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面倒を見るということ

「俺が住ませてもらってる社宅結構近いんだぜ!」


ちえりの大きなバッグを持った瑞貴はキラキラした子供のままの笑顔をこちらに向けてくる。

違うことと言えば……今彼が手にしているのはお泊り用のバッグということだ。


「都会の人の近いってどれくらいなんです?」


ちえりたちの住む田舎では車移動が当たり前だった。

なので車で何分と例えてもらえれば、だいたいの距離がつかめるのだが……


「歩いて二十分くらいだ!」


あ、歩きでもだいたいわかった。と、内心ほっとしていたが……


「こんな高層ビルがいっぱい立ち並ぶ場所に社宅があるの!?」


「ん? あー……チェリーはまだ知らないっけ?」


「は、はい?」


「このあたりのビルって全部うちの関連会社でさ、敷地も買い占めてるもんだから社宅も作っちゃいましたーみたいな感じらしいんだ」


「……へ?」


あまりにも突拍子もない発言にちえりの目が点になる。


(私ってとんでもないとこ受けちゃったの……? ってか瑞貴センパイがそこに就職してリーダーって……本当はとてつもなく凄い事なんじゃっっっ!?)


あわわっっ!!


今さらに驚愕して白目を剥くと……


「たぶん買い物もこのあたりで済ませられっから遠出すねたって(遠出しなくても)……」


「ぶっ!! お前昨日ちゃんと眠れねっけのか!? なんて顔してんだず!!」


瑞貴の楽しそうな笑い声が響いた。


それからは瑞貴に先導されながら数日分の衣類や日用品をまとめて購入し、適当な食材を調達しながらいよいよ社宅へと向かう。


瑞貴センパイに全部お金出してもらっちゃった……。

そっか、そうだよね……私を面倒見てくれるって仕事のことだけ考えてたけど……


そう思うと手離しで喜べないちえり。

なんでも軽く引き受けてくれた彼の笑顔の裏では瑞貴の力が大きく働いていることを今さらに感じる。


「あ、ごめんチェリー……俺の内ポケットからカードキー出してけね(出してくれない)?」


「……え? あ……う、うん!」


今でもちえりの荷物を両手に抱えている瑞貴は嫌な顔ひとつせずに前かがみになりながら"ここのポケットね"と低く構えていた。


「失礼しま、しますっ!」


直接肌を触るわけではないが、その体温が間近に感じられ……ちえりの良からぬ妄想を掻き立てる。


(あ……内ポケット温かい……っ……み、瑞貴センパイの体温だっ!!)


あひゃーっ!! と照れながらも興奮に鼻息荒く顔を近づけてしまうちえり。


すると……


「痴女発見」


あからさまな蔑みを含んだ声がちえりの背中に突き刺さる。

都会に出てきて初めて浴びせられた発言なだけにちえりの耳はしっかりとその声質を刻み込んだ。


(……あれ? でもどこかで聞いた事のあるような声……?)


かすかに聞き覚えのある声だったが、男の声の調子が違うせいでその時のちえりは気づかなかった。


「はぁっ!? 誰が痴女よ!! 変な事言わないでくれる!?」


(そ、そりゃあ……ちょっとは瑞貴センパイを堪能しちゃったりしなかったりしたけど……)


怒りと羞恥MAXで振り向いたちえりの視界に飛び込んできたのは――


まるで狼のような野性的な瞳がこちらをじっと見据えている。

そして印象的な髪型もウルフカットと呼ばれるワイルドな無造作ヘアが一段と男らしさに拍車をかけており、狼男と呼ぶにふさわしいイメージを受けた。


(げっ……ちょっとかっこいいじゃない……っ……)


イケメンは瑞貴しか知らないちえりにとって、それは未知なる扉を開け放つくらいの発見だった。


「なら……

鼻息荒くして男の胸#弄__まさぐ__#る女は他に何ていうんだか聞かせて貰いたいね」


「わ、私にだってちゃんと名前が……っ……!」


思わず意気込んだちえりが男に一歩踏み出すと……

ふと肩に心地良い重みが加わり、瑞貴が前に立ちはだかった。


「……悪いけど彼女は若葉ちえりさんで俺の大切な人なんだ。痴女に見えても痴女じゃないって事は俺が保障する」


(えぇっっ!! 瑞貴センパイにも痴女に見えてるのっ!? 私っ!!)


それはそれで瑞貴の言い方に衝撃を受けたちえりは、酸素を欲しがる鯉のように口をパクパクさせたまま氷つく。そしてそのまま酸欠で倒れてしまいそうなほどに息苦しさを感じながら二人を見守っていると……


「大切な人ねぇ……」


ワイルドなウルフカットにドキリとする部分を繰り返され、ちえりの心と眼差しは瑞貴に釘付けになる。


(そ、そうだっ……今、瑞貴センパイ……私を大切な人って……)


「私情にかられて仕事がおろそかにならないように頼みますよ? 瑞貴先輩」




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