チェリー、真琴・兄に救われる?
「へぇ……理由はどうであれ、ちゃんと仕事する気になったんなら偉い偉いっ」
彼の仕事が終わってから食事をしようという事になり、昭和臭の漂う居酒屋に入った二人。
瑞貴は透き通るジョッキを一気に傾けると喉を鳴らしながらおいしそうに飲み干していく。
「うん! 仕事後のビールはうまいっ」
「チェリーももっと飲めよ? グレープフルーツジュースだっけ?」
「はいっ」
上着を脱ぎ両腕のワイシャツをたくし上げ、#胡坐__あぐら__#をかいたセンパイは"久しぶりだなっ! 元気そうでなにより! "を何度も繰り返しながら私の肩をトントン叩く。
「真琴は元気か? それとタマも!」
真琴からはあまり互いに連絡を取っていないのだと聞いているがやはり兄だけあって妹の事を気にかけているのだろう。そして雑種のタマの事を覚えてくれているのがまた嬉しい。
「真琴もタマも元気ですよ! タマは昨日、真琴は今月の初め頃に会いました」
瑞貴はまたも"そうかそうか!! "を繰り返しながら今度は私の頭を撫でた。
「で? うちの求人見て面接に来たって?」
「そうなんです……"急募! 初心者歓迎! 正社員には社宅完備! "が物凄く魅力的で……」
「……ちょっと前なら初心者歓迎もあながち満更でもなかったんだけどな……」
「え? あれってウソなんですかっ?」
この就職難の時代、世の中そんなに甘くない……と思うとあまりの恥ずかしさにおかしな汗が顔中から噴き出してくる。
「そういうと聞きが悪いか。……でもあれだけ人数いるんだからふるいにかけられて当たり前っていうかな……言葉もわかんない人は流石に対象外だろうな……」
「……ガーン……」
「チェリーホント変わってないなー! ガーンを効果音として口に出すやつはうちの会社にいないぞ?」
(え、そうなの? 東京おそるべし……)
謝礼として交通費を出してもらえるのは本当にありがたい。
ちょっとの負担で街ブラ出来るかもしれない……と、今日の悪夢はすっかり記憶の彼方へ追いやり、チェリーの頭は明日の観光のことに早くも切り替わっていた。
「なぁチェリー……本気で働きたいなら正社員じゃないけどやってみるか?」
「……へ?」
フフンと胸を張った彼は真琴とそっくりな動作で手羽先にかぶりつき、胸元の"リーダー"プレートを誇らしげに指差している。
「は、ははーっ!! リーダー様様っっっ!!!」
それから二時間後、すでに宿をとっていた私はビジネスホテルへと戻り……
『一応さ、上まで話が行くのに時間かかるかもしれないから実家に荷物取りに行くか、電話して送ってもらいなよ!』
心強い瑞貴の言葉に何度励まされただろう。
真琴の部屋で共に受験勉強に明け暮れていた時もそうだった。




