表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/44

第五章 真相-2

「過去を顧みるのもまた大切だし、未来への展望だって、無いよりはあったほうがいい。だけど、今、この瞬間にあるべき確かな自分というものが無ければ、そんなことを考えたところで意味はないだろう?」


 エレンの瞳を真っ直ぐ見つめて言う。


「今に全力を尽くすから、未来が拓ける。誰にでもできることだと、俺は思う」


 元、敵国人であるはずのエレンを、大地は不思議と憎むことができなかった。

 彼女の血の半分が日本人であることもあるのだろう。

 そして、それでも自分はアメリカ人だとこだわり、苦悩する彼女の姿は自分と同じ人間としか思えなかった。

 空襲で焼け野原になった名古屋の惨状を見た後だというのに。

 日本帝国軍人としては失格だろうか?

 いや、人としてどうかだと大地は思う。


 エレンは笑って大地の言葉に答えた。


「それならいつだって、あたしはやってきたわ。今更言われるまでも無いわね」


 そう言い切る彼女の表情に、既に迷いは無かった。

 だから大地は言う。


「運なんてものは力ずくで引き寄せるものだ。嘆くばかりで不運なめぐり合わせに自分でしがみついていてもしょうがない。誰だってそうだが、自分は自分自身のものだ。自分の生き方ぐらい自分で決めるもんだろ?」


 そんな二人をよそに、アウレーリアは口を開いた。


「乾将軍、この地で何を、と聞いても?」


 乾は良く通る声で誇るように答えた。


「無論、この地を守護せし八百万の神に祈り、怨敵を滅ぼすのが我の役目」


 その返答に、アウレーリアの紫にけぶる瞳がすうと細められた。


「それで、アメリカに向けて国を挙げての呪詛をこの地で行ったと?」

「じゅそ?」


 大地の問いには楓が答えてくれた。


「呪いのことです」

「化け物め……」


 乾の力の一端を身体で教えられたエレンが、脂汗をぬぐいながら毒づく。

 だが乾はその言葉を鼻で笑った。


「我が持つ恨みの力。誰が与えたのか分からぬと見える」

「なんですって?」


 乾は顔を一転して憤怒に歪めて言い放つ。


「忘れたとは言わせぬ。東京で、大阪で、名古屋で、神戸で、静岡で…… 貴様らは無差別に何十万もの民を空襲で殺した。その恨みの念が我にささやくのよ。辛い、苦しい、怨めしいとな」


 乾の身体から、半ば実体化した怨念が噴き出した。

 皮膚を焼かんばかりの濃密な怨みの念、このまま晒され続ければ心身を蝕まれてしまうだろう。


「聞こえるか、この声が」


 乾はエレンを見据え、憎々しげに言い放った。


「貴様らへの、恨みの歌が」

「空襲で亡くなった方々の怨念を集めた人蠱…… その身を依巫にしてまで、怨みの力を取り込みましたか」


 楓が怖れを含んだつぶやきを漏らす。


「何が恨みの力よ! アメリカは勝ったのよ! 新型爆弾を落とされ、日本は降伏したでしょうが」


 エレンが吠えるが、乾はそれを嘲笑った。


「広島の新型爆弾の投下、確かにあれは凄まじいものがあった。あれ一撃で数万の民の命が失われ、急激に膨れ上がった怨念に呪詛は暴走した」

「それが大異変?」


 核心を突くアウレーリアの言葉に、大地は思わず息を飲んだ。

 しかし乾は露ほども動じず、あっさりとうなずいて見せた。


「いかにも。それで日本の霊的均衡が崩れた。この地の異界化はそのためよ」

「はっ、自滅ってわけね」


 エレンが嘲るが、乾は笑みを消さなかった。


「分かっておらぬようだな。大異変によりこの地の霊気の密度が高まったということは、超常の力が何倍にも増幅されるということ。つまり……」


 乾の言いたいことが分かったのか、楓が硬い表情で言った。


「あなたの力もまた、上がっているということですね。おそらくは、道真公の怨霊すら超えるほど」


 菅原道真公は平安時代の貴族で右大臣まで昇ったが讒訴により大宰府へ左遷され現地で没した。

 死後天変地異が多発したことから、朝廷に祟りをなしたとされ、天神として畏怖の対象となったという。


「道真公は九州大宰府で亡くなってなお、京の内裏に雷を落とした。ならば我は遠くアメリカ本土に祟って見せよう」


 そして乾はエレンに向かって言った。


「九州に向かった貴様らの別働隊の探し物を使ってな」

「まさか!」


 エレンの顔色が変わった。

 それを愉しむように、乾は言葉を続けた。


「お前の仲間は、良く囀ってくれたぞ。ぐれむりんなる小鬼に落とされ、我らが手の内に落ちた爆撃機の積荷。広島に次いで、この神州を穢そうとしたもの……」


 たっぷりと間を置いて告げる。


「ふぁっとまんという次元振動弾のことをな」


 西暦一九四三年一〇月二八日、アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア沖合にて駆逐艦エルドリッジを使って行われた秘匿実験により確かめられた、空間を歪め、奈落落ちさせる現象、フィラデルフィア・エフェクト。

「身体が突然燃え上がった」「衣服だけが船体に焼き付けられた」「甲板に体が溶け込んだ」「発火した計器から火が移り、火だるまになった」「一瞬で凍り付いた」「半身だけ透明になった」「壁の中に吸い込まれた」 ……わずかに生き残った船員たちは艦内の惨状をこのように語ったという。

 この現象を応用して秘密裏に制作された次元振動弾は、日本の広島に投下され甚大な被害をもたらした。

 その次元振動弾によるアメリカ国本土への攻撃。

 これが起これば世界は再び戦中の混乱に陥るかも知れなかった。


「自分たちで撒いた種は自分たちで刈り取るがよかろう」

「させない!」


 エレンは怒りに任せ、乾に踊り掛かる。

 霊気の密度が高まっているせいで超常の力が増幅されているのは彼女も同じだった。

 犬神の血が顕れた肉体は、彼女の意志を受けて全身をバネのように躍動させ、疾風のごとく動いた。

 五メートル以上の距離を看護服のスカートを翻しながら一気に跳躍。

 その拳が乾の顔面を狙って風を巻く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自サイト『T.SUGIの小説置き場』(https://strida.web.fc2.com/t_sugi_ss/)では、参考資料や制作の裏側をまとめた解説付きで掲載しています。
ガルパンファンやモデラーで日本戦車についてもっと知りたいという方はどうぞ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