第七百七十二話 ミニ施設を用意しよう
※活動報告に『まのわ通算800話記念、あのスキルは今……特集。』を掲載しました。
◎金翅鳥神殿 第六十二階層 入り口
「姉貴、帰還の楔が使えないのだけど……」
「はあ? どういうこと?」
それは金翅鳥神殿の第六十二階層に入ってすぐのことであった。
時間的にはもう十八時を越えており、帰還の楔の刻印をその場に刻んで今日は地上に戻ろうかという話をした後すぐのことであった。直樹が非情に困った顔で帰還の楔を使えないと告げてきたのだ。
「使えないってどういうことだよ?」
「館に戻れないってことか?」
そんなレームやライルの言葉に直樹は頷きながら、風音と弓花へと自分のウィンドウの表示画面を見せた。
「えーと、カルラ王と接触状態にあるから使用不可?」
「質量オーバー? どういうこと?」
風音と弓花がそれぞれ首を傾げる。
「多分だけど、ダンジョン自体がカルラ王って認識されてるみたいだ、これ。どこからこうなってたか分からないけど、もしかすると前の階層からすでにそうだったのかもしれない」
その直樹の言葉に弓花が首を傾げるが、風音は眉をひそめながら口を開いた。
「多分、今のカルラ王はダンジョンと一体化しているのかも。ダンジョン自体はデカすぎて転移させられないから、使用不可になってるとか……もしかするとポータルが六十階層以降使えないのもそう言うことなのか」
風音が自信なさげに言う。ポータルの問題は魔素の濃さによるモノと認識していたが、或いはそれ自体は正しいのかもしれないが、どうであれ転移ができない事実は変わらない。
「風音、結論を言うと?」
「直樹、マジ使えねえ」
「ひでえよ姉貴」
ガーンという表情に直樹がなっていたが、言葉通りの意味である。使えない。また、いつもならここでエミリィのフォローが入りそうなものだが、それはもうない。エミリィは直樹から卒業したのだ。
それからエミリィはあえて直樹については何も言わずに風音に尋ねる。
「カザネ、それじゃあこっからどうするの?」
「どうもこうも、どこまでが影響圏内なのか分からないけど、ポータルと同様の状況なら今後も転移は望めなさそうだよね。まあ、とりあえずは地図にある隠し部屋に行って今日は休もうよ」
風音は気を取り直して、そう口にした。
大元の予定に比べて大幅な遅れは出るだろうが、最深層に降りるという目標は変わらない。帰還の楔が使えなくとも、他のパーティたちに対してアドバンテージが失われただけに過ぎないのだ。泣き言は言っていられなかった。
それから風音たちは第六十二階層の入り口付近の隠し部屋へと向かい、本日はそこに泊まることにした。また、その場で風音が取り出したモノは風音コテージミニというものであった。
風音は「ま、こんなこともあろうかと用意はしてきたんだよ」とさりげなく口にしていたが、それは隠し部屋内でも使用可能なようコンパクトにしたコテージで、簡単なリビング、キッチンにトイレ、さらにはリラクゼーションルーム、浴場までを兼ね備え、メイド人形であるノアも一緒に用意されていた。
それは、あんなでかい建物を毎回出す意味ないのではないだろうか? という疑問を解消すべく、風音が原点に立ち返って造り出したコテージであった。
◎金翅鳥神殿 隠し部屋 風音コテージミニ 浴場
「キャッキャ、キャッキャ」
パシャーパシャーと風音がひとり笑いながら温泉のお湯を飛ばしている。その姿を可憐と見るか馬鹿っぽいと見るかは人によるだろう。
「えーと、何を猿みたいな声を上げて、暴れてるの?」
それは一番の親友にすら理解できない行動のようで、一番になりたい親友やその他の親友たちにも当然理解できない行動だった。タツオならば可能だったかもしれないが、タツオは最近男湯に入っている。
「可愛い女の子がキャッキャ言いながら温泉で遊んでるの図」
「迷惑ね。まあ私たち以外いないし、アンタが作ったものだから別にいいんだけどさ」
弓花がどうでも良いと判断し、興味をなくした顔をしながら湯船に肩まで浸かった。
「あー、落ち着くー。魔物との戦闘は大したことなかったけど、一日歩き通しだったからなぁ」
今日一日を振り返って弓花が呟くと、ティアラとエミリィが少しだけバツの悪そうな顔をしていた。ふたりはアダミノくんの背に乗っていて、特に歩き疲れてもいなかったのである。
その横でゴレムスキャノンという補助があったにせよ、己の足で歩いていたレームは気にすることなく浴場を見回した。蛇口やシャワーなどが付いているのは勿論、そこにはジャグジー風呂や炭酸風呂、それに中央には口からお湯を出しているクリスタルカザネドラゴン像があった。
「しっかし、よくもまあ、次から次へとこんなの造れるよな」
「ゴーレムメーカー万歳だね。レームのノアもよく動いてくれてるし、そっちも大助かりだよ」
レームの言葉に風音がそう返す。実際、メイド人形のノアは今現在も精力的に働いていて、着替えやベッドメイクまでをさっさとやってくれていた。
元々風音は雑用専用タツヨシくんを造ろうかと悩んでいたのだが、実際にノアと同様の働きをさせるには膨大な命令の追加と学習を、時間をかけて行わなければならないため、ノアの参入は非常にありがたいものがあったのである。
「それにしても直樹の帰還の楔が使えなくなると色々と面倒だねえ。今後は最短距離を突っ切るためにも、安全を確保しながら高速で移動できる手段を用意しないとダメかも」
元々風音はダンジョン探索をヒポ丸くんなどに乗って行う予定であったのだが、トラップの恐ろしさからその方針は今では撤回し、徒歩での探索に変えていた。しかし、同じルートを何度も繰り返し移動するとなると、今後はゴーレム馬移動の方針を復活する必要がありそうだと考えていた。
