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第一章 松代大本営-4

「しかし日本でも栽培できるゴムの木か。これも大異変によって、異世界から持ち込まれたものなのか?」


 あまりにも都合が良いので聞いてみたが、アウレーリアは首を振った。


「いいや、元からこの世界にあったものじゃ。確か大陸から奈良、平安の頃にかけて渡ってきたものじゃと聞いたが。この木の皮を煎じて飲み、仙人にまで至ったという話も伝わってはいるがのう」

「仙人ですか……」


 楓は感じ入った様子でつぶやく。

 アウレーリアは頭が良く勉強熱心なため、異界の住人だというのにこちらの物事まで良く知っている。

 その知識は驚くほどだ。


「よくそこまで知ってるな」


 大地が本気で感心しながら言うと、アウレーリアはあっさりと首を振った。


「なに、趣味じゃよ、趣味」


 アウレーリアは謙遜ということをしない。

 自信家なのだ。

 この辺は奥ゆかしい楓とは対照的で。

 それだけにアウレーリアがそう言うからには本当に趣味で知識を蒐集しているのだろう。

 だから大地は踏み込んで聞いてみた。


「その趣味には戦車の操縦も入っているのか?」


 異界…… 高天原でも桃源郷でも蓬莱でも好きなように呼ぶが良い、とアウレーリアが言った、この世から消えたはずの神秘が今なお生きているという世界。

 その中でも更に希少な天人、神に近い存在であるという彼女たちは、それぞれ個別の理由で日本政府に関わっていると聞く。

 それではアウレーリアはどうなのかと思って問いかけた言葉だったが。

 アウレーリアは少しだけ感心したような表情を浮かべた。


「ただ上官の命令に従うだけの少年ではないということじゃな」


 にんまりと笑って。


「良いことじゃ。命令に従うだけで思考を停止させてしまう者より、よほど好ましい。己の考えを持たぬということは、頭が無いのと一緒じゃからのう」

「それは、ひょっとして褒めているのか?」


 大地は顔をしかめて見せた。

 アウレーリアの話は相手に関係なく彼女の高い知能と見識に基づいて語られるため、分かりづらいことが多い。

 だが、アウレーリアは大地の当惑を気に止めた様子もなく肯定して見せた。


「無論よ。妾に認められたことを誇りに思うがよい」


 高慢とも言える言葉だったが、不思議と嫌みを感じさせない。

 さすがは天人といったところか、彼女が纏う高雅な雰囲気がその所作を当然のものと周囲に認めさせてしまうのだ。


「まぁ、そも知識欲というものは恋だの愛だのに似て、人間の原始的な感情に基づく欲求であるから持つのが自然なのだがな」

「恋ですか?」


 年頃の少女らしく楓が反応した。

 アウレーリアは大仰にうなずくと語る。


「対象のことをもっとよく知りたい。知らないことがあるのが我慢できない。他者より深く理解していることに優越感を覚える」


 そんな風に言われると、確かに似ているかと大地も思う。


「知識欲の行きつくところは相手との同化ともいう。恋愛のような生の欲求こそが学徒を突き動かす原動力よ」

「それではアウレーリアさんはいつも恋をしているみたいですね」


 楓が茶化すが、


「うむ、それが妾の若さの秘訣よ」


 アウレーリアはからからと笑うと、大地に向かって悪戯っぽく囁く。


「そして大地、妾はそなたにも大いに惹かれるものを感じておるがの」


 人間観察というやつだろうか?

 しかし先の発言のせいかこの言葉も妙に艶めいて聞こえる。


「アウレーリアさん!?」


 楓が血相を変えて詰め寄った。

 良く分からないがじゃれ合う二人に呆れつつ、大地は聞いた。


「で、俺の質問への答えはどうなんだ?」


 問われたアウレーリアは益々笑みを深めた。


「ふむ、誤魔化されなんだところも高評価じゃな。それに免じて答えて進ぜよう」


 アウレーリアは大地に向かって言う。


「戦車の操縦を覚えたのは、必要だったからじゃ。知識を得るためにな」

「知識を得るため?」


 アウレーリアはうなずいて語る。


「だからこそ、楓も共に戦車に乗ってもらっておる」

「私ですか?」


 きょとんとして楓が自分を指さした。


「左様。まぁ、すぐに分かる。すぐに、な」


 アウレーリアは含みを持たせた目で楓と大地を見やった。

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