占いと武器屋
森の中で幼馴染みのルリと遭遇した。
魔王国と人間の国が侵略されたことを知ったラウスとルリ。
ルリはラウスに助けを求め、ラウスは協力することにした。
ラウスとルリは、木の上で身を潜め隠れていた。
もう少しで森から抜けれる所まで、来たのだが、捜索部隊と遭遇した。
兵士達がルリを探しに森の中まで来ていたのだ。
少し前…
「ん?向こうから人の気配がする」
気配と物音が聞こえたラウスは、振り返り、指差した。
「ほ、本当!?ラウス」
「ああ」
「早く行こうラウス!」
ラウスの言葉で嬉しくなり、両手でラウスの手を握り締め、引っ張るルリ。
少し進むと気配と物音が大きくなってきた。
嬉しそうにラウスの手を繋ぎ走るルリ。
だが、ラウスは木々の隙間から少しだけ、人の姿が見えた瞬間、繋いでる手を外し、ルリの腰元と膝元に手を入れお姫様抱っこをし、近くの木に登った。
一瞬の出来事で訳がわからず、ただ、お姫様抱っこされていることしか、理解できなかったルリ。
「えっ!?ど、どうしたの?ラウス」
頬を赤く染めながら、間近にあるラウスの顔を見て、さらに顔が赤くなった。
「シッ!静かに」
人差し指を口元の前に立てたラウスは、ルリに指示した。
ラウスの真剣な表情を見て、無言で頷き肯定したルリ。
「~っ!」
ルリは、ラウスの視線の先を見て、息を呑んだ。
「ルリ様は、行方不明だ。勇者様の命令で捜索することになった。もしかしたら、この森に居るかもしれん。徹底的に捜索する。見つけ次第、確保しろ。確保した部隊には報酬が出るみたいだぞ。だから、気合いを入れろよ。お前達!」
「「オオォ」」
指揮が上がり、雄叫びが森の中に響いた。
兵士達は4人で小隊を組み、バラバラと散っていった。
そういうことで、今現在、下手に動けず、身動きがてきないまま、木の上に隠れているラウスとルリは、兵士達の人数、陣形など様子を窺っていた。
ルリは、どうするか、いろいろ考えたが、結論は見つかってしまうと判断した。
「ねぇ、これから、どうするのよラウス。早くしないと」
ラウスに何か良い提案がないか聞いてみた。
「仕方ない、何人か殺るか」
「えっ!?やるって?」
いきなり物騒なことを、言われたので理解できず、聞き直したルリ。
だが、ラウスは表情を変えずに、わかりやすく言い直した。
「殺すということだ」
「ど、どうして?」
「このままだと、どうしても見つかってしまい、戦闘になり包囲され、不利になる。それなら、先に何小隊を殺すことで警戒させ、小隊同士が連携が取れるように、互いの距離を縮めるはず、だから逃げやすくなる」
冷静に、とんでもないことを普通に説明するラウス。
その瞳を見て、ゾッと背筋が凍った。
時折見る時があるが、ラウスの瞳は、輝きがなく冷たく感じ、感情がない人形のような瞳。
まるで、人を殺すことに躊躇いがないことが、伝わるほどだ。
ラウスは、周囲を確認した。
「そろそろ、行動するから離れてくれルリ」
「う、うん」
ラウスから離れて、少しだけ残念そうな顔をしたルリだったが、ラウスは、特に気にしなかった。
「ルリ、人の死を見たくなかったら、目を瞑っていろ」
ラウスは、ルリに言い、デュランダルを構え、木から飛び降りた。
「ぐぁ」
兵士4人のうち、1番後ろにいた1人を空中で叩き切り着地した。
兵士の断末魔を聞き、他の3人は振り返ろうとしたが、ラウスは振り向き様に2人の首を跳ねた。
「「がはっ」」
2人は何もできないまま倒れた。
「遅い」
「な、何も…の…」
最後の1人は腰にさげていた剣を抜刀しようとした時に、ラウスは心臓を突き刺した。
無表情のまま死体の服装を見て、隊長ではないと確認した。
「ルリ終わったぞ。そこから、自分で下りられるか?」
ラウスは、木の上を見上げ、そこいるルリに聞いた。
