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第4回〜土下座こそ真の必殺技な件について〜

「この世はいま、暗黒の時代を迎えようとしている! みなもご存知の通り、日に日に外をうろつくモンスターは増えつつある!」


村の中央。

そこで儀式は行われようとしていた。

その前座として、祭壇に立つ村長が演説を集まった冒険者たちに向けて発信する。


「我らが村の占い師であるキヨ様によるとこれはこの世のどこかで悪の親玉、魔王が復活しつつあるというサインらしい!」


ふ〜ん、俺が倒す(予定)のラスボスさんはいまこの世のどこかに身を潜めているということなのか。

これは良い情報を聞いたぞ。


「数百年前、その魔王の侵攻を阻止し、この世界に平穏をもたらした先代勇者エリーゼ様は再び世界に闇が訪れたときのために我が村に勇者の剣をお納めになったとされる。そしてその剣が数百年の眠りを終え光を放つとき新たな伝説が幕を開けるという言い伝えを残していった」


村長の背後には布に覆われた巨大ななにかがある。

つまりあそこにあるのが、十中八九勇者の剣だ!


「そして、これが世界を救うとされた勇者の剣だ!」


そういって、村長は勢いよく布をひっぺがす。

すると現れるのは、神々しい光を放つ一振りの剣。

だがその美しいフォルムの刀身は、半分が巨大な岩に突き刺さっている。

剣の登場に冒険者や儀式に集まった観衆たちが一斉にざわめく。


ふふ、あれが俺の相棒となる剣か。

悪くないな。


「この光を放つ剣を岩から引き抜きし者こそ世界を救う勇者となる! さぁ、我こそがこの世界を救う勇者という者は前に出るが良い!」


村長の言葉を合図に集まった冒険者たちが我よ我よと祭壇へと上がっていく。

無駄だ、無駄。

そういう剣は選ばれた者、つまりは俺にしか抜けない。

長蛇の列に揉みくちゃにされるのも嫌だし、俺はほとぼりが冷めるまで後ろで待機させてもらおっと。


俺の目論見通り、儀式は円滑に事を進め、剣を抜こうと挑戦した者たちは次々と失敗していく。

やがて、100人は密集していた祭壇付近だったが、あっという間に挑戦権を残したのは、俺とその隣にいるフードで素顔を隠した小柄な人だけとなる。


既に周りの観衆や村長は諦めムード。

落ち込んでいるのが手に取るようにわかる。

これも計算通り。

このお通夜ムードの最中、最後の一人が剣を引き抜き希望を示す。

そして俺は注目の的となり、ここから魔王討伐の伝説が始まる。

我ながら欠陥のない完全無欠なシナリオだ!


「あの……お先よろしいですか?」


俺が勇者になったときのインタビューの回答を考えていると、隣からか細い声が聞こえてきた。

みれば、フードを深く被った人が俺に話しかけてきている。


「えぇ、いいですけど」


いきなりだったので、素で返事してしまった。

俺の言葉に頷き、フードを被った人は、祭壇へと上がっていく。

これが勇者誕生への最後の前座だ。

さぁ、俺伝説のための礎となるが良い!


「抜けました!」


「おぉ! 勇者の誕生だぁ⁉︎」


「んなっ⁉︎」


驚いて祭壇を見ると、そこには先ほどまで岩に刺さり刀身の半分が隠れていた剣を掲げるフード野郎がいた。

なっ、あんなどこかのフロアボスにいそうな根暗野郎に俺の完全無欠なシナリオが邪魔された、だと⁉︎


愕然とする俺を無視して、周囲の観衆やそれまで挑戦に失敗してきた冒険者たちまでもが拍手喝采。

世界を救う勇者の誕生を盛大に祝していた。


だから、なんで俺の無双伝説はこう、ことごとく邪魔されるんだぁ⁉︎



と、この前までの俺は悲痛の叫びを上げながら諦めていたが、今日の俺は一味違う!

俺はなんとしてでも勇者の剣を入手するべくある手段を選択する!


「ちょっと、いいですか?」


フード野郎の後をつけ、声をかける。

くるり、と俺の呼び止めに反応して無言で振り返るフード野郎。


さて問題だ。

この状況下で俺が勇者の剣を手に入れる方法はなにか?


あの野郎から力づくで奪う?

いいや、違うな。

そもそも世界の平和を望む最強な俺がそんな下衆な真似をするわけがない。


合理的にお金で売ってもらう?

これも違うな。

その辺の雑魚モンスターを倒して得られる金の上限など所詮高が知れている。

勇者の剣と同対価の金額などいますぐに用意できるわけない。


ならば俺が取るべき方法はなにか!

それは……⁉︎


「お願いです。俺に勇者の剣を譲ってください‼︎」


土下座をするだ⁉︎


「その剣がないと、俺の無双伝説が始まらないんです! お願いします!」


しっかりと理由を追記して、地面と額を擦りつける。

天使様をも動かしたこの俺の土下座に貴様は抗うことができるか⁉︎


「……申し訳ございませんがこれはわたくしにとっても大切なもの。お譲りすることはできません」


断られた!

俺の土下座を見て丁重にお断りしただと!


ってか、あれ?

さっきから野郎とか呼んでたけど、声質が妙に細くないか?

というか完璧に女の子の声じゃ……。


「おいっ! いたぞ‼︎」


「なっ⁉︎」


そこで事態が急変した。

突然村の入り口の方からぞろぞろと武装をした男たちが一斉に押し寄せてきて、フード野郎を取り囲んだのだ!


「もう逃げられないですよ。お覚悟を」


ど、どういう展開だよ、これ⁉︎

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