Sと照査
「Sと群像」シリーズ #15
騙された!
こればかりはダメ元で話に乗った私が馬鹿だったと言わざるを得ない。楽して大金を稼いだらロクなことにならないというのはこの世界の定説であるが、まさか警察が来るとは。薬を受け取ったわけでもないのだから逮捕まではいかないと信じたいが、やってきた3人の警察官は顔を見合わせて俺の質問には答えない。
「君はーー」
「頼まれたんだ、留守番で100万円」
「そう言うようにも頼まれている?」
「それでうんという人間はかなり馬鹿だと思うけど……」
「とりあえず署まで同行願います」
3人はそれぞれ別のことを口々に喋るので、俺は一つ一つ答えるのが大変だった。
「多分探してる人とはさっき会ったばかりだけど、まあ着いていかないと話が進まないんだろうな」
俺は生きることに執着していないという点において、他の人間より強いといえる。二度とないだろうエンターテイメントのような気持ちがした。それに、このどん底で出会った奇怪な中年に狂わされそうな人生の行方が気になったし、出来ることなら中年が何者であるのか知りたいと思った。
「君が言っていることが本当だという前提で話をするなら、君はかなり面倒に巻き込まれたようだよ」
家の前に停められたパトカーに乗り込む時、1人の警官が言った。
「へえ、どうして?」
「人が死んでるからな」
うへぇ、と俺は舌を出した。
「俺、ニュースは見れないから」
近くの警察署までそう時間はかからなかった。俺の供述が突飛なのに一貫していることもあって、わりかし信じられているような感触がした。
「君が話した男ーー芹沢は、女性を暴行してその動画をネットにアップし、そこから逃亡を続けている。」
「そんな奴なんだ。……その女が死んだの?」
「いや、別だ。その暴行された女が殺人犯」
「はっ?なんだそれ……」
「復讐で動機は確定してるんだがね。変なのは動向だ。行ったり来たり、フェイクの動きも多い。君もそのフェイクの1人だろう」
「確かにそれは、めんどくさい、な……」
「これが逃亡の幇助に入るのかは正直微妙なラインだが、君は一応容疑者と話しているからね。行き先なんかを知っていれば教えてほしい。今日はそれだけだ」
「…………うーん。俺は知らないけど、そのおっさんって有名なんだろ?」
「メディアにも度々出てるからね」
「50代くらいで芹沢って名乗ったくらいしか……あとは留守番してって言われて…………家の地図と電話…………」
「電話!それだ!」
俺は言われた通りに電話をポケットから出した。ロックはかかっておらず、背景も初期状態。レンタルだ、と刑事が呟いた。俺が何とはなしに電話帳を開くと、
たった一つ、連絡先が登録されていた。