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第五章 真相-3

 乾は懐からまじないが描かれた紙の札を取り出していた。


「急急如律令!」


 半透明の障壁が現れエレンの一撃を阻む。

 しかし、


「はあああっ!」


 エレンの上半身のしなやかな筋肉が、看護服越しにでもみしりと張るのが見て取れた。

 そして彼女は力づくで障壁を破った。

 引き裂かれた札が、一瞬後には繊維にまで分解し塵となって風に流される。

 乾は身をひるがえしながら薄く嗤った。


「中々やるな。気に入ったぞ、その力」

「ゴー・フォア・ブレイク、当たって砕けろがあたしたち日系人の合言葉よ! 守るべきものも、志も無く、ただ狂った復讐心に盲従しているクズ野郎に、合衆国の誇りと安全を汚されてなるものですか!」


 エレンは言い放つ。


「死を恐れぬと?」


 乾の問いに、エレンは笑った。


「怖いに決まってんでしょ。怖い、とても怖いわ。でもあたしには理不尽と不正義に屈することはできない。それがあたしたちアメリカ人よ!」


 そう宣言する。


「志半ばで死んだって誰かが後を継いでくれるわ。死は誰にだって平等に、いつかは訪れる。そのときに少しでも笑うことができたらそれが幸せってことよ!」


 エレンが唸る。


「あたしは全力で生きている! あんたは全力で生きてるって言える!?」


 その言葉に答えるように乾は軍刀を抜いた。


「たわけが、何十万もの死者の怨みを背負ったこの身に聞くことか!」


 エレンはホルスターから、アメリカ軍制式拳銃コルト・ガバメントを抜き放つ。


「それこそ知ったことじゃないわ! どんなになってもあんたはあんたでしょう。そんなことも分からないの、このもうろく爺!」


 乾の軍刀がエレンへと袈裟斬りに振り下ろされる。

 常人では躱せぬ必殺の一太刀を、エレンは犬神の血が顕れた身体能力によりぎりぎりでかわした。

 のみならず、下段蹴りで反撃すらして見せる。

 軍刀の持つ間合いを避け、乾の踏み出した足元を狙った一撃。

 しかし、


「足癖が悪い女だ」


 乾はあっさりとエレンの蹴りをかわす。


「悪かったわね。足が長すぎてどうにも持て余し気味なのよ」


 エレンはそううそぶいて見せるが、乾は取り合わなかった。

 すうと瞳を細め日本刀仕込みの軍刀を構える。


「我は、成さねばならぬことを成すだけだ。それを見てどう思うかは周りの者の自由だろう」


 乾は軍刀を振るいながら語る。


「我を見て良く思おうと悪く思おうとそこにはその人間自身の判断、人間性が現れる。他者は自分自身を映し出す鏡よ。だから我は、他人が何を思おうとそれを止めるつもりはない」


 そして己自身、止まるつもりもない。

 ゆるぎない信念を表す言葉。


「印は付けた」


 乾の軍刀がエレンの看護服の胸元を切り裂き、その下にあった傷痕を露出させる。


「贄の用意もできておる」


 嗤う乾をエレンが睨み返す。


「あとわずか、あとわずかで術は成る」


 何とか紙一重で乾の連撃を躱し切ったエレンはコルト・ガバメントを構えた。

 自らの命を撃ち込むかのように引き金を絞る。


「待て!」


 何かに気付いた様子のアウレーリアの制止と、重なるように吠える銃声。

 四十五口径の大口径拳銃だからこその重々しい、しかしどこか物悲しいような余韻を残す発射音だった。


「ぐはっ、ははは……」


 乾は左胸を朱に染め、致死の一撃を受けながらも嗤って倒れた。

 異様な沈黙が流れる。

 あまりにあっけなさ過ぎた。


「やったの?」


 エレンが拳銃を構えながら乾に近づく。

 が、次の瞬間、乾の身体から影が走った。


「カカカカッ!」


 人外の笑い声。

 影は離れたところでゆらりと形を変え、倒れ伏している乾とまったく同じ姿を取る。


「尸解したか」


 アウレーリアが、苦虫を噛み潰したかのような口調で言う。


「シカイ?」


 拳銃を手にしたまま硬直したエレンが問う。


「左様。どうしてわざわざアメリカ人を一人だけ残してこの京の街までいざなったのか。どうして相手を挑発し、自分を撃たせたのか」


 アウレーリアは言い切る。


「怨念の依巫とした己の身を、敵の手で殺させることで呪いを完成させる……」


 乾の言う贄、生贄とは乾自身のことだったのだ。


「そのとおり」


 乾が答える。


「これで我は怨霊と成った。もはや何者にも我が身を止めることはできぬ」


 そのために簡単に姿を現し、この世界の秘密を隠すことなくあっさりと口にし、自らの計画を語ることでエレンの怒りを煽った。

 すべては乾の手のひらの上という訳だった。

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