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第六章 鉄壁に挑む-8

「停車っ!」


 大地はとっさに叫びながらエレンを庇って身体を伏せさせた。

 アウレーリアが急ブレーキを踏むが、わずかに間に合わなかった。

 驚いたことに敵は同士討ちになる危険も構わず発砲した。

 七十五ミリ砲が九七式中戦車チハの砲塔上部十ミリ厚鋼板を撃ち下すように斜めに貫き、反対側の二十五ミリ厚の側面装甲までまるで紙屑のように易々と貫通する。

 ここで大地たちにとって幸運だったのは、九七式中戦車チハの装甲に対してM4シャーマン中戦車の戦車砲の貫通力があり過ぎたことだった。

 それゆえに爆発することなく反対側まで突き抜けた砲弾は、並走していたもう一台のM4シャーマン中戦車の横っ腹をぶち抜いた。

 そして内部で爆発する。


「あっぶなぁい」

「奇跡と申すものは、いくらあってもありがたみが薄れないものよな」


 エレンとアウレーリアが詰めていた息を吐きながら言う。

 これで一両が脱落し残すところあと一両までとなったが、大地たちが失った物もまた大きかった。

 装備された戦車砲ごと歪んだ砲塔が脱落、後方に音を立てながら転がっていく。

 それが一瞬置いて爆発した。

 砲塔内壁の砲弾架に残っていた徹甲弾が誘爆を起こしたのだ。

 広い爆発の効力範囲を持つ榴弾を使い切っていたお蔭で、巻き込まれなかったのは幸いとも言えた。


「味方殺しもためらわないなんて反則よ! こんなの勝負になりゃしないじゃない!」


 エレンが毒づいた。


「イヌイのやつ、地獄に落ちろ!」


 そう叫ぶエレンに大地は首を振った。


「なんだ、まだ気付いていないのか?」

「えっ?」

「ここが地獄だ」


 神仏の裁きで落とされるまでもなく、この世に地獄を作り出してしまう。

 人間とは因果なものだった。

 剥き出しになった環状の砲塔受けの下、身をかがめた大地はエレンと正面から顔を見合わせる。


「ショーもこれで終わり。ここで幕引きかしら」


 さすがに焦りの色を隠せないエレンの言葉に、大地は腹を括って答えた。


「幕はまださ。どんでん返しが残っているんだ。派手なやつがな」

「あんたは……」

「踏ん張るしかないだろ。だって俺は楓と約束したんだ。必ず生きて帰るって。約束は必ず守るものだから。もちろん、お前たちも一緒に」


 大地の言葉には、操縦手席で九七式中戦車チハを巧みに操り敵戦車の射線から逃れながらアウレーリアが同意してくれた。


「その言葉を聞きたかった」


 そう言って満足そうに笑う。


「そうよな、妾も大地と同じ考えじゃ。とことんやろう。あきらめたら終わりであろう? 勝負も…… 命も」


 アウレーリアの言葉が大地の背中を後押しした。

 彼女はこんな状況でもまだ大地を信じて命を預けてくれる。

 諦めることなく力を貸してくれる。

 おそらく気付いているのだろう、大地が震えそうになる身体を必死にこらえていることも、見ないふりをしてくれる。

 それが彼女の強さだ。

 信じることの意味、本当に強いということ。

 心が強いということ。

 操縦手席で九七式中戦車チハを走らせ続ける彼女の幼くも凛々しい姿がそれを教えてくれた。

 だから大地は言う。


「まだだ。まだ戦える。手だって足だって動く。立って戦える限り、命ある限り俺は勝負を諦めん!」


 戦場では立てなくなった者から、生を諦めた者から死んでいくものだ。

 だから大地は立って、立ち向かうのだ。


「あと一両なんだ、何とかするしかないだろ」


 そんな大地を理解できないと言うように、エレンは問い詰めた。


「何とかって、正気? それとも狂気? 策があるの? 目論みがあるの? 自信家なの? それともただの強がり? 言っておくけど早死にするのはいい男じゃなくて、いい加減に生きてる男よ」


 大地は冷静に答える。


「できるかできないかじゃない。ここまで来たら、やるかやらないかのどちらかしかないだろ」


 エレンがそれで安心するというのであれば、大地だって盛大に慌てふためいてやっても良かったが、実際には何の役にも立ちはしない。

 起きたことは覆せないし、これからだってなるようにしかならない。


「それにあの戦車には日本の戦車に無い弱点がある」


 エレンは眉をひそめる。


「弱点?」


 大地はうなずく。


「ああ、俺には、いや日本の戦車兵ならエンジン音で分かる」

「エンジン音ですって?」


 犬神の血によるものだろう、尖った耳をひくつかせながらエレンは聞き耳を立てる。

 しかし戦車兵では無いエレンには九七式中戦車チハとM4シャーマン中戦車のエンジン音の違いを聞き取ることはできても、それが何を意味するのかまでは分からない様子だった。


「これが、勝利の鍵だ」


 大地が取り出したものに、エレンは目を見開いた。


「これが?」

「ああ」


 大地はうなずく。


「勝てるのね?」


 エレンの言葉は確認と言うより念押しだった。

 だから大地も笑顔で答える。


「誰に言ってるんだ?」


 先ほどのエレンの言葉をそっくりそのまま投げ返す。

 それでエレンは納得したようだった。


「いいわ、そんじゃ任した」

「了解、任された」


 そして二人で上げた右手同士を再度打ち合わせる。

 今度は大地もタイミング良く反応できた。

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