Sと再来
「Sと群像」シリーズ #4
私と三頭はカフェを出た。彼女は「親子に見えるね」などと言い、私は自分自身だけでなく娘の命までこの女の手の内にあるのだと思って苛立ちながらも手を引く彼女について行った。
「ここは……」
「そう、一番でしょ?先生も皐月ちゃんに会えるしね。」
皐月ちゃん、というのを強調する。彼女に娘の名を呼ばれたくなかった。
「………………」
それは娘が住んでいる賃貸マンションだった。昭和じみた古いエレベーターは5階までたどり着くのに時間がかかる。
「鍵はねぇ、借りたの。」
盗ったのだろうが、私は黙っていた。ガチャリという錠を開ける音が耳に残った。
「どうぞ?」
三頭は私に先に入るよう促した。それは意外だったが、とりあえず従うしかない。私は振り返って三頭に尋ねた。
「皐月は……」
「リビングだよ」
短い廊下の奥のリビングルームは電気がついていた。私は扉を開けた。
「皐月ッ…………?」
確かに皐月はいた。だがそれよりも目に入ったのはその後ろにいた男だった。
「はじめまして」
ニコ、と男は笑い、皐月の髪を掴んで言った。
「この子のお父さん?」
娘はガムテープで手足を巻き付けられ、口元もタオルで覆われていた。表情を読み取ることができるのは目だけだ。その目は怯えに満ちていた。
「んーーーー」
娘は何かを言おうとして抵抗したが、男は持っていた工具で頭を殴りつけ吐き捨てた。
「うるせぇよ」
娘は倒れこみ、ぐったりとして動かない。殴られた後頭部から、じわりと血が滲んでいた。
「お前ッッ!!」
私は娘に駆け寄り、身体を揺すぶった。返事はない。その時、背後から声がした。
「ちょっとぉ、今から話しようとしてたのに……ダメじゃん、誠都」
「……ごめん」
「もう。手間が増えたじゃない」
そういうと三頭は私の腕を掴み、すばやく注射針を刺した。
「な、……これは、」
「催眠薬だよ。まあとっとと起きてね」
ぐらり、と視界が歪み、私は床に伏した。