「あ、当たり前でしょう」
強がって意地を張ったルリだが、実際は木登りなどしたことがなかった。
恐る恐る片足を下げて、反対の足も下げようとした時、足を滑らせて落下した。
「きゃ~!」
目を瞑り、衝撃と痛みを覚悟したルリだったが、優しく包まれるよう感覚がし、目を開くとラウスが、受け止めていた。
「ルリ頼むから、無理なら無理と言え、そうしないと…」
ラウスが言いかけた直後、
「女の子の悲鳴が、こちらから聞こえたぞ!?」
兵士達の声が聞こえ、近づいてくるのが、わかった。
「ごめんなさい、ラウス」
「次から気を付けてくれればいい…正面からと右後ろからか…仕方ない合図したら近くの木に隠れろルリ」
「逃げないの?それに、私は木の上で隠れなくって良いの?」
首を傾げるルリ。
「もう、そこまで来ているからな。今、逃げたら気付かれてしまい、上手く町に逃げられても、すぐに町まで追ってくるだろう。できれば、少しでも、この森に足止めをさせたい。それに、今の悲鳴で誰かいることが、判明したから警戒するだろう。木の上で見つかって終わるよりも、見つかっても逃げれる方が良い」
「わかったわ」
反省しているルリを見て、それ以上は責めなかったラウス。
ラウスはデュランダルを握り締め、ルリを連れて気配を感じる方角へと向かった。
(さて、どうするか…もう片方の小隊と合流される前に倒すしかない、もう)
気配を殺し足音を立てず、考えながら、近くにいる正面の小隊に向かっているラウス。
兵士達の姿が小さく見えた。
(仕方ない、正面突破するか)
ラウスは、兵士達に近付き、近くの木に登った。
そして、木を踏み台にして、兵士がいる斜め下に、弾丸のように飛んだ。
「ぐぁ」
「うっ」
着地する前に1人の胴体を凪ぎ払って斬り、左手を地面について着地した瞬間に、屈んだまま兵士達に振り向くと同時に遠心力を付け、デュランダルで、兵士1人の右横腹から左肩にかけて斜め下から切り上げた。
「くそっ」
「死ねぇ」
「うわっ」
残りの兵士2人は、同時に剣を振り下ろしラウスに斬りかかったが、ラウスは一歩前に踏み込み、左手で左側の兵士の手元を押さえ、未然に斬撃を防ぎ、右側の兵士はデュランダルで左肩から右肩にかけて、斜め上から切り下ろした。
「ヴッ」
そして、最後に左側の手で押さえた兵士の喉を斬ったラウス。
ラウスは、ルリの側に歩み寄った。
ルリの瞳から涙が溢れていたことに、気付いたラウス。
「ん?どうした?ルリ。やはり、恐かったか?」
「違うわ、ごめんなさい。ラウス…貴方に人を殺めさせてしまって…」
ラウスの戦いを間近で見ていたルリは、自分が頼んだことで、ラウスに人を殺めさせてしまったことに、心が痛んでいた。
「気にするな。どのみち俺の両親を助ける時に、人を殺すのは避けれない。もう、この話は、これで終わりだ」
「うん」
泣かれるのは苦手なラウスは、ルリの頭を撫でてやり、ルリが笑顔になったので、ホッとした。
「ねぇ、ラウス。そういえば、もう1つの小隊が近くにいるとか貴方、言ってなかった?」
「言ったが、先程、木の上に隠れていた場所に向かっているようだ」
「予定通りなの?」
「だな。俺達も早く町に行こうか」
「そうね。こっちで合っているの?」
「合っている」
ルリは笑顔で、再びラウスの手を取り、引っ張りながら先に進んだ。
ラウスとルリが森を出る頃に、森の中から笛が鳴り響いた。
笛の音色を聞いたルリは、笑った。
ボルカーズの町の入り口に辿り着いた、ラウスとルリ。
「やっと着いたわね。早く行こう、ラウス」
嬉しそうに、笑顔を見せるルリ。
「そのままで、行くのはやめた方が良い。見つかる」
「大丈夫よ。すぐ近くに、小さい頃から、お世話になっている、アスラさんの家があるわ」
「そうか」
