怒
「ねぇシド、俺がもし狂ったら、お前が俺を殺して」
まだ自分が若かった日の思い出
師である男に組み手相手をしてもらっていた時だ
キラキラと太陽の光に反射して輝くあの人の銀髪
俺はあの人がとても綺麗だと思う
どんなに惨い事をしていても
戦争中なのに、敵兵の死体さえもちゃんと哀しんでくれる人の所へ運んでいた
あの人の心はとても綺麗だった
自分の頭に乗せられた大きな手
その手の持ち主の顔はとても悲しそう
「俺ね、殺されるんなら絶対お前かガルに殺されたい」
時々おかしなことを言う人だったから、この言葉もいつもの冗談だと思っていた
いや、思いたかったんだ
今ではいつ死ぬか何て解らないから
「隊長は暫くは死なないと思いますよ?あんた強いから」
いつものように言い返してやると、乾いた笑みを浮かべる
「教えたでしょ?戦場では強さなんて関係ない、運だけが頼りだ」
顔は笑っているけど、眼は、真剣だった
まるで今から、死ぬ人のような感じ
不安が襲い、慌てて喋る
「隊長の場合は特別ですよ、一応天才でしょ?」
「ああ、俺は天才だよ、殺しのね」
ゾッとするような笑みだった
初めて師匠に対して恐怖を抱いた
「ハハ、なーんて冗談、さ、そろそろ戻ろうか」
すぐにいつもの表情へ戻る
でもやはり何処か悲しそうな顔
妙な気配に目覚めて、始めに聞こえたのは悲鳴
《……血の臭いだ……、何で?》
そこら中に飛び散る赤い液体
そして仲間の死体
《……!……隊長が、何故居ない》
こんな大騒ぎ、あの人が気づかない訳が無い
普段は抜けていても、根は真面目な人だ
変だ、何があった……
辺りの様子から察するに、敵襲があったのだろう
だがおかしい、此処の警備はそんなに手薄では無いはずだ
それに此処は最前線基地の特殊部隊の棟、簡単にやられる筈はない
背筋が凍る
冷や汗が頬を伝う
これは、殺気……
気配が全く無い……
いつの間にかあたりには血の臭いが充満している
時折聞こえる呻き声
後ろか
大きな鉄がぶつかり合う音がする
相手の姿は見えない
グワ
肩を掴まれ、外へ引きずり出される
全身を襲う浮遊感と恐怖
着地寸前に食らう打撃
「カハッ……」
強い
初めて体感する敗北感
自分は弱かったのかと思い知らされる
腹にまた重い一撃が走る
そしてギリギリで見えたのは銀色の綺麗な髪
「……隊長?」
やっと来てくれたかと安堵し、姿を探すが見えない
まさか
飛び回る敵の気配
首を捕まれる
相手の姿は
「……なんで……あんたが………」
自分を殺そうとしている者の姿
銀色の髪
隊長だった
悲しそうな顔をしている隊長が、そこにいた
「ごめん、痛いだろ……?ちょっと体が言う事聞かなくてね」
ピキピキと血管が浮き出す、ともに緩む力
「やっぱり失敗だった……、もうすぐ、俺は狂う」
苦しそうに顔を顰めるその姿は酷く儚く見えた
「シド、隊長命令だ、俺を殺しなさい」
いつものような笑み
「はやく、そろそろ俺は自分を制御出来なくなる」
言われなくても、自らに刃物を突き刺している姿を見ればすぐ解る
ポタポタ
流れる血
「早く」
カタカタと震えながら剣を抜く
「俺は君を恨まないよ、殺してくれたらね」
いつもの冗談の様に
いつもの冗談のように、
冗談として、終わらないのか
「俺は自分の仲間を殺したくない、選択肢は一つだ」
俺だって
師匠を殺したくないよ
「早くしろッ!!シド・ウィンッ!!!」
時間が止まる
スローモーションンのようだ
眼を思いっきり瞑り、剣を振り下ろす
いつものように
いつも敵兵を殺すように
顔に飛び散り付いた生暖かい血
「感謝している、シド・ウォン君」
堅苦しい言葉遣いだ
「彼はとても優秀な人物だった、とても残念だ」
感情の籠もっていない声
もとわといえば、あんた達があんな薬を作ったのが原因でしょ?
「あの薬が出来れば、我が軍の勝ちは確実なものになったのに」
「薬は失敗、そして使える手駒も一つ無くした」
手駒
俺達は
「………違うだろ………」
俺の異変に気づく政府の役人達
「……俺達は、あんた達の駒じゃない………」
色々な感情は弾ける、制御出来ない
脳裏に浮かぶのは数え切れないほどの死体と仲間の笑顔そして――それぞれの思い
『戦争が終わったら、田舎でのんびり暮らしたいな』『妻と子供が俺の帰り待ってるんだ』『この戦争が終わったら、世界中を旅して回るんだ』『とにかくいっぱい酒飲みたいね』『んー、やっぱり普通に暮らしたいな』
「あんた達が勝手に戦争初めて、俺達がそれに付き合ってやってるんだろ」
俺達民は――
「俺達民は、あんた達が満足する世界を作る為に居るんじゃない」
自然に動く手
力強く隠して置いたナイフを握る
周りは釈然とする
辺りに飛ぶ血、血
次々に出来る死体
そして最後に残るのは、、、、、
何が書きたいのか解らなくなった……
最初のイメージと全く違うただの殺戮小説