「けどー、トラップが怖いわね」
「まあね。トラップが再出現することもそう多くはないだろうけど、そこら辺は対策するよ。それに未探索の階層は従来通りに歩いて攻略していこうと思うし」
つまり基本方針は、移動済みエリアはゴーレム馬移動、未探索エリアは通常移動ということである。トラップは即死タイプもある上に魔物同様に自然発生することもあるので、十分な注意が必要であるのだ。
「まあトラップといってもここら辺はストーンタイタン偽装がメインだけどね。しばらくはそれほど苦もなさそうだけど、七十階層くらいからはまたガラリと変わるらしいよ」
「そっから、フィールドが変化するんだったっけ?」
エミリィが尋ねて風音が頷く。
「うん。後、街があるとか何とか言ってたね」
「へ?」
その風音の言葉に一同が眉をひそめた。
「まだ詳しくは聞いてないけど。まあ、オーリさんたちも結構苦戦中らしいね」
そう風音は答えて、そのまま肩まで浸かった。
ダンジョン内は階層によってフィールドが変動する。
岩場の次がこの要塞内部のように、まったく辻褄の合わない世界が階層を境に続いていくことも多い。
しかし街があるというのは風音にもよく分からない話であった。
(ストーンタイタンの擬態、ジュエルラビットとゴールデンアイの精神攻撃対策はすでに終えている。チャイルドストーン持ちとの遭遇があっても十分に対処できるよね。地形の問題はあるけど)
現状、風音にとって怖いのはどういう環境で戦闘になるかであった。トラップゾーンでの魔物と戦闘や袋小路で囲まれたりでもすれば、高レベルであっても状況次第では死ぬのはゲーム内でもあったことだ。ましてやここは現実。闇の森から生き延びる実力を得たとはいえ、油断=死なのは変わらない。
「たのもー」
そして風音たちがゆっくりと温泉に浸かっていたところにコテージの外から声がかかった。
「なんだろ?」
「魔物……じゃないわよね?」
外で護衛として待機しているアダミノくんとタツヨシくんケイローンも特に反応はしていないようである。つまり相手は魔物ではなく、風音たちとは別の探索者たちがこの隠し部屋へとやってきたようであった。
名前:由比浜 風音
職業:竜と獣統べる天魔之王(見習い)
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー・リア王・解放者・守護者
装備:風音の虹杖・ドラグホーントンファー×2・鬼皇の鎧・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・白蓄魔器(改)×2・虹のネックレス・虹竜の指輪・金翅鳥の腕輪・プラチナケープ
レベル:46
体力:165+25
魔力:450+550
筋力:91+60
俊敏力:99+50
持久力:52+30
知力:100
器用さ:78
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』『黄金の黄昏[竜専用]』『ミラーシールド』『ラビットスピード』『フレアミラージュ』『テレポート』『カイザーサンダーバード』
スキル:『見習い解除』『無の理』『技の手[0]』『光輪:Lv2』『進化の手[4]』『キックの悪魔:Lv2』『怒りの波動』『蹴斬波』『爆神掌』『コンセントレーション』『戦士の記憶:Lv2』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚:Lv2』『ゴーレムメーカー:Lv5』『イージスシールド:Lv2』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス:Lv2』『インビジブルナイツ』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感:Lv3』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド:Lv3』『情報連携:Lv3』『光学迷彩』『吸血剣』『ハイ・ダッシュ』『竜体化:Lv4[竜系統][飛属]』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット:Lv3』『より頑丈な歯:Lv2[竜系統]』『水晶化:Lv3[竜系統]』『魔王の威圧:Lv3』『ストーンミノタウロス:Lv2』『メガビーム:Lv3』『真・空間拡張』『偽銀生成』『毒爪』『炎球[竜系統]』『キューティクル[竜系統]』『武具創造:黒炎』『食材の目利き:Lv4』『ドラゴンフェロモン[竜系統]』『ブースト』『猿の剛腕』『二刀流』『オッパイプラス:Lv2』『リビングアーマー』『アラーム』『六刀流』『精神攻撃完全防御』『スパイダーウェブ』『ワイヤーカッター』『柔軟』『魔力吸収』『白金体化』『友情タッグ』『戦艦トンファー召喚』『カルラ炎』『魔物創造』『ウィングスライサー』『フェザーアタック』『ビースティング』『弾力』『イーグルアイ』『ソードレイン:Lv4』『空中跳び[竜系統]』『暴風の加護:Lv2』『最速ゼンラー』『ソルダード流王剣術』『タイタンウェーブ:Lv2』『宝石化』『ハウリングボイス:Lv2』『影世界の住人』『知恵の実』『死体ごっこ』『ハイパーバックダッシュ』『ドリル化:Lv2』『毛根殺し』『ハイパータートルネック』『爆裂鉄鋼弾』『ウィングアーム』
風音「誰だろう?」
弓花「うーん、知らない声だったけど」
風音「ここまで来れる可能性があって面識がない相手というと、ジンライさんに聞いたなんとか騎士団さんかな?」




