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第六章 鉄壁に挑む-5

「効いてないわよ!」


 エレンが悲鳴を上げるが、


「大丈夫だ。目的は撃破じゃないからな」


 そう言いつつ、大地は黙々と手持ちの榴弾全部を使い切るぐらいの勢いで射撃を続ける。


「エレン、神様は?」


 互いに砲火を交わしながら唐突に大地は聞く。


「え、そりゃ信じてるけど」

「なら、何だっていい。お前の神様に祈っておいてくれ」


 じりじりと距離を詰めるM4シャーマン中戦車に、効いた様子の無い射撃を続ける大地。

 至近弾がかすめて行くが、意に介そうともしない。

 エレンは悲鳴交じりに叫ぶ。


「神様! この男、どうかしてるわ!」

「納得のいく結論に達したようで何よりだ」


 砲塔内壁のラックに格納している即応弾はすぐに使い尽くし、大地は車室内にあるアルミ合金製弾薬箱からも取り出して撃った。

 すると、こちらから集中して連打を浴びせていたM4シャーマン中戦車一両が不意に動きを止めた。


「ええっ!?」


 神への祈りが通じたのかとでも思ったのだろう、驚きの声を上げるエレンに、大地は不敵に笑って説明する。


「例え装甲が破れなくとも、大きな衝撃を与えれば内部で故障を引き起こすこともできる。さもなくば、こちらの挑発に耐えかねて操縦手がエンジンの回転数を上げ過ぎたか。ともかく、撃ちまくった甲斐はあったようだな」


 残り四両。

 しかしそのとき、距離を詰めるために前進し続けていたM4シャーマン中戦車が次々に停車した。


「躍進射が来るか!」


 躍進射とは機動間に瞬時停止した際に照準、射撃を行うものだ。


「発煙筒点火!」


 大地は即座に砲塔上部の左側に装備した四連装の発煙筒に点火する。

 もうもうと上がる白煙に九七式中戦車チハの姿が包まれていく。

 そこにM4シャーマン中戦車が次々に発砲するが、


「早過ぎだ。焦ったな」


 躍進射と言っても、停まってすぐに撃てるものではない。

 車両を支える懸架装置の揺れが収まるまで待たないといけないのだ。

 案の定、タイミングが早過ぎた砲撃は九七式中戦車チハの上や横を、音を立てながら通り過ぎて行く。

 そして次弾が装填され、射撃が可能となる前に九七式中戦車チハの姿は白煙の中に包まれていった。


「よし、進路転換百八十度!」


 大地の指示に、アウレーリアは後退の勢いをそのままに操行ハンドルを操って派手に履帯を滑らせながら車両を反転させる。

 視界が遮られたためかM4シャーマン中戦車からの砲撃は止んでいた。

 代わりに機関銃の掃射音が断続的に鳴り響き、時折、車体に当たって甲高い音を立てて弾かれる。


「まったく、ノックの音にしちゃ激し過ぎるわよ」


 おどけて見せるエレンだったが、しかし真剣な口調に切り替えると、


「砲塔上のM2重機関銃が外されているのが救いね。あったらこんな軽戦車、簡単に蜂の巣にされるわよ」


 と言う。

 彼女の言うとおり、M4シャーマン中戦車からの銃撃はM1919中機関銃によるものだった。

 使用弾薬は小銃ライフルと共用のものなので、九七式中戦車チハの一番厚い部分でも二十五ミリという薄い装甲でもしのげる。


「何でまた重機関銃を外したりしてるんだ? まぁ、お陰で助かってるが」


 大地が不思議に思って問うと、エレンはため息交じりに答えた。


「日本兵対策という話だったわ。風の噂に聞いた話だけど」

「風なんかと噂話をするのはどうかと思うがな」


 そう口を挟む大地だったが、エレンはそれに乗らず、真剣な口調で話を続けた。


「戦争中、銃火をかいくぐってこちらの戦車の上に飛び乗った日本兵が、まわりのアメリカ兵めがけて機関銃を乱射するっていう事態が多発したそうなの」


 ドイツ軍の十三ミリ対戦車弾を元に開発したという十二・七ミリの弾丸を扱う大口径機関銃だ。

 九七式中戦車チハでも条件次第では装甲を貫通される。

 そんなものを味方であるはずの戦車から乱射されてはたまったものではないだろう。

 給弾ベルトの長さは約八メートルもあるというから、装弾数も桁違いだ。


「こっちだって勇敢さでは負けていないつもりだけど、そこまで行くと正気とは思えないわ」

「南方で散った方々のご加護か……」


 大地は、名も知らぬ先達に感謝する。

 そこに敵機関銃からの射撃が連続で車体に当たり、装甲に弾かれ激しい音を立てた。


「避けろ!」


 大地の叫びに間髪入れずアウレーリアが反応し操行ハンドルを操作。

 そうして車体をずらしたとたん、煙幕を突き抜けて砲撃がついさっきまで居た場所を通過して行った。


「……神業じみた読みよな」


 さすがに息を飲んでアウレーリアが言う。

 それに対して大地は首を振った。


「アメリカの戦車は砲と同軸に機関銃を装備しているんだ。それで当たりを付けて撃ってきたんだ」


 大地はそれを察知して直前での回避を指示したのだった。

 ともかく、発煙筒の煙を散布し終えたところで大地はアウレーリアに次の指示を出す。


「次の小路に後ろ向きに入って大路に前を向けて停まってくれ」

「承知した」


 三人を乗せた九七式中戦車チハは煙幕の立ち込める大路から外れ、小路に停車し敵戦車を待ち受ける。


「逃げないの?」


 そう問うエレンの言葉を大地は笑い飛ばした。


「逃げる? どうして? やっと暖機が終わったところだぞ」

「劣勢のくせに笑うのね。怖くは無いの?」


 呆れたように言うエレンに、大地はこう答える。


「怖いさ、だが俺は天邪鬼でね。脅されれば脅されるほど反抗してみたくなるのさ」


 そして宣言する。


「それに最後にはこちらが勝つんだからな」

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