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第六章 鉄壁に挑む-6

 エレンは瞳を見開き…… やがて表情を改めてこう言った。


「待ち伏せならエンジンを止めた方がいいんじゃないの? 目立ちたがり屋より恥ずかしがり屋の方が長生きできるのが戦場だって言うわ」


 エレンの言うとおり九七式中戦車チハが搭載するジーゼルエンジンは静かとは言い難い。

 待ち伏せのためにはエンジンを止めた方が良かったが。


「チハは…… この戦車はエンジンをかけるのが難しいんだ。再起動に失敗した場合を考えると、そんな危険は犯せない」


 アウレーリアの腕前を考えれば大丈夫かも知れないが、それでも万が一がある。止めた方が無難だった。

 しかし、


「なら、こういうのはどう?」


 そう前置きしてエレンが提案したのは常識外の手段だった。


「できるのか?」

「誰に言ってるの?」


 確かめる大地に、エレンは八重歯のようにせり出した犬歯を見せながら笑った。


「この身体になってから力が余っているみたいでね」


 それで大地は信じた。


「なら任せた」


 エレンは右手を上げていた。


「うん?」

「ハイタッチよ。手を貸して」


 よく分からずに真似て上げた大地の手にエレンは自分の手のひらを打ち合わせる。


「任されたわ」


 笑ってエレンは言った。




「ここは……」


 楓は伏見稲荷の境内にて水を浴びて禊を済ませた後、本殿の背後にある千本鳥居をくぐったのだが、気が付けばどこぞの寺院の中へと導かれていた。

 神社への入り口に立つ鳥居は神域へと入る人間のための入り口を表し、ここから先が神域であることを示している。

 それが無数にトンネルのように連なる伏見稲荷の千本鳥居。

 異界化した日本でも特に霊気の強い京都だ。

 どこに飛ばされても不思議では無かったが。

 いや、しかしここは、


「東寺?」


 先ほど訪れた東寺、教王護国寺だった。


「なるほど、東寺には古くから稲荷神が鎮守社として祀られていましたね。そのご縁によるお導きですか」


 しかし、ここは現在ではないようだ。

 袈裟をまとった僧たちが声明を唱えつつ行進しているが、場違いな巫女装束姿の楓に見向きもしない。


「過去、ですか」


 何か、いや稲荷神に導かれ、楓が向かったその先では護摩が焚かれ出仕した高僧たちが一心不乱に祈りを捧げていた。

 独特のフシがある読経が音楽のように響く。

 荘厳なまでの祈りの場に楓は圧倒される。


「これは、まさか大元帥法?」


 真言密教における大法。

 それではこれは大戦中、全国の寺社で怨敵の調伏、国家安泰のために行われた儀式修法なのか。

 そうして楓は大僧正を始めとした居並ぶ僧たちの中に軍服姿の男を見つける。


「乾将軍!」


 だがしかし、行動しようとした瞬間に身体と心にかかってきたとんでもない重圧に楓は膝をつきそうになる。


「くっ、重過ぎます」


 相手はこの京の街で千年以上の時を経て受け継がれた国家鎮守の祈りであり、更に全国の寺社の加護を受けた存在なのだ。

 楓一人で抗うのは無謀に過ぎた。

 例え、その命を懸けたとしても。


「大地さん……」


 楓は悲壮な覚悟を胸に、血の気が引いた唇を引き締めた。




 九七式中戦車チハはエンジンを停止させ無音で敵を待ち伏せる。


「……来るぞ」


 戦車砲を構えながら、大地は追撃してくるM4シャーマン中戦車のエンジン音を聞き取りつぶやいた。


「無防備に突っ込んで来るとはのう。やつら、もう勝った気でおるのではないかえ?」


 操縦手席からアウレーリアが呆れ声を上げる。

 それに対し、大地は低く抑えた声でこう答える。


「それも無理ないとも言えるな。チハの戦車砲では例え装甲の薄い側面や背面を至近から撃ったとしても貫けないんだから。待ち伏せを気にするよりは逃げられないよう距離を詰めるのが上策だ。……普通であれば」

「普通であれば?」

「ああ、こっちには連隊長殿に託された奥の手がある。売られた喧嘩を買うんだ。この際出し惜しみは無しだ」


 その手札は既に戦車砲の薬室に装填済みだった。


「自分たちの戦車を信じるのもいいが、戦場では信用し過ぎるやつは長生きできない仕組みだ。迂闊な者には相応の授業料を払ってもらうさ」


 それが戦いの掟だと、大地は戦車兵学校の教官から習っていた。


「勝てるのか、あれに」


 アウレーリアの問いには、こう答える。


「そいつはやってみないことには分からないってものさ。一つ賭けてみるか?」


 そして消えかけた煙幕を突き破ってM4シャーマン中戦車が姿を現した。


「無防備な横腹を晒すか。徹甲弾の直撃を受けて平気な戦車には驚いたが」


 大地は目前を通過していくM4シャーマン中戦車にしっかりと照準を合わせ、引き金を絞る。


「だが、それももう居なくなる」

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