Sと信仰
「Sと群像」シリーズ #6
事件を語り出した三頭の顔は、無感情だった。お面のように張り付いたような穏やかな微笑みは虚しく、眼前に居る私のことすら見ていないその黒く大きな瞳が、ブラックホールのように私の存在自体を吸い込むように恐ろしく感じられる。
「ねぇ、」
三頭は静かに呟いたのち、誠都に向き直って言った。
「今までありがとう、誠都。」
それを聞いた男は、一気に顔色が青くなり、戸惑いを隠せない様子で言った。
「今までって……ど、どういうことだよ?!」
「ありがとう。」
「だから、どうしてーー」
「私、先生に会いたかったの。誠都、貴方はそれを叶えてくれたわ」
「あ、あぁ……」
安堵の声を漏らす誠都。それに対して三頭は囁いた。さながら、悪魔が人間を唆すそれであった。
「もう一つだけ、手伝ってほしいの。そうしたら、私、もう貴方に感謝してもしきれないわ」
「もちろん、やるよ。……何を?」
「ここにいてほしいの。」
そのあまりにもさっぱりとした依頼に、男は拍子抜けしたのを隠しきれていないようだった。
「捜査撹乱ね。皐月ちゃんをここで殺したのは貴方だから、このまま逃げたら貴方が捕まるわ」
貴方が、というのを強調する。
「嫌だ、」
「でしょ?だからね、」
誠都の耳元に口を近づけ言う。
「私に任せて?」
誠都は自分の運命がこの女の手に握られていることをわかっていた。けれどそれは彼にとって心地の悪いものではなかった。自分を受け入れ、自分のことを考えてくれるものは彼女以外に今まで居なかった。父の記憶がなく、母すら自身を見捨てたと感じるような育ちだった彼にとって、三頭は母だった。自分のために罪を被り、自由になったらすぐ自分の元に来てくれた。それから10年もの間、救われ続けたのだ。
「わかったよ。」