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第五話 戦闘をしよう

 まずはコンラッドの街に行ってから今後のことを考えよう…との弓花の提案に同意し風音たちは遺跡を去り、街道に向かって歩き出していた。


「来るときは出会わなかったけど、ここらへんも魔物が出るらしいから気をつけないとね」

「出てくるのはホーンドラビットとチルチルヒ辺りかな?」

 周囲を見渡しながらの弓花の声に風音は聞き返す。ゲームでは確かそこらへんの魔物が出没していたはずだった。

「そうね。後はレイダードッグもいるって話だけど」

「うわぁ、それは厄介。さっきの臭い玉を用意しておいたほうがいいね」

「ゴブリン用だけど?」

「レイダードッグ、というか犬族は臭いに敏感だから臭い系のアイテムを投げつければ牽制ぐらいにはなるんだよ。まあゲーム中は知らなくても詰まるところもなかったけどね」

「でも手段の限られる私たちには重要…ということだね」

 弓花の言葉に風音は頷いて肯定する。


 二人は草原の移動中、周囲に敵のウィンドウが出てないかを観察しながら進んでいった。スニーク、インビジブルなどのスキル持ちではない限りは敵ウィンドウの存在に気を配れば不意打ちはないはずだった。

(背後からダッシュで来られると危ないけどね)

 そう思い、多少なりとも土地勘のある弓花を先頭にして背後の警戒は風音が行っている。

 ゴブリンは倒したとはいえ、完全な不意打ちである。まともな戦闘を一度も行なっていない状況は風音の恐怖心を生む。

(せめてホーンドラビットが単独でエンカウントするとかあればいいんだけどね)


「あ、風音。見えてきたよ」

 前からの声に風音は弓花に尋ねる。

「見えてきたって街が?」

「何言ってるの。街道に決まってるじゃない」

 決まってるんだ…とぼやきながら風音はため息を吐く。


 ゲームと現実の違い、それはフィールドの広さかも知れないと風音は感じていた。シグナ遺跡から街道に到達するまでが体感的に一時間程度。途中、魔物との出会いはなかったがデコボコした道なき道を進むのはインドア派の人間にはかなりきついものがある。

 正面を歩く弓花が風音ほど疲れていないのは元々が弓道部で体力づくりはできていたことと筋力全振りが効いているのだろう。


「ああ、もう。さっきまで『私たちには生きやすい世界なんだぜ。キリッ』とか言ってたのにだらしないわねえ」

「仕方ないんだよ。現代社会の申し子なんだよ、私は」

「あーはいはい」

(うーん、これから旅するんならポイントの振り方考えた方が良さそうかな)

 健康派ゲーマーを自称する風音は体力にまったく自信がないわけでもなかったが、それでもファンタジーの世界で生き抜くには今のままでは不足過ぎる。次のレベルあたりからはそこらヘんも考えて割り振ろうと心に誓う。


 舗装された石畳の上に上がり、風音はようやく一息ついた。

「ふう。それで街道には出たわけだけど、この道ってやっぱり魔物が出にくいようになってるのかな?」

「そうらしいわよ。魔物が嫌うトルマーナ石が仕込まれてるからあまり近付かないんだって。来るときもここらへんまで行商の人に送ってもらったんだけど途中何にも出なかったしね」

