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1kill

 暗くて静かな夜。

 こんな夜は血が流れなくちゃ。

 ああ、駄目。我慢なんて出来ない。

 我慢はよくない。とんでもなくよくない。

 何かを堪えて生きるなんてヤダ。

 何かを諦めて生きるなんてヤダ。

 こんな夜は血が流れなくちゃ。


 遠くに人影。

 殺される人影。

 ああ、あの人がいいかも。

 皆寝ているのに、こんな時間にスーツを着て。

 お疲れ様。

 きっと疲れてるんだろうな。

 いろんな我慢しながら、いっぱいいっぱい頑張って。

 うん、殺してあげよう。

 そしたらもう我慢しなくていいよ。

 疲れなくてもいいよ。

 さっと忍びのように私は近付く。どんどん近付く。

 

 ゆったりと歩く男の人。

 近付けば近付く程、すごく疲れてる。

 早く、早く。

 早く夜に血を流さなきゃ。

 綺麗な夜に。

 

 朝は駄目。昼も駄目。あんな溌剌とした明るさに血も死体も似合わない。

 これは私のわがままの為。

 私の純粋な欲求と夜の為。


 私は、あなたの背中に飛び込んだ。

 

 どんっ。


「ぐうっ……」


 あなたはぐたりと地面に倒れた。

 ごろりと体を転がし、私を見上げる。

 その目を見て驚いた。


 怖がってない。怯えていない。

 こんなの初めてだ。

 刺されたのに。死にそうなのに。


 ああ、そうなの。あなた。

 そこまで、追いつめられているの?

 怖さもまともに感じられないほどに。


「あなた、変わってるね」


 あなたの目が、少しだけ大きくなった。

 びっくりしたみたいに。

 

「怖くないんだ」


 否定も肯定もない。

 否定も肯定もできなかっただけかもしれないけど。

 かわいそう。

 疲れてかわいそうな、あなた。


「よっぽど疲れてるんだね」


 あなたの目は、すっと細くなった。

 睨まれてる? 怒ってる?

 でもすぐにその目は、ぴったりと閉じた。


 お疲れ様。ごゆっくり。


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