Sと贖罪
「Sと群像」シリーズ#19
「三頭」
「誠都!」
「三頭……三頭なのか?」
「何を言ってるのよ、当たり前じゃない」
「この間は幻だったんだ」
「でも今はここに居るわ」
そう言うと三頭は内外を隔てる透明の仕切りに手を当てた。誠都もそれに重ねるようにしたが、手は触れ合うことはない。それは冷たかった。
「…………全部、言ったの」
こく、と誠都は頷いた。
「あの事件も……?」
そうだ、と言った。そしてまた、ごめん、と呟いた。
三頭はしばらく俯いていた。失望された、もう、会えることはないだろうと思った。しかし顔を上げ彼女が発したのは意外な言葉だった。
「待っててあげる。」
「え」
「誠都は待っててくれてたもの。私も待っててあげるわ。だから」
耳を壁の穴に当てるよう指示する仕草をすると、口を近づけてぽそりと呟いた。
「私が去ったら、死になさい」
ちょうど横を向いているので、三頭の顔は見えない。けれど選択肢は誠都には無かった。
「わかった、よ」
「良い子。……じゃあ、またね」
見張りをしている男は、そろそろ時間ですが、などと言って三頭に退出を促した。
「誠都。…………大好きよ」
車椅子の車輪は回り、カタカタという音は閉じたドアに阻まれて聞こえなくなった。
誠都は両手を広げてそれをじっと見つめた。
死。
三頭のためなら、三頭が言うなら、死ぬことなど厭わないと思っていた。死ぬのは、あっけない。誠都は自身の経験からそれが分かっていた。
だが、いざ自分がその目の前に立っていると理解した時、膝も震え、今すぐ逃げ出したいような感情に襲われた。
俺は死ねない。死ぬ勇気がない。
「ごめんなさい」
ごめんなさい、ごめんなさいと嗚咽交じりに懺悔した。許されることなど望んではいなかった。これが罰だ。罪を知らずにのうのうと生きた罰なのだ。しかしどれだけ謝ろうと、罪を悔いても、何にも、もう戻れない。