「そこらへんは設定通りなんだね。まあエンカウント率が低いってだけで、まったく出現しないってわけでもないんだろうけど」

 風音は周囲を見渡しながら尋ねる。

「それでこれから南の方に歩いていけばいいのかな?」

「ええ、歩いて4時間ぐらいだと思う。日の沈む前に 着かないとさすがに厳しいかも」

 その言葉に風音の口から悲鳴が上がる。

「ゲームなら遺跡から街まで二十分くらいだったのに」

「ぼやくな。いくわよ」

「らじゃー」


 そうして歩き出して二時間ほど経ったところだった。戦闘の音が聞こえてきたのは。


 *************


「弓花、あれ」

「…うん」

 風音の声に弓花が表情を険しくしながら前を見る。

 森を突っ切るように続く街道の先に何かの悲鳴と叫び声、金属音などが聞こえてくる。

「襲われてる。魔物かな?」

 風音の問いに弓花が頷いて同意する。

「どうする?」

「どうするって、助けよう。ここらの魔物なら大したことはない…はず」

 風音の言葉に弓花は一瞬ビクッと肩を震わせたが、つばを飲み込み、再び風音を見たときには覚悟を決めた顔をした。

「分かった」

「うん」

 そうして二人とも走り出した。


「馬車に人が何人かいる。襲ってるのはレイダードッグだね」

「よく見えるわね。ああ、あれか」

 弓花は風音のスキル『夜目』を思い出す。まだ夕方に差し掛かった時間だが森の中は木々に遮られ暗い。また道もうねっていて木々に阻まれ先が見え辛くなっているので弓花の目では何かしらが動いているぐらいしか分からない。

 距離にして500メートル。戦力差があるとたどり着く前に終わってしまうかもしれない…と、風音は考えた。

「ちょっとマズいかも」

 風音の口からそんな声が漏れる。

「間に合わないの?」

「うーん。弓花、ちょっとダッシュするよ」

(ダッシュって)

 鎧こそ着てないが槍と剣を持ってではこれ以上の速度は無理だろう。その前にへばってしまう…などと弓花が考えていると風音が「コマンドオープン」とウィンドウを開いた。

「スキルフライ。パーティ全体で」

 風音と弓花の身体が浮かび始める。

「ちょっと?」

「飛ばすよぉ」

 上昇ではなく地面すれすれの浮遊。

 風音は最初とは違い、フライを正確に制御し木々の間を越え、うねる街道をショートカットしながら全速力ですっ飛ぶ。

「ぬわぁあああああああああ」

 弓花が女の子らしからぬ声で悲鳴を上げるがどこ吹く風である。まあ、制御に集中していただけなのだが。

「到着っ!!」

「フガッ」

 フライの術が魔力切れで消えたのと同時にズサササと街道の横の土の上に着地。制御が完全だった風音はともかく、弓花は危うく転げるところだった。

 できるところまで、と風音は考えていたが前回から5レベル上がっていることで魔力総量が増えている。加えて上昇ではなく一定高度のまま進んだことで消費量が抑えられ、目的の場所の前まで到達ができた。


「なんだぁ」

 馬車の方から声が届く。

「助太刀します」

 その声に風音はスラリと剣を抜いて答える。

(商人助太刀イベントと同じって考えればいいよね)

「おお、助かる」

 相手の男もそう一言だけ返す。レイダードッグの相手が忙しくてそれ以上の応答はできないようだった。

 だが、襲っていたレイダードッグの方は別だった。二匹のレイダードッグがうなり声を上げて風音に襲い掛かる。

「弓花、玉ッ!」

「あーはいはい」

 事前にモンスターと遭遇したときの打ち合わせ通り、弓花が懐から臭い玉を取り出し犬たちに投げる。


「「クゥンッ」」


 投げつけられた臭い玉が地面にぶつかって割れるとレイダードッグ二匹ともがしかめ面で固まる。


「今だ!」


 風音は迷わず剣を振る。ザックリとイヤな手応えとともにレイダードッグの首が落ちる。

「もう一匹はっ」

 風音が見るともう一匹のレイダードッグは臭いのショックから立ち直りこちらに飛びかからんばかりの状態だった。

(しまったぁああ)

 思わず叫びそうになる風音だが、横から突き出された槍によってそちらも地面に崩れ落ちる。

「弓花、サンキュー」

「いいから」

 弓花の視線が馬車の方に向いている。

(3、いや4匹。相手はおじさんと若い男のひとだけか)

「おじさん、一瞬ひるませるからやっちゃって! 弓花もお願い!!」

「あいっよぉお」

 弓花が大きく振りかぶって、中年のほうに臭い玉を投げつける。

「よっしゃあ」

 中年の男はレイダードッグがひるむのを見るとハルバードで犬たちを蹴散らした。


 残り2匹。風音たちは危なげなく残りを始末した。


名前:由比浜 風音

職業:冒険者

装備:鋼鉄の両手剣・服

レベル:15

体力:38

魔力:45

筋力:14

俊敏力:11

持久力:10

知力:23

器用さ:12

スペル:『フライ』

スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』


風音「またスキルが増えた」

弓花「まさかこのペースでドンドン増えてくの?」

風音「どうだろう?」

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