2人は駆け足で、アスラの家に向かった。
ボロボロの家の前に着いたラウスとルリ。
「アスラさん、いる?」
ノックしながら、アスラを呼ぶルリ。
「開いているから入りな、ルリちゃん」
家の中から女性の声が聞こえたので、家に入ることにした2人。
「「お邪魔します」」
ドアを開け奥に入ったら、狭い部屋にフードを被った女性が座っていた。
女性の前に水晶玉が置かれていた。
「お久しぶり、アスラさん」
「久しぶりだな、ルリちゃん。そろそろ来ると思っていたところだ。ところで…」
笑顔でルリに話し、そのあと鋭い視線でラウスを見るアスラ。
「初めまして、ラウスと申します」
「ほう、お前さんが魔王国の王子か…なるほど、なるほど。ルリちゃんが、来る度、とても強いと自慢話をしていたが、納得できる。ルリちゃんが惚れるのも、わかるな…」
鋭い視線から笑顔になり、何度も頷くアスラ。
ラウスがルリに視線を向けると、ルリは顔を真っ赤にしていた。
「ちょ、ちょっと、そ、そんなわけないわよ。アスラさん。そ、それより、これからのことを占って欲しいのだけど」
「わかった。その前に、私の名前はアスラだ。よろしくなラウス君」
「よろしくお願いします。アスラさん」
礼儀正しく御辞儀をしたラウス。
「では、占おうか。未来を見通す、時の精霊よ。我にその未来を見せたえ、ビジョン・アイ」
アスラさんの黒い瞳が、しばらくの間、七色に輝いた。
「なるほど。王様と妃様は、お城で幽閉され、まだ生きているな。そして、ルリちゃん達、2人でも奪還できるだろう。だが、魔王様とその妃様は、見えなかった…」
ルリは、アスラの言葉で笑顔になったが、ラウスの両親のことを知って、すぐに落ち込んだ。
「ラウス…」
「気にするな。早く着替えてこい、すぐに行くぞ。ルリ」
「わかったわ」
ルリは、奥にある自分の部屋に行った。
「それと、ラウス君。言い忘れたのだが…」
気まずそうに、ラウスに声をかけるアスラ。
ラウスはアスラを見て、一息した。
「ああ、俺は死ぬことだろう」
「なっ、なぜ、それを!?」
驚愕し目を見開いた、アスラ。
確かに見えたビジョンには、ルリの膝元でラウスは血を流し、ルリは泣いていた。
「アスラさんが占っている。あの時、俺も、うっすらとだが見えていたからな」
「なるほど。時の精霊がラウス君に好意を抱いているのかもしれないな。これはこれは、珍しいことだ。フフフ…」
アスラは、笑い出した。
「それでも、ラウス君は行くのか?」
「ああ、あんたも気付いているだろう?俺は転生者だ。なぜ、自分は転生したのか知りたかった。たぶんだが、このためだろう。だから、運命に殉じようと思っている。だが、精一杯抗うけどな」
初めて会った時、一瞬だが、アスラは驚いていた。
ラウスは、最後に不適な笑みを見せた。
「フフフ。そうだ、私は君が転生者だと、一目見た時、わかった。なぜなら、以前占った時、君の存在を知り、君のことも占ったからな」
「なら、転生する前に何をしていたかも、知っているのか?」
「さぁな、どうだろうな」
「まぁいい」
言葉を濁すアスラ。
「なぜ、死ぬと知り、逃げて生き抜こうとは、思わない?占いを信じてないとは、思えないが」
興味深いそうな表情で質問したアスラ。
「ああ、尺だが、俺は占い通りに死ぬだろうな。なんせ、アスラさんの魔法は精霊魔法だからな。俺は、逃げて生き延びるのは御免だ。それなら、死んだ方が良い。それに、この与えられた命は、この世界のために使う。それが、転生してくれた奴にできる恩返しだと考えている。それに、ルリのためだしな」
「…ラウス君は律儀だな」
「ふん」
ラウスは、口元をニヤっと緩ましたアスラを見て、面白くなさそうに鼻を鳴らし、顔を逸らした。
精霊魔法とは、精霊の階級にもよるが、絶大な威力、効果が発揮できる。
