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専務と瑞貴とチェリー

と、通された高層ビルの最上階……から二番目のフロアにて……


「あ~、あ~~~やっぱり貴方が若葉ちえりさんねぇ、うんうん……」


「ちえり、覚えてるだろ? 昨日面接してくれた#仲人__なこうど__#さん。うちの専務だ!」


顔はよく覚えていないが、古びた眼鏡とその画期的な頭にはとてつもなく見覚えがあった。


「覚えてます!! ……ッバ、バーコード!? 専務さん本当にバーコードさんって言うんですか!?」


(うはっ!! 東京ってこんな珍しい苗字もいるんだぁあああっ!!

っていうか見た目まんまじゃん! 名前は体を現すって本当なんだなぁ……)


「な、なこうど……です……」


『ばかっ!! いくらそう見えても間違えたら失礼だべ(だろ)!?』


『え? バーコード専務んねの(じゃないの)?』


「さ、さくらだ……くん、わかばさん……聞こえ……」


プルプルと悲しそうに震える専務を余所に二人は激しく実家にいるような和やかな雰囲気に包まれているせいで言葉にも緩みが生じてしまう。


「あ……あのね、あのね……話進めてもいいかな?」


「はいっ! 喜んで! 専務!!」


「よろしくお願いいたします! バー……仲人さん!!」


ちえりの入社許可……ただし契約社員として。を得られた瑞貴は人好きする笑顔でこちらにウィンクしてみせた。


瑞貴の不意をついた愛嬌に、ちえりの胸はトクン……と音をたてる。


(こういうの……どういうつもりでやってるんだろ……)


……普通、男がやったら引いてしまうような臭い仕草も瑞貴がやると少女漫画のヒーローのように様になってしまうからヤバい。そしてそれにときめいているちえりはかなり重症である。


家がご近所という事もあり、二人の距離が普通の先輩・後輩以上に近いであろうことには自覚があるが……誰にでも同じような事をしていると思うとズキリと胸が痛んだ。


(勘違いする女の人がいたらどうすんのよ本当に……もうっ……)


急に気持ちがしぼみ始めたちえりの様子に気づかない瑞貴。

彼は自分が採用試験に合格したかのように嬉しそうに語りかけてくる。


「すげぇうまい社食もあるし、カフェスペースもあるんだぜ!」


「へ、へぇ……っ!」


悲観的妄想が頭から離れなくなってしまったちえりは精一杯の作り笑いでごまかした。


「……ん?」


「え?」


「いや、元気ないなーって思って……チェリー朝飯食ってきた?」


小首を傾げ、ズイと顔を近づけてくる瑞貴に心を読まれまいと視線を逸らす。


「う、ううん……っ……」


「……だよな、電話に出るまで寝てたっつってたもんなー……」


顔を離し納得したように腕組みした瑞貴は少し考えて……


「あっ! あとで時間見つけて飯食いにいこうぜ! 俺も朝飯抜きだった!!」


白い歯を形の良い唇から覗かせながら満面の笑みを向けてくる瑞貴。

柔らかそうな茶系の髪にワックスで動きを付け、色素の薄い瞳と白い肌が端整な顔立ちに見事マッチしている。


「うんっ!」


三つ歳が離れている二人は、中学・高校とすれ違いの生活を送ってきた。

そこで三つ違いの大きさを感じたちえりはひどく落ち込んだものだが、社会人になってまた距離が縮められるとあらば、なんだって頑張れそうな気がする。


(いい匂いもするし……)


昔からおしゃれな瑞貴は学生時代からブランドもののコロンをつけているようだった。嗅覚はなかなか忘れないというのを聞いたことがあるが、まさにその通りだと思う。


ずっと同じコロンだよね、これ……


ちえりの父親のように鼻につく#咽__むせ__#る様な整髪料の臭いではない。

そう、あの広い胸に飛び込んで深呼吸したくなるような……素敵な大人の男の香りなのだ。


何度親友の真琴が羨ましいと思ったことか……


朝起きてから寝る直前、いや……眠っている最中(?)でさえ瑞貴の傍にいられる(?)なんて、ちえりには夢のまた夢で……


「えっと、えっとね……聞いていないと思うけど説明させてもらうね……若葉さんは契約社員だからね、社宅は用意出来ないんだよね……それに採用試験に合格した子たちでギリギリで……ズ……ズーッ……自分で用意出来る、かな……?」


専務はしきりに"ね"を酷使しながら穏やかな口調で呟き、今度こそ湯呑に口を付ける。


「……あ……」


お茶を啜る音に引き戻された二人は互いに一度顔を見合わせてから"うーん……"と視線を宙に彷徨わせる。


「あー……社宅はどうしようもないか……」


雇ってもらえるというだけで浮かれていたちえりに寝床問題が再浮上する。

何をするにも拠点となる"家"がなければ、働くことも叶わないのだ。


「そ、それにいきなり決まった事だからね……」


言いにくそうに飲みかけの湯呑を撫でまわす仲人は、チラリチラリとこちらの表情を伺いながら話を続ける。


「……今日からすぐ仕事っていうのも……デスクもな……」


と、仲人の言葉をかぶせるように瑞貴が声を上げる。


「あっ……部屋の事なんだけどさ、ちえりさえよければ俺の部屋で一緒に住むってのはどうかな……?」


「え……?」


夢のまた夢は現実かっ!?

王子からこれ以上にない誘いを受けたちえりはもちろん!! このチャンスを無駄にするような女子じゃない。


「い、い、いいんですかっ!? 瑞貴センパイッ!! 私、#不束者__ふつつかもの__#ですよっ!? 二十九歳の独身女なんですよ(意味深)!?!?」


「ははっ!! 俺がいいって言ってんだから遠慮なく来いっ!」


(ややや……やったぁあああっっっ!!!)


(あまりやったことないけど……お料理もお洗濯も頑張っちゃうもんね!!

いくら完璧そうな瑞貴センパイでも! 男の人だもんっ!!

いいとこ見せて惚れさせちゃうゾ☆ なぁーんてね!!)


「……は、話はまとまったみたい……かな? じゃあ、うちの会社の雇用契約書にサインしてもらおっかな……」



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