第6回〜姫様が勇者な件について〜
「貴様……何者だ」
金髪少女のお兄様とされる青年にギロリと睨まれる。
腰に下げた一振りの刃をいまにも抜きそうな勢いである。
やばい、目がガチだ。
返答を誤れば死に直結する。
そう俺の勘が囁いている。
「お、俺は別に怪しい者ではなくてですね」
「嘘をつくな! ならなぜ、姫を誘拐しようとしたんだ⁉︎」
「ひ、姫? 一体誰のことだ?」
「白々しく惚けるな! 貴様の後ろにいるお方こそがリーエル・フォンベルグ。名高いフォンベルグ王国のお姫様だ!」
「フォンベルグ?」
この世界にはそんな王国もあるのか。
「なんだ貴様、フォンベルグ王国を知らないのか? 随分と無知な誘拐犯だな」
「ゆ、誘拐犯! 違う違う、俺は武装した奴らからこの子を助けようとしただけで……」
「その奴らが姫の護衛の者だというんだ!」
あ〜なるほど。
どうやら俺は盛大な勘違いをしてたらしい。
俺がカッコつけて助けたお相手は姫様で、その周りにいたのは彼女の護衛。
つまりは味方。
俺はそんな護衛さんから姫様を奪って逃走した……あちら側からみたら誘拐犯で間違いありませんわ、これ。
「お兄様これは違いますわ! この方はわたくしが俗に襲われていると勘違いされて庇ってくれた。わたくしを善意で助けてくださったいわば恩人です!」
「し、しかし、我々からみたらただの人攫い。誘拐犯と同義です!」
おっと、兄妹でなんか論争が始まったぞ。
「それにわたくしはもう覚悟を決めました。これがその証です!」
リーエル姫は、お兄さんに向かって勇者の剣を掲げてみせる。
「それは……勇者の剣」
「わたくしは勇者エリーゼ様の血を引く者としてこの世界の闇を払う使命があります!」
……へっ? そうなの?
「先代勇者エリーゼ様のお告げに従い、わたくしリーエル・フォンベルグは魔王退治の旅に出ます⁉︎」
なんか宣誓したぞこのお姫様⁉︎
というか、なにどゆこと?
なんかいっぺんに事が進んだせいか事実理解に苦しむ。
少し話を整理しよう。
ここにいる金髪美少女さんはお姫様であり、先代勇者エリーゼの血を引く者であり、いまから魔王退治の旅に出る、と……。
俺とキャラ被ってんじゃん⁉︎
「「そんなのはダメだ⁉︎」」
複雑な表情をするリーエル兄と俺の台詞がもろに被った。
「「えっ?」」
お互い全く同じタイミングで顔を向ける。
「なぜ貴様が私と一緒になって妹の旅出を否定する?」
ギロリ、と睨まれる。
なんだかさっき睨まれたときよりも威圧感が増したような気が……。
「そ、それは……」
焦るな伊月ゆう。
ここで回答を間違えたら厄介なことになるのは明白だ。
じっくりと、完璧な回答を導き出せ‼︎
「い……嫌なんです! 彼女が旅に出て(魔王が)倒されてしまうのが⁉︎」
「なっ、なんだと⁉」
俺の叫びに、リーエル兄はまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けていた。
その場でふらふらと酔っ払ったかのような足取りとなりやがてばたりと倒れる。
おいおいっ、なんか様子がおかしいぞ⁉︎
「ふふ、ふふふ……なら貴様はなにか」
だが、そんなのはほんの一時。
まるで魂でも抜かれたかのようによろよろと起き上がると、血に飢えたような赤黒い眼光を俺へと向ける。
「貴様はリーエルの恋人だと、そう言いたいのかあぁぁぁぁぁぁぁぁっ⁉︎」
「どうしてそうなる⁉︎」
まさかの狂戦士誕生⁉︎
なぜか暴走したリーエル兄が剣を片手に襲いかかってきた。
「キサマヲコロス……」
片言になってる⁉︎
っか、やっぱりこんな展開になるのね‼︎
こうして、俺VSリーエル兄というまったく予想もしなかった対決の幕が切って下されたのだった。