しかし、それに応じて魔力の消費も大きくなる。
精霊魔法使いは、数百万人に1人とも言われ、滅多いない。
アスラは、普段は精霊魔法を遣わず、水晶玉を使い占うが、やはり、精霊魔法の方が高性能な未来予知ができる。
未来予知し、危険を回避は可能性。
だが、続けて未来予知は、できないため、何が起こるか不明になる。
未来を変えて、良い場合もあれば、さらに悪くなる場合もある。
静寂の中、奥のドアが開く音とともに、部屋から出てきたルリ。
ルリの服装は、カーボイみたいな格好で、下はミニスカートとスパッツを履いていた。
「お待たせラウス。どうかしら?」
その場でクルっと回り、頬を染め、お辞儀をした。
「ん?別に良いんじゃないか」
「何よっ!もっと、こ、こう具体的な、そ、その感想ぐらい言いなさいよっ!」
両手を腰に当て、上半身を前に出して怒るルリ。
「ん?」
意味がわからず、首を傾げるラウス。
「もう、いいわよっ!」
ラウスから顔を背けたルリ。
「フフフ」
そんな、2人のやり取りを見て、笑うアスラ。
「それより、町に入った時、町の人が見えなかったのだが」
気になった点をアスラに尋ねたラウス。
「それはな、勇者一派が好き勝手に暴れ出して、町の人が国王様から注意して貰いに行ったんだが、その時には、もう既に国王様は、幽閉されていたんだ。それで、町の人達は国王様を救出しようと反乱したが、一方的に負けてしまい、皆は閉じ籠っておる」
アスラは、仕方ないという感じで説明した。
「ギルドや冒険者達は、今どうしているの?アスラさん」
「そういえば、ギルドに人数集めて突撃するとか言っていたような」
顔を少し上に向け、顎に手を当て思い出したアスラ。
「えっ!?そういうことは、早く言ってください、アスラさん。ギルドに早く行くわよラウス」
「待て、お礼を…」
「そうね」
「「ありがとうございましたアスラさん」」
手を適当に振って、気にするなと言わんばかりな態度をとったアスラ。
ラウスとルリ2人は、部屋を出る前に軽く会釈だけし、ギルドに向かった。
町中を走っているが、兵士は見かけるが町の人は見かけなかった。
「ん?どうしたの?ラウス」
ラウスが辺りを警戒というより、何かを探している様子だったので、首を傾げながら聞いたルリ。
「すまないが、武器を揃えたい」
「わかったわ。ギルドの近くにあるわ。こっちよ」
2人は武器屋に向かうことにした。
武器屋で武器屋の亭主ゴリドが兵士4人と言い争っていた。
「ここにも、姫様は居ないか。おい、亭主。姫様を匿っていそうな奴は誰か?言え!」
「俺が、知るわけないだろ。それより、何、勝手に商品を持ち帰ろうとしているだ。金を払え!」
お金を払わず、ロングソードを持ち帰ろうとした兵士の腕を掴み、止めるゴリド。
「その手を離しな。俺達はこの国の兵士だぞ。この国の為に戦っている俺達に、金を請求するのか?俺達が命を懸けて、お前達を守ってやっているのにか?ああ!」
「くっ…」
兵士に凄まれて、たじろぎ手を離したゴリドは、身体の力が抜けたようになり、頭を下げた。
「それも、そうだな!」
「なら、俺はこれを頂こう」
「俺は、これとこれだな」
「お前欲張りすぎだろう」
兵士達は、笑いながら物色し始めた。
武器屋の外で、その成り行きを見ていたラウスとルリ。
ラウスは静かに怒り、ルリは誰が見ても一目でわかるほど、激怒していた。
「待てルリ」
「何よ!止めないでくれるラウス」
ルリは、堂々と武器屋に乗り込もうとして、ラウスの前に出たが、ラウスがルリの腕を掴み、止めた。
「ルリが見つかったら、兵士が集まってしまう。先に俺が行く」
「そうね、ごめんなさい。冷静さを失っていたわ」
ルリが冷静さを取り戻したことを確認したラウスは、ルリの頭を撫で、武器屋に向かった。
