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第六章 鉄壁に挑む-4

「そんなこと言って、運悪くまぐれ当たりでもしたらどうするのよ」


 そう問うエレンには、


「もちろん、笑って誤魔化すさ」


 そう答えるが、しかし突っ込まれる。


「笑う前に死んじゃうでしょ」


 もっともな話だった。

 だから大地も、


「違いない。俺も命に関しては生憎、予備は持ち合わせていないしな」


 そう、同意する。


「なに、徹甲弾なら当たらなければどうということはない」


 当たらなくても近くで爆発すればそれでいい榴弾に比べれば、装甲を貫通させる目的で造られた徹甲弾は命中しない限り無害だった。

 五両の敵戦車から砲撃が雨あられのように放たれるが有効な射撃は一つとして無かった。


「下手くそめ、夜店の射的で練習してから出直して来い」


 大地は砲架に付いている肩あてで砲を動かし微調整を行う。


「発射用意!」


 そして照準が合った瞬間、引き金を絞った。


「狙い撃つ!」


 轟音と爆炎と共に砲弾が発射される。

 砲身が後退して発射の反動を吸収した。

 同時に真鍮製の空薬莢が蹴り出される。

 そして後座した砲身は復座機のバネによって元の位置に戻った。

 使用済み薬莢は薬莢受に下げられた袋に受けられる。

 白い煙、硝煙がそこから漂い車室後部に設けられたエンジンの吸気口に吸い込まれていった。

 そして一式徹甲弾は、M4シャーマン中戦車の車体正面に着弾。

 爆発する。


「当たってるじゃない!」


 エレンが驚きの声を上げる。


「低速機動での行進射は徹底的に叩き込まれたからな。本当の射撃っていうのはこうやるものさ」


 これは日本独自の技術で、肩あてで調整できる軽い砲だからこそできる技だ。

 要するに、走行による車体の振動を人間が足腰を使って吸収し砲口をぶれさせないようにするのだ。


 その上で、的の大きさの違いがある。

 M4シャーマン中戦車は航空機用星型エンジン、駆動軸の周囲三百六十度にぐるりとシリンダーを配したプロペラを回すあれをそのまま流用して車体に突っ込んであるので車高が高くなっており、前方投影面積が大きいのだ。

 シリンダーを縦置きでは無く左右斜め、V型に配したエンジンの採用で車高を低く抑え、前方投影面積を小さくした九七式中戦車チハとは対照的だった。

 だが、


「貫通せず、か」


 爆煙の中から飛び出してきたM4シャーマン中戦車の動きには、砲撃の影響はまったく見られなかった。


「砲塔根元の車体との継ぎ目を狙ったんだが、そう簡単には当たらない…… いや、当たったとしても貫けないか」


 九七式中戦車チハの装備する戦車砲では、M4シャーマン中戦車の正面装甲を破ることができないのだ。

 これは無理もないと言える。

 九七式中戦車チハは歩兵を支援する目的で開発された戦車であって、対戦車戦には不向きだった。

 そもそもそのために造られてはいないのだから。


 相手戦車の装甲を破るには大口径、長砲身で初速が早い砲ほど良いが、九七式中戦車チハが搭載する戦車砲は、口径はともかく短砲身で初速は低い。

 初速が早すぎる砲では非装甲目標に対して榴弾を撃ったときに砲弾が地面にめり込んでから爆発し、威力が弱まってしまうためだ。


「無理ね。まともにやって勝てるわけが無いわ」


 エレンが絶望の声を上げる。


「人生っていうのは配られたカードで勝負するしかないものだけど、いくら何でもこれじゃあ……」


 だが、大地は意に介さない。


「そんなことは分かっている。分かっているが、分かるわけにはいかん!」

「って、無茶ゆーな!」

「負けるやつっていうのは最初から決まっている。それは、己を見失い実力を発揮することができないやつ、そして土壇場まで追い詰められたときにそこでなにくそと押し返せないやつだ」


 自ら膝をつくなど、勝負を捨てたやつのすることだ。


「……それでダイチ、勝つ見込みはあるの?」

「俺が何のためにここに居ると思う? 遠足に来たようにでも見えるか? 弁当だって持ってきていないぜ」


 大地はエレンと言葉を交わしながらも今度は九〇式榴弾を装填し、


「なに、要は戦術と腕だ。見てろ、ちょっと大きめの花火を上げてやる」


 狙い撃つ。

 発砲音、そして排莢される薬莢。

 榴弾は主に火薬の爆発力によって敵歩兵や軽車両、敵拠点を潰すものだ。対装甲車両には向かないものだったが。

 M4シャーマン中戦車に命中し、大きな爆発を起こす。

 九〇式榴弾の効力半径は十メートルだ。

 五十七ミリと口径が大きく、弾頭に込められる炸薬の量も日本軍の九一式手榴弾の四倍強と多くなる。


「乱れ撃つ!」


 大地は榴弾をつるべ撃ちに放つ。

 自動鎖栓式の閉鎖機を採用し装填から照準、発射の一連の手順すべてを一人でこなせるこの戦車砲は、熟練した砲手の手にかかれば発射速度はかなりの速さに達する。

 その上で命中率は七割程度か。

 走行中の射撃としては驚異的な命中精度だった。


「人間業じゃないわね」


 感嘆の声を上げるエレンに、大地は何でもない口調で答える。


「戦車兵学校の卒業生なら、これぐらい普通にこなすぞ」


 実はこの砲は弾速が遅い分、慣れると飛んで行く弾が見えるため加減が分かるということもあったが。

 エレンは呆れ顔で言う。


「そんな超人に頼ってブリキの戦車に乗っているから、日本は負けたのよ」


 それはそうかもしれない。

 徹甲弾で貫けない装甲に榴弾ではヒビ一つ入れることはできなかった。

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