第3回〜やはり現実は甘くない件について〜
ガタガタと木製の車輪が地面を蹴る音が鳴り、揺れる車内。
ファンタジー世界御用達の乗り物、馬車に乗車した俺は、南にあるという小さな村を目指していた。
「おう、兄ちゃん。もう少しで着くぞ」
「ありがとうございます」
馬の手綱を握り、馬車を操縦する行商人のおじさんに感謝の意を述べる。
この行商人のおじさんは、俺の行きたい村へと向かう用事があるということでご好意で馬車へと乗せてくれた、とても心の広い方だ。
さて、どうして俺が辺境の村へと向かっているのかというと、それは数日前耳にしたある噂がきっかけだった。
◆
とにかく雑魚モンスターを倒し、そこそこレベルも上げた俺だったが未だに最強とは縁遠い日々を送っていた。
モンスターを倒すとお金が手に入るので、ひもじい生活こそしていないが、やっぱり憧れのチート無双ができないということはそれなりにストレスが溜まる。
いや、よくよく考えたら錆びついた剣一本でモンスターと渡り歩く俺って実は結構才能あるんじゃね?
だが、しかし、俺の目標は世界平和からの姫様結婚ルートというハッピーエンド!
この程度で浮かれているわけにはいかない!
「しっかし、地道にレベル上げするのもそうだけど、いい加減飽きてきたなぁ」
正直なところ俺が習得している最強スキルや魔法を扱うには相当な技量が必要らしく、それこそ一週間やそこらのレベリングでマスターできるものではない。
現に俺のステータスはいま……
名前:伊月ゆう
レベル:6
職業:なし
攻撃力:20
防御力:18
俊敏性:15
テクニック:20
運の良さ:13
最大魔力:小
習得スキル:20
習得魔法:20
未だ最強を習得こそしているもののそれに伴う技量が追いついていない、アンバランス状態。
このまま地道にレベル上げして、最強魔法やスキルを乱発できるようになっている頃には世界は平和になっているんじゃないかと思うレベルだ。
おまけにこの世界のレベルは99がカンストじゃないし……。
結論からいうと、地道にレベルを上げていくのも手だが、大きな、それこそ勇者に必須なチートクラスのアイテムを入手して一気に強い敵を撃破していき、レベルアップを図るのが効率的なんじゃないかということに気づいたわけだ!
新たな目標を街の酒場で決めた俺に、すかさず入ってくる耳寄り情報。
なんと、ここから南にある辺境の村で近々勇者を決める儀式があるらしい!
しかもその儀式は、伝説の剣を引き抜ける勇者を世界各国から探すとのこと!
これはまたとないチャンスだ!
俺の伝説を知らしめつつ、チート級アイテムのゲット‼︎
一石二鳥とはまさにこのこと⁉︎
儀式はいまから、5日後。
のんびりしてはいられない!
そんなわけで、俺は行商人のおじさんを見つけ馬車で南の村に旅立ったのだった。
◆
「ひゅ〜着いた着いた」
馬車に揺られること1日と半、山々に囲まれたのどかな村の入り口へと俺は立っていた。
ここもリムダーム王国同様、ファンタジーな世界観を色濃く表現している。
住民の服装は布を基調とした民族系衣装で、村の周囲にはモンスターから守るためのバリケードが設置されている。
家はほとんど木製で、道端で商売する商人の姿もちらほらと見かける。
「さて、儀式まであと3日はあるわけだが、適当に宿屋でもとって休むか」
勇者の剣さえ入手してしまえばわざわざ雑魚敵を狩り続け地道なレベリングをする必要もなくなるので、儀式が始まるまでの3日間、いままでの苦労を労う意味でも英気を養わさせてもらおう。
「おっと、だけどその前に儀式に参加するってことを伝えておこう」
儀式に参加する者は予め、村にいる役所の方に話を通さなければならないらしい(道中で行商人のおじさんが言ってた)。
そんなわけで俺は村の役場らしい建物に赴き、そこの受付のお姉さんに参加の申し込みをする。
「あの〜すみません。3日後に行われる儀式に参加したいんですけど」
「はい。わかりました。儀式に参加できるのは最低でもレベルが10以上の者に限定されていますので、冒険者手帳のご提示をよろしいでしょうか?」
ふむ、なるほど。
「すみません、登録はまた今度にしてもらってもいいですか?」
「は、はい。それは構いませんが」
「ちょっと、儀式に備え己の信念を鍛える鍛錬を積んできたいと思いますので」
やっぱりね、勇者の剣を扱う者、それなりの信念を持たなければならないわけだ。
「は、はぁ?」
さぁ、レベリングの開始だ!
俺は受付嬢に背を向け、再び村近くの草原を駆け抜けるのであった。
ほんと、現実は厳しいことだらけだ。