Sと震撼
「Sと群像」シリーズ#13
「神!」
呆れたように刑事は俺を見、そして後ろにいたもう1人に目をやった。
「神か。……馬鹿言ってるんじゃないよ。なんだ、一昔前の事件の真似か?少女Aの模倣犯か?お前は30過ぎで、前科もない。心神喪失のつもりなら、あまりにも身勝手だぞ」
「お前が聞いたんだろ」
誠都は居直り、2人の反応を伺った。苛立ちを隠せない様子だったのは、無理もないだろう。通報の録音を聞いたところ、「俺」は彼女と喧嘩の末に殺してしまい、苦しみながら自首したある意味かわいそうな男である。それが蓋を開けてみたらガムテープで拘束し撲殺という突発的とは思えない手口で、通報をしらばっくれ、ついには快楽殺人の代名詞のようなことを言いはじめるのだ。
それからはずっと押し問答だった。俺は黙秘したり、ふざけたようなことを言ったりしたし、刑事は怒ったり、諭したりして何とか証言を引き出そうとした。
そんなことを3日続けたある日のことだった。
「お前は事件までの間、各地を転々としてるよな。一緒にいた女は、……」
写真を見せられ、俺は硬直した。
「こいつか?」
写真は写真というよりも動画のキャプチャーというのが正しいようだった。そこに写っていたのは間違いなく三頭本人であったが、俺はそれを認めたくなかった。それは三頭の関わりを認める事が怖いのではなかった。無惨すぎた。痣だらけで、腫れた顔は人形めいた彼女の面影をうっすらと残していたが、それが余計に痛々しい。
「これは、」
「ネットに投稿された動画だ。……一昨日の未明、つまりお前が捕まった次の日に出た。投稿者曰く、千羽三頭。……一応言っておくが、こちらはお前が千羽と10年くらい一緒にいるのは把握できている。それははっきり言って自由だ。釈放された後はこちらが介入することじゃない。」
「…………」
口は動くが、声はなかなか出ず、ようやく絞り出した。
「誰なんだ?!こんな……こんなの、」
「……認めるんだな、」
「ああ、これは三頭だよ……!認めるから、なぁ、誰がこれをやったんだ?」
「……お前、千羽のことをどう思っていたんだ」
「え……?」
悲しそうな目で見下ろす刑事の顔がこびりついて離れない。
「俺は……俺は三頭に救われたんだ!前科とか、そんなのどうでもよくて」
「大切だと、……思っていた?」
「…………ああ、そうだよ!!だから…………!!」
「投稿者は、芹沢秀司と確認された。今頃、身柄を拘束されてるだろう。…………お前が殺した女の父親だよ」