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第六章 鉄壁に挑む-1

「機関部左側にあるのが照準眼鏡だ」


 自分にも銃を撃たせろと言うエレンに、大地は高射託架に載せていた機関銃を車体に戻して取り扱いを説明する。


「スコープ付き? 日本の機関銃は贅沢ね」


 口笛を吹いて感心するエレン。


「ああ、的を狙えば外さない。それが日本の機関銃だ」


 大地は日本における機関銃の在り方について言及する。

 日本陸軍では歩兵の使用する軽機関銃にすら光学照準器が用意され、九二式重機関銃に至っては日本光学社製の光学照準器の使用により二千メートル先の人間すら狙い撃つことが可能だったという。


「二千メートルって、狙撃銃でも有効射程はその半分ぐらいでしょ。日本の機関銃は化け物ね」


 エレンは目を剥いた。


「弾倉には弾が二十発入っているが、連続で使い切ったりはするなよ。銃身が焼き付けを起こす。基本は引き金の指切りで三発分ずつ連射させる三点射だ」

「分かったわ」


 しかし、どうして従軍看護婦に過ぎない彼女が銃を取る気になったのか、疑問に思う大地だったが、


「ヨーロッパで看護のためについて行った部隊がドイツ軍に囲まれてね。どうしようもなくなって銃を手に取ったことがあるの。本当はいけないことなんだけど、四の五の言ってられる場合じゃなくてね」


 エレンが自分から説明してくれる。


「まぁ、あのときは味方が助けに来てくれたんで、助かったんだけどね」


 今度は援軍を期待する訳にも行かない。正念場というやつだろう。


「機関部左側面の槓桿…… レバーを引けば初弾を薬室に送れる」

「こう?」


 エレンは言われたとおりにレバーを引いて、初弾を装填した。


「そうだ。それで機関部の上に突き出た弾倉の後ろにあるのが弾倉止めだ。弾倉の交換のときに押せば外せる。予備の弾倉は、見てのとおり足元の棚に入っている」

「分かったわ」


 エレンは機関銃を構えた。

 砲塔上面、展望塔ハッチから頭を出した大地は暗雲が垂れ込め重苦しい空気に包まれた京都の街を見回した。

 周囲を警戒しながら九七式中戦車チハは京都の大路を進む。

 この地にはびこっているという魑魅魍魎の姿は無かった。

 おそらく怨霊と成った乾将軍の力に圧倒され、息を潜めているのだろう。

 異様な圧迫感だけがあった。


「何か策はあるのかえ?」


 操縦手席のアウレーリアが場違いに軽い調子で問う。


「教官曰く……」


 大地は、少年戦車兵学校の担当教官の顔を思い出しながら語った。


「後のことは後で考えろ、と」


 アウレーリアがため息を漏らした。


「それはつまり、出たとこ勝負という訳かの」

「そうとも言うな」

「ってか、そのまんまでしょ!」


 エレンがやけくそのように突っ込んだ。


「まぁ、勝算なんて贅沢なもの持ち合わせちゃいないがな」


 大地は笑って言い放つ。


「見込みのない場面でも強気に通すことを、世間では勇気と呼ぶのさ。あきらめたらそこで、あらゆる可能性がゼロになるからな」

「それは……」


 厄介な状況ではあるが、どのみち人生など不自由なものだ。

 どんな問題にだって向き合わないことには前に進めないことになっている。

 誰も彼も自分の思いどおりに生きられる訳じゃない。

 それに、状況は時間の経過と努力次第でどのようにも変わるものだ。


「俺は何もあきらめない。何もかも取る。すべてだ」


 それを聞いていたアウレーリアは不意に真面目な声を出して告げた。


「大地……」

「うん?」

「妾たちをここまで連れて来てくれて、礼を言う。ありがとう」

「あ、ああ」


 大地はアウレーリアの態度に戸惑う。

 そんな大地にアウレーリアが告げた。


「正直、大本営に伝わってきた京都の様子から、あらかじめ予想はできていたのだ。終戦前に日本帝国陸軍陰陽将校、乾将軍が京都を拠点に全国の寺社で行った呪法が大異変の元凶となったこと。軍の指揮下から離れた乾将軍が、おそらく妄執に囚われていること」


 大地は息を飲む。


「それじゃあ……」

「だから、それを鎮めるために霊格が高く総本社が京都にある神職の者。稲荷大明神の巫女である楓が選ばれ、それを送り込むために我らはこの地を目指した。伏見稲荷大社が無事なのも、最初から分かっていたことなのじゃ」


 だがしかし、


「それなら、もっと護衛を増やした方が良くなかったのか?」


 楓がやられたら元も子もない。

 戦車一両だけでというのも解せなかった。


「楓が申したであろう、自分が守護できる範囲は戦車一両と。今、無事なのも彼女がそなたを信じて八百万の神に守護を真摯に願っているからなのだぞ。どんな都合も理屈も関係がない。ただ『好き』ということはそれだけですべてをしのぐ。彼女が心から信じられる存在、それがそなたなのじゃ。この任務、そなた以外には不可能なのじゃよ」

「だから俺なのか……」


 大地は己にかけられた信頼の重さを噛みしめる。

 そんな大地にアウレーリアは声音を一転させ、幼い外見に似合わぬ艶を含んだ声で告げた。


「無論、妾もそなただからこそ信じてこの身を任せているのだがな」

「アウレーリア?」

「不意に現れた神秘をこの国は当たり前のように受け入れてくれる。そなたが妾の存在に対し何のわだかまりも無く受け入れてくれたようにな」


 アウレーリアは朗らかに笑った。


「このような国、日本の他には無いぞ。異質なものは排斥されるのが世の常なのに。だからこそ、我ら天人はそれぞれが己の意志で日本政府に協力しておるのじゃ」


 大地たち日本人にとっての普通が実は希少なもの、神に近いと言われる天人たちが力を貸すに値するものなのだとアウレーリアは語ってくれた。

 そして大地は思う。

 信頼には信頼で返さなければならないと。

 そんな大地だからこそアウレーリアは力を貸してくれるのかも知れなかったが。

 だから冗談めかして言う。


「なぁに、夕飯までにはすべて片が付くさ」


 是非ともそう願いたいものだった。

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