平静を保つことが大切なんだ!
「パートナーにーー」
「はい、喜んで‼︎」
「見つけたぞ」
「はい?」
ポン、と肩を掴まれる俺。
ぽかんとした表情で振り返ると、そこには怒りを全面に押し出した武装男(姫の護衛)がいた。
頬を染めたお姫様に、地面に伏すその兄貴。
そんな光景を目の当たりにした護衛。
この状況で護衛さんが取る行動とは……⁉︎
「確保だぁ⁉︎」
ですよねぇ〜⁉︎
俺は次から次へと襲いかかってくる護衛さんの前に為すすべもなく拘束されるのであった。