武器屋では、兵士達が武器を眺めながら出て行こうといていた。
「亭主、サンキューな。大事に使わせて貰うぜ。あと、また欲しくなったら来るからな」
「皆、連れて来ようぜ」
「ハハハ良い考えだな。~っ!?」
先頭歩いていた兵士とラウスが、店内の入口でぶつかった。
「おい!糞ガキいてぇじゃないか、ああ!」
ぶつかった兵士は哭びながら、ラウスの胸ぐらを掴んだ。
「それは、窃盗だ。国の兵士であろう者が、犯罪を正当化するとは、この国も終ったもんだ。王が優秀でも、お前達みたいな蛆虫がいるから仕方ないか」
無表情のまま、兵士達を貶すラウス。
兵士達は皆、怒りで顔を赤く染めピクピクさせてた。
顔を青く染めたゴリド。
「小僧、早く逃げな。殺されるぞ」
ゴリドは慌てて、ラウスに逃げるよう助言したが、ラウスは怯え動けないという様子もなく、普通に逃げる気配が全くなかった。
「ほう、言ってくれるじゃないか。ああ!殺すぞガキ!丁度、こいつの試し切りになって貰おうか」
ラウスの胸ぐらを掴んでいる兵士は、空いている手で、ロングソードを振り上げた。
ラウスは。兵士の顎に右手でアッパーを入れた。
「ぐぁ」
兵士は、口を切り血を流しながら仰向けに倒れた。
周りが静かになった。
「馬鹿が…胸ぐらを掴んでいる相手に、わざわざ武器を使おうとする。やはり、兵士としても不合格だな。こんな奴が兵士になれるとか、この国の武力は、たかが知れているな」
胸元のシワを直しながら、倒れた兵士を見て、呆れたラウス。
ラウスの言葉で、再び時が動き出した。
「よ、よくも、ノルスを!なっ!?」
剣で凪ぎ払おうとしたが、飾ってある武器に当たり、速度が落ちた。
「お前も馬鹿だな。狭い所で武器を使うなど」
その隙に、ラウスは間近まで移動し右フックで兵士の顎に当てた。
「がはっ」
兵士は倒れた。
ラウスは、残りの兵士2人に振り向いた。
「あと、お前2人だが、どうする?」
「「な、嘗めるな!」」
怯えた表情で強がる兵士2人は、素手でラウスに襲いかかった。
兵士は、右手でラウスに殴りかかったが、ラウスが左手で右手を弾いたことで、右手が横にいた別の兵士の顔に直撃した。
「ぐぉ」
顔に当たった兵士は、顔を両手で押さえた。
「す、すまない。がはっ」
不意に振り向いてしまい、その隙をラウスにつかれ、鳩尾を殴られ崩れ落ちた。
「うっ」
ゴリドは、顔を押さえている最後の兵士の背後に回り、必死に首を絞めて気絶させた。
訝しげにラウスを見るゴリド。
「助けてくれたことには感謝するが、お前さんは誰だ?」
「ああ、すまない。俺は…」
「もう、ラウス!片付いたなら、教えなさいよね」
「ルリ」
ラウスが説明しようとしたら、勝手にルリが、怒りながら店内に入ってきた。
「ひ、姫様!?」
ルリを見て驚き、大きな声を出すゴリド。
「お久しぶりね、ゴリド。元気にしてた?」
「はい…。いえ、それよりも大変なことが起きてます。国王様が勇者に幽閉されて、国を乗っ取られてます」
「わかっているわ。だから、私は城から逃げたのよ。強い助っ人も連れてきたわ」
「確かに強さは認めますが、まだ、子供じゃないですか!?相手は大人達ですよ。しかも、勇者もいます。ここは、近くの魔王城に行って、救援を求める方が良いです」
「俺が説明する。だが、先にコイツらをどうにかするのが先だ」
ラウスは一息つき、親指を立て、後ろに倒れている兵士達を指さした。
兵士達を、布で口を塞ぎ、魔法を封じるロープで、物置の柱に縛りつけ閉じ込めた。
それから、今の魔王城の状況をラウスが説明した。
「し、深刻な事態ですな…」
顎に手を当て深刻な顔をするゴリド。
「でも、安心してゴリド。アスラの占いでは、無事に奪還できるって出たわ」
「そうですか。なら、安心ですね」
