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土の中のチェリー

今年の春、ここ大東京中心の一角で運良く大企業に就職することが出来た契約社員・若葉ちえり二十九歳。


入社して一ヶ月。早くもひとつの山場を迎え、彼女は実家のペットのタマに泣きつきたい衝動に駆られている。


コピー機の操作も慣れていない彼女は両面印刷にすべきところを片面刷りにしてしまったため、大幅な時間のロスと紙の無駄使いをしてしまった。


「……これじゃあ私の人生みたい……」


――思えばなにをやっても中途半端。


学生時代、人気のあったテレビアニメに憧れて整備士を目指したけれど。現実を目の当たりにして力の無さ、女性に不向きな仕事だとわかってあっさり挫折。


それからは社員を目指してバイトを始めるも……くだらない人間関係、おまけに上がらない給料に職場を転々とする始末。


親にはホント迷惑かけちゃったな……


専門学校の学費だけでも私の一年分働いた以上のお金がかかってるはず。


夫婦水入らずで旅行に行くお金をポーンと出してあげられるくらい稼ぎたい。まぁ……私が玉の輿?っていうのも手っ取り速いかもしれないけどねー……。なんて楽な考えが頭をよぎる。


『でも玉の輿ってさ、ある程度容姿も良くて家柄も良くて……さらには若くないと乗れないのわかってる?』


人生諦めかけた私にきつい一言をお見舞いしてくれたのは小学校から親友の真琴だった。


『んー……見た目は化粧で何とでもなるくない? 家柄だって黙ってればわかんないって! 結婚したあとに一般家庭でしたーってバラしちゃえばいいんだし!』


そうストローを口に加えながら器用に話す私に悪友は大笑い。


『ってかさ! まずこっから抜け出さないと玉の輿にも乗れないって!!』


そう。私たちは地方なまりの強い東北の田舎に住んでいる。

かろうじて標準語をしゃべれるのも心と頭と口を強く意識しているからなのだ。


『はー……学生時代は良かったなぁ……与えられた教科書に目とおして、テストで赤点とっても追試とかあるし…』



少なからずバイトで責任感というものを培っていた私にも、仕事が簡単ではないことくらいわかる。だから学生が羨ましいというのは虫が良すぎるのかもしれない。



『ちえりは嫌がるけど、玉の輿にさえこだわらなければ実家から通ってお金貯める手段なんていっぱいあんじゃない?』



真琴は目の前に山になった手羽先の一つを摘まむと、舌鼓をうちながらおいしそうに頬張った。



『……もう恋愛してる時間もないしさ、仕事と結婚両方出来ないかなぁと実は思ってて……へへっ』


いいなと思って付き合ってみた男は人並みにいるはずだけど、中身のない私は自然消滅もしくはあっさり振られて終わるんだ。だけど都会の男はもっと魅力的でキラキラしてて私を夢中にさせてくれるに違いない!という幻想を抱いているちえり。


『どっかに転がってないかなぁいい男……』


『あっは! 芋んねんだがら(芋じゃないんだから)!!』



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