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第五章 真相-1

「今度は前のようには行かんぞ!」


 京都の街にたどり着いた大地たちを迎えたのは、アウレーリアが前鬼後鬼と呼ぶ二体の式神。

 岩のような巨体に対し、大地は炸薬が詰まった榴弾で対処する。


 チハは元々、対歩兵用の戦車だ。

 大口径の砲弾はそれだけ多くの爆薬が詰められるため広い効力半径を持つし、短く軽い砲は肩付けで機敏に狙いを定めることが可能。


 もっとも前鬼後鬼たちの運動能力は桁外れで人の身の倍の背丈を持ちながら機敏に動くため、その走行速度は乗用車並み。

 アウレーリアの見事な運転が無ければ追いすがることもかなわなかっただろう。

 そうして追いつ追われつの激戦を繰り広げながら一行がたどり着いたのは……


「東寺か」


 アウレーリアが九七式中戦車チハを停車させる。

 東寺は教王護国寺とも呼ばれる国家鎮護の密教寺院だった。

 式神たちはここでかき消すように姿をくらましている。


 大地たちは警戒しながらも車外に出た。

 京都の街には厚い雲が垂れ込め、辺りは重苦しい空気に包まれている。


「招かれたか」


 アウレーリアは苦々しげに言う。

 エレンがその言葉に吠えた。


「誰だか知らないけど、用があるなら出て来なさいよっ!」


 彼女はこの京都に町に入ってからずっと胸元を、そこに刻まれた傷を押さえていた。

 血を吐くような叫びは傷の疼きが促したものか。


 そのときだった。


「吠えるな女。ここをどこだと思うておる」


 聞く者の魂に直接介入するような、鋼のごとき声だった。

 錐のように尖ったその先端は、エレンに向けられているのが分かった。

 いや、凄まじいほどの圧迫感に、強制的に理解させられた。


「なんて重い言霊……」


 楓が重圧に耐えるかのようにつぶやいた。

 その顔からは血の気が引いている。

 彼女は蒼褪めた面を声の発せられた方に向けた。


 日本帝国陸軍の将官服を着た男が独り、音も無く静かに立って居た。

 その姿は薄靄に包まれ、しかし地に落とした影は闇が凝固したように限りなく濃い。

 幽鬼のごとく青白い細面に、吊り上がった鋭いまなざし。

 腰には軍刀を佩いていた。

 禍々しい力が満ちているのが大地にも感じ取れた。

 男のまとう威圧感が、ほとんど物理的とも言える圧力となって襲ってくる。

 だがしかし、


「日本帝国陸軍陰陽将校、乾将軍?」


 一人だけ涼しい顔をしたアウレーリアが問う。

 大地が以前にも、彼女の口から聞いたことのある名前だった。


「いかにも」


 乾と呼ばれた男は笑ったようだった。


「ぐううううっ!」


 エレンが頭を抱え、苦しみ出した。


「どうした!」


 慌てて駆け寄ろうとする大地だったが、楓がそれを止めた。


「不用意に近づかないで下さい。悪霊に取り込まれます!」

「悪霊?」


 乾が声高く嘲笑する。


「カカカカ、女、うぬらがごとき下賤の賊がこの地に現れたのが運の尽きだ」


 エレンに加えられる重圧が更に高まる。

 しかし、


「ああああっ!」


 エレンが吠えた。

 髪が、耳が伸び、犬歯が突き出て身体の骨格そのものが変わろうとしていた。

 それを目にして楓が叫ぶ。


「変化? もしかして犬神筋の血が?」


 アウレーリアはそれで納得した。


「楓が苦手とするはずじゃな。稲荷神の使いである狐にとって、犬は相性が悪いものなのじゃから」


 そして乾の細い瞳が、蛇のように更に細まった。


「なるほど、最初から犬神に憑かれておったか。道理で一人だけ憑依が効かぬはずよな」


 その声に大地は違和感を覚える。

 乾の口ぶりはまるで憑依が効かないエレンのことを試すようで、殺意を持って悪霊を仕向けたようには感じられなかったのだ。

 ふと、エレンにかかる力が弱まり、エレンは狼の牙と耳を備えた異形に変化したままの身体を抱えながら大きく息をついた。


「大丈夫か?」


 とっさに支えようとする大地を、エレンはふらつきながらも拒んだ。


「日本人の力は借ないわ。あたしは自分のことは自分で始末をつける主義よ」


 その瞳はなおも力を失ってはおらず、なにものにも御せられまいとする強い意志を示しているかのようだった。


「でも、あなたの命を救ったのは、あなたのお父さんから受け継いだ日本人の…… 犬神の血筋ですよ」


 楓が、荒ぶる彼女をなだめるように言った。

 異形と化したエレンの眉間に皺が寄る。


「あたしは自分をアメリカ人だと信じて戦場に立ったけど…… 日本人の父さんの血を継いでいるという事実は受け入れなきゃ駄目ってことか」


 自分が自分であることの証明。

 エレンは今まで戦場に向かうことでそれを行ってきたのだろう。


 しかし、それでも日本人である父親の血が自分に流れていることに変わりはない。

 犬神の力はその象徴であり、彼女に目を逸らすことのできない事実を突きつけていた。

 苦悩するエレンに、大地が言えるのは、


「生きるということは、今を足場にすることだ」


 ということだった。

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