ルリは笑顔を見せ、ゴリドも表情が和らいだ。
「それより、武器を売ってくれ」
「そうだったわ。その為に来たのだから」
話が長くなりそうだったので、先に話を進めたラウス。
「そうだったのですね。で、何が欲しいのだ?えっと、ラウスだったな」
「ああ、スローナイフかブーメラン。いや、携帯するのに邪魔にならないピックがいいな。とりあえずら投擲武器を求めている」
「投擲武器なら、そこの棚の下から3番目にあるぞ」
ゴリドは、ラウスの後ろを指さした。
毒付きナイフ、睡眠薬付きナイフ、痺れ薬付きナイフ、大型ブーメラン、折り畳み式ブーメランなどが、置いてあった。
そして、求めていたピックもあり、ピック50本、閃光弾、煙幕弾、ピック専用腰ポシェット、それと太股に巻き付けるベルトを選んだ。
「すまないが、お金の代わりに魔物の素材でも構わないか?」
「いや、国王様を救出の為に必要な武器なんだ。タダで構わん。その代わり、必ず救出してくれよ」
「無論だ」
ラウスの力強い言葉に、安心感を感じ、笑顔になったルリとゴリド。
ラウスは、腰と両方の太股にポシェットとベルトを巻き、ピックを装填し、ポシェットに閃光弾と煙幕弾を収納した。
「他に剣とか要らないのか?」
フッと気付き、ラウスに尋ねたゴリド。
「剣なら持っているからな」
ラウスは背中を少し向け、背中にかけているデュランダルを見せた。
「ん?見たことない、珍しい剣だな。しかも、禍々しい感じがするな、魔剣か?それにしても、全体が真っ黒なんて、まるで本に記載されている、伝説のデュランダルみたいだな」
前屈みになって、デュランダルを興味深そうに観察するゴリド。
「フフフ、まるでではないのよ。正真正銘のデュランダルよゴリド」
口元に手を当て、笑うルリ。
「なるほど。そうだったのですか、正真正銘の…って、本当なのですか!?姫様!ラウス!」
「ああ、俺が、地面に刺さっているコイツを引き抜いた」
ゴリドが目を大きく見開き驚愕したが、ラウスは無表情で、何をそんなに驚いているのか、理解できないまま答えた。
「た、確かに禍々しい感じがするから、本物だろうな。本当にラウス、お前さんは何者なんだ?普通の奴は引き抜けないで、生命力を吸収され死に絶えるはずだぞ」
「知らん」
ラウスは、一言で一蹴し、苦笑いするルリとゴリド。
ルリは、ラウスの袖を引っ張った。
「ん?」
「それより、ラウス。早くギルドに行きましょう。皆と合流しないと」
「そうだな」
軽く頷いたラウス。
「足止めさせたみたいで、スミマセン。そういえば、1時間ぐらい前に、ダンジョンから戻った冒険者達は皆、ギルドに集まっていましたので、急いだ方が良いです」
「ありがとうギルド」
「世話になった。助かる」
ゴリドの話を聞き、ラウスとルリはお礼を言い、走ってギルドに向かった。
1時間前、ギルドの地下室には冒険者達が集まって、騒いでいた。
「これで、ほぼ揃ったな」
ギルドマスターのボトムは、周りを見渡した。
「それより、どうなっているんだ!」
「国王様達は無事なのか?」
冒険者達は、ダンジョンから戻ったら、国の雰囲気がガラッと変わっていたことに驚き、ギルドに集まったのだ。
「わからん。だが、国王様は、姫様を誘き寄せる材料としての利用価値があるから、まだ無事だと思う。もし、そうだとしたら監禁されているな」
ギルドマスターのボトムは、瞳を閉じ腕を組み、予測を伝えた。
「これから、どうする?」
「相手は兵士達だ。そこらの魔物とは違って、手強いぞ。それに、あの勇者がいる。性格は破綻しているが、悔しいが実力は本物だ」
「だが、このまま手をこまねいて、勇者達の好きなようにさせたら、家族や身内、知り合いが被害に合うだけでなく、国が滅ぶぞ」
「そうだな。相手がP級の勇者が居ても、こちらは、ギルマスを合わせたらG級が5人も居るんだ。勝てる」
「ああ、そうだ!」
冒険者達は、意見を出し合った結果、戦うことに決断した。
冒険者ランクは7クラスに別れている。
P級(プラチナ・人間の国は、現在、勇者のみ)
G級
A級(上級者)
B級(準上級者)
C級(中級者)
D級(初級者)
E級(見習い)
冒険者達の中で、兵士達の実力は、予想ではB~A級が殆どだと噂されている。
しかし、ボトムの考えでは、中にはG級が数名いると思っている。
勇者は冒険者をして、生計を立てていたので、冒険者達は勇者の性格、強さを、ある程度知っていた。
最後に冒険者達は皆、ギルマスのボトムに、視線を向けた。
ボトムは、ゆっくりと瞳を開き、壁に立て掛けている自慢の巨大な斧ボルカードを手にした。
「……。そうだな、致し方あるまい。ある程度の人数も揃ったし、あまり日が経つと国王様と姫様の命が危険だ。いくぞ、打倒勇者だ!」
片手でボルカードを掲げ、宣言した。
「「ウォォ」」
一致団結した冒険者達は、片手を上げ、士気が上がった。
それから、偵察役を何人かに頼み、地図を出し、綿密に話し合おうとしたが、兵士達の見張りは自分勝手な行動をとり、予想ができなかった。
原因は、城内の見張り役以外の兵士達は、姫様を確保したら報酬が出るということで、我先にと行動していたのだ。
それで、ボトム達は仕方なく、簡単な作戦を立て出陣したのだ。
ラウス達は、ギルドに辿り着いた。
「ここよ、ラウス」
ルリは扉を開け、ラウスと一緒に中に入った。
「兵士さん。本日だけで、これで9回目ですよ。何度もおっしゃっていますが姫様は滞在してませんし、ギルマスはダンジョンに篭ってますので…って、ひ、姫様!?」
タメ息をしながら、相手を見ず、言葉を発したのは、ギルマスのボトムの娘で受付を任されているルーミアだった。
ルーミアは、フッとルリの姿を見て驚愕した。
「お久しぶりね、ルーミア」
手を軽く振って、笑顔で挨拶するルリ。
「姫様!心配しました。よくご無事で、何よりです」
涙目でルリに話すルーミア。
「それより、ボトムは何処にいるの?」
「それが、冒険者達と一緒に城に突撃しました。突撃したメンバーは、ギルマス含めG級5人とA級が12人、他と合わせ約60人です。大丈夫でしょうか?」
ボトム達のことが心配で、ルリに尋ねたルーミア。
ルーミアは、昔、兵士達の強さをボトムに聞いたことがあり、その時に兵士側にもG級がいる可能性を教えられたのだ。
「正直、不安ね…勇者だけ強いのなら、大丈夫だけど。隊長クラスも、やっかないなほど強者なのよ」
ルリの説明に、ここにいるラウス以外は、不安な表情になり、静寂が支配した。
「なら、早く行くぞ。ルリ」
「ええ」
静寂を打ち破ったラウスは、無表情で言い、ルリは肯定し頷いた。
「えっ!?ひ、姫様、流石に危険です」
慌てて止めるルーミア。
「少しでも戦力あった方が良いでしょう。それに、ルーミアも知っているでしょう?私こう見えても、魔法が得意なのよ。それに、ラウスが居れば安全よ」
「そ、それでも…」
「今、国の一大事なのよ。止めないでルーミア」
「……。わかりました。姫様。ラウスさん、姫様を、どうか宜しくお願いします。御武運を」
ルリの瞳を見て、覚悟を知ったルーミアは、止めるのをやめ、お辞儀をした。
「ああ、この命に懸けても…」
「「~っ!」」
ラウスの返事に、ルリとルーミアが顔を真っ赤に染めた。
「どうした?2人とも顔が赤いぞ?」
「い、いえ!そんなことないです!」
ラウスの質問に、顔を左右に激しく振るうルーミア。
「べ、別に、そ、それよりも、早く行きましょうラウス」
一方、ルリは話を逸らし、ラウスの手を取り、強引に引っ張りながら城へと向かった。
次回、城に突撃します。