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第三十話 泣いた娘を帰そう

◎アルゴ山脈 途中の洞穴 翌朝


「よーし、サンガクくん。そこで土かけて〜」

 ザサッと4人の冒険者たちの遺体に土がかぶせられていく。

 場所は洞窟の中。風音はゴーレムのサンガクくんを作り、作成した岩にできた穴に冒険者を運び埋葬を行なっていた。

(外は雪で埋めらんないし、洞窟んなかに放置じゃ獣に喰われるかもしれないしねえ。まあ掘り返される可能性も高いとは思うけど)

 風音もそこらへんのことはよく分からないが、仲間であったルーもこれでいいと言っているので、とりあえずは良しとするかと割り切る。そして埋めた土を固めてそこに木の十字架を突き立て、ルーがそこにいくらかの言葉をかけてささやかな冒険者たちの葬式は終了した。


「本当にありがとう。おかげで仲間たちも安らかに逝けたと思う」

「いやいや。まあ気にしないでよ」

 風音はと言えば、昨日から寝ていないので、若干頭がぼうっとしてるが、状況が状況だけに意識をしっかり持つよう努めていた。この状況でルーから目を離すわけにもいかないだろう。

「それで、ルー。一応埋葬は終わったんだけど、これからどうする予定? コンラッドの街までならまあ、戻ってもいいよ」

 ここでルーがコンラッドに行くつもりなら送っていくのも良い。遺跡にはまた戻ってから挑めばいいと風音は考えていた。

「コンラッド…」

 しかしルーは考え込んだ後、首を振る。

「本当はね。仲間と一緒にこの山を抜けて国境を越えてね。故郷に帰るつもりだったんだ。でも、途中で昨日の吹雪に遭っちゃってね」

 着のみ着のままで山越えなんてムチャだって言ったのにね…とルーは悲しそうに笑う。

「まあそうだねえ」

「でも、今の青空なら多分大丈夫だから」

 そう言ってルーは風音から背を向ける。

「行くね、私」

 背を向けた先は森、そしてそれを越えた先にはツヴァーラ王国がある。

「うん。それじゃあね」

 風音も止めず、別れの言葉を口にする。ルーならばひとりでも問題はないだろうと考えていたしコンラッドに戻らないという以上、風音には他にどうこうするべき方法を知らない。ただ、風音はルーに一言だけ言っておくべきことがあった。


「ルー、一昨日の街道のオーガのことなんだけどね」


 その言葉でルーの背中がビクッとする。


「私が助けたから。おっさんも女の子たちも」

 そしてルーが風音を見た。

「え、本当…に?」

 その言葉に風音が頷く。

「だからまあ、そんなに気に病まないでね」


「うん、ありがとうっ」


 そう言ってルーは森の中を駆けていった。

 この先はミンシアナ王国と隣国であるツヴァーラ王国とのちょうど国境付近になる。ルーの言葉が確かなら彼らのパーティはツヴァーラの出身だったんだろう…と風音は考えた。

「そんじゃ私もいこうかな」

 そう言って風音はサンガク君に乗り込み、そしてコーラル神殿へと向かい始める。



◎アルゴ山脈 山頂前

 

 ルーと別れた後の風音は非常に静かだった。考えまい考えまいとしながらも背後に何かいるんじゃないかという錯覚が彼女に降りかかっていた。

 そしてコーラル神殿の姿が視界に捉え、太陽が一番上に昇った頃、風音の緊張はようやく解かれ


「の・り・きっ・たぁあああああああ!!!!」


 と、サンガクくんの上に立ち、ガッツポーズで叫んだのである。涙まで流していた。

「アッブネエエ。セーフ! セェエエエフッ!!!」

 もはや言葉遣いまで変わっているが、別にコーラル神殿にたどり着いたことを喜んでいるわけではない。ただひたすらに彼女は昨日からずっと追いつめられていたのである。


 あのルーという『死霊』に。


「いや、ホント。どうなるかと思ったけどこれで大丈夫だよね。オッケーだよね」

 さきほどまで風音が置かれていたシチュエーションはゼクシアハーツのランダム旅イベントのひとつ『行き倒れの旅人』、それに大きく酷似していた。

 簡単に言えば洞窟やキャンプで1人だけ生きているNPCを発見したがその場で死亡。その後、生前の姿のままゴーストNPCが現れ、プレイヤーについてくるというイベントである。

 登場時のゴーストは正と負のパラメータが存在しておりプレイヤーの選択肢によって成仏か悪霊かに変わる。成仏するとアイテムがもらえるが悪霊化すると戦闘開始。勝ってもその場でとり憑かれる。またゴーストを無視してもタイムオーバーでもとり憑かれ、憑依状態のバッドステータスに変わる。

 とり憑かれると時折混乱状態となりパーティメンバーが正気を戻さないと元には戻らないのでこんな場所で1人でいる状態ではほぼ死亡確定である。

 ゴーストが存在している間は眠れず、常に話しかけ正の方向にバランス調整をする必要があり、その制限時間は翌日の正午まで。なので最終ラインである正午を越え、自分が取り憑かれていないのを確認してようやく風音は状況を乗り切ったと判断したのだ。


 もっとも、さきほどのルーとの出会いがそのイベントそのものだったのかは分からない。

 風音は匂いで最初から分かっていたが、彼女らは風音がコンラッドの街に来る途中で助けた奴隷商たちを護衛していたパーティである。

 ルーの話通りなら、国境を越え故郷に逃亡しようとしていたのだろう。街にも戻れなかったから装備も逃げ出したときのままで、そして遭難し死んだのだ。


 そうしたイベントからの回避に成功したのだから風音も心の底から安堵しているに違いなかった。

「うぐ…」

 だから、流れている涙も歓喜の涙だ。迫っていた危険を回避できたことが嬉しいのだろう…と。

 あの、まだ年若い少女の理不尽な死と、目の前で助けられなかった自分への悔恨と、ただ一人歩いