Sと勝機
「Sと群像」シリーズ #10
三頭はゆっくりと起き上がった。私はソファーに座り、それを眺めていた。
「どうして、殺さないの」
私は返事ができなかった。彼女を哀れとは思わない。自分が招いた結果だ。目の前で娘を殺しておきながら、一対一の密室で格好の餌になると考えもしないわけはない。けれども、私はあと一歩を踏み留まった。
「ねえ、抱いてよ。」
「どうして」
「そしたら、自殺してあげる。目の前で」
「意味が、分からない」
「捕まりたくないんでしょ、私を殺したことで」
いいや、と言おうとした。しかし私は女の主張を聞いてやることにした。
「いいの。満足したから……私はいずれ死のうと思っていたし、殺されることが本来の想定だった。けれど、……そう、先生が私を殺さないならそれでも構わない。」
ああ、これだ。私は自分がこの女の考え通りに動いているのではないか?という疑問がよぎったのだ。だから私は殺さなかった。理解した今、私は逆らおう。
「いや、お前は生きるよ、三頭」
え、と声を漏らし彼女は私の目をじっと見た。
「お前は生きる。」
私は復唱した。
「どうやって、そんなこと言えるの?先生が去れば、私は舌を噛み切ってでも死ねる。だけど先生は私とずっと一緒にいるつもりなんて、ないでしょう?!私を管理することは不可能よ!!」
甲高い声は私に苛立っているようだった。
「肉体の死だけか」
私は携帯を取り出し、カメラモードに切り替えるとそれを彼女に向けた。
そして、私は彼女の腹を蹴った。
「ヴッ…………!!」
苦しそうに噎せる三頭。何かを言おうとしたのを遮るように顔を殴る。殴る。蹴る。
痛みに悶える悲鳴は小さくなっていった。私は彼女を見下ろした。
「何、何で……撮ってる、の?」
私は答えずに彼女の足を、彼女のナイフで刺した。
「アアッ?!!!?」
訳がわからないようだった。楽しい。つまりこれが彼女の感情だったのか。私は今まで彼女を理解できないものだと思っていた。だが、今は理解できる!苦しめるということは、苦しめてもいいということは、たまらなく楽しいのだ。これは悪ではない。罰だ。断罪だ。
私は勝ったのだ。この女の思い通りにはさせない。何度も何度も何度も目が合う。もはや彼女の張り付いた笑顔は消えていた。
「Sと群像」シリーズ#11はこちらです。
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