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第五章 真相-4

「はあああっ!」


 エレンが気合いと共にコルト・ガバメントの残弾すべてを叩き込むが、乾の姿はゆらぎもしない。

 弾を撃ち尽くし、スライドが後退したまま停止した銃を捨て、楚々とした看護服姿とは裏腹に野獣のごとく飛びかかるエレンを、乾は一歩も動くことなくいなして見せる。


「ククク、死んだ仲間が呼んでおるぞ。あの世への旅路は人数が多い方が寂しくなかろう?」

「そんな気遣いは無用よ!」


 乾の言葉を斬って捨て、エレンはなおも挑む。


「まだ向かって来るか。勇気や努力でどうにかなることと、ならないことが分からぬ愚か者から先に死んでいくものよ。昔からな」


 反射的に腰のホルスターに手をまわした大地だったが、それを楓が止めた。


「怨霊に銃など効きません。ここはこらえて、伏見稲荷大社に私を連れて行って下さい!」

「楓?」

「行くぞ、大地」


 話し合う間も惜しいとばかりに先行してアウレーリアが九七式中戦車チハに乗り込む。

 次いで楓が、そして大地が乗り込んだ。


「戦車前へ!」


 操縦手席のアウレーリアがアクセルを踏み込んで急加速を行う。

 そのまま乾とエレンが戦っている中に突っ込んだ。


「乗れ、エレン!」


 エレンは砲塔上の展望塔ハッチから手を差し伸べる大地に戸惑ったが、


「利用できるものは利用する…… それも自分のことは自分でするという考え方の内であろう? そも、必要なときに力を借りられるというのも、当人が持つ人脈という財産であることだしな」


 アウレーリアにそう諭され、獣のような素早さで九七式中戦車チハの上に駆け登り、しがみつく。

 戦車跨乗兵。

 日本軍では兵員輸送車を配備する国力がなくトラックも不足していたため、歩兵が戦車に便乗しての移動がしばしば見られた。

 戦場では戦車の上に歩兵を乗せての敵陣への突入も行われたという。


「よし、アウレーリア」

「承知した」


 こうしてエレンを後部に乗せた九七式中戦車チハはその場を離脱する。


「待て! 勝負はまだついておらんぞ」


 乾の声が背後から投げかけられたが今は無視する。


「よし、中に入ってくれ」


 乾を引き離したことを確かめ、大地は砲塔上のハッチから車内にエレンを強引に引き入れる。


「いたた、荒っぽいわね。あなた、女性の扱いはいつもこうなの?」

「急ぎの場合だけさ。こんなときまで紳士とやらじゃいられないんでね」


 ともかく、ようやく一息つく。


「あーもう、何よこれ」


 長く伸びた髪をうっとうしげに掻き上げるエレンの前に、楓が小さな手鏡を差し出した。


「どうぞ」

「サンキュ、って、えええっ!?」


 エレンは先が尖り体毛が生えている狼の耳を驚きにピンと立たせ、そうして声を上げた際に覗いた鋭い犬歯を見てまた驚く。


「何なのこれ、ドラキュラじゃないのよ」


 エレンは涙目でその歯先を指で突きながら言う。

 しゅんと耳が垂れ下がり、叱られた子犬を思わせた。

 はたで見ている大地には、その大きな胸を持つ見事な女らしい身体と子供のように素直な表情の落差がとても印象的だった。

 ともかく、


「別に、それは可愛いからいいんじゃないか?」


 大地は当然のように言ったが、エレンはぴしりと固まった。


「え、うぇ、か、可愛い!?」


 顔を真っ赤にしてしどろもどろに言う。


「ああ、そう思うが。……どうかしたか?」

「あ、あう……」


 美人故に綺麗とは言われ慣れているのだろうが、反面、可愛いという言葉には免疫が無いらしいエレン。

 また、八重歯は西洋では狼や吸血鬼を連想させ良くないものと考えられているが、日本では魅力的なものと受け止められる。

 その差が二人の認識の違いとなっているのだが、それに気づく者はここには居なかった。


「初心よな。あなたになら愛を強制的にねじ込まれても構わない、くらい言いそうな身体をしておるというのに」


 アウレーリアが茶化す。


「無茶苦茶言わないでよっ!」


 エレンは悲鳴交じりに叫んだ。

 見た目に反して随分と純真らしい。

 話に収拾がつかんな、と大地が思ったところで楓がぽつりと言う。


「収拾がつかなくなっても続くのが人生ですよ」


 やはり考えが読まれていると冷や汗をかきつつも、大地は時間が無いため気を取り直した。

 頭を下げて車内の楓に問う。


「で、これからだがどうする気だ?」

「怨霊を祓うことは不可能です。ですからうちの総本社…… 伏見稲荷大社が無事ならそこで怨霊となった乾将軍を祀り鎮めることになります。それしか手段が無いのです」

「祀り、鎮める……」

「祟り神を祀って、その怒りを鎮める。日本では古くから行われていたと聞くぞ。道真公然り、将門公然り」


 アウレーリアが、その知識を披露して説明する。


「ただ正直に言って、あれだけ多くの怨念を取り込んだ怨霊を鎮められるのか自信はありませんが」


 そうつぶやく楓の顔は血の気が引いていた。

 見ているのが痛々しくて、大地はその頬に手を当てた。


「責任、感じてるのか」

「……はい」


 楓は大地の手のぬくもりにすがろうとするかのように目を閉じ、大地にされるままになる。

 大地は、そんな楓の頬を撫でながら言う。


「責任なんてものに形はない。大事なのは自分にできることから目を逸らさないこと、心を偽らないこと。現実を見つめること、そして乗り越えることだ」


 そして、おどけて笑って見せる。


「まぁ、戦車兵学校時代の教官殿の受け売りなんだがな」


 それで楓も、おずおずとだが笑ってくれた。

 だから、大地は言葉を重ねる。


「昔、坊さんに先行きを考えて不安になるのは望みが高いからだって言われたが、望みを持たずに生きていたって仕方が無いよな。それは結局、物事の表と裏なんだ。どうせ最後は皆死ぬって分かってるんだから、この身体に熱量がある内は、上を目指して戦っていたい。俺はそう思う」


 それが、大地の本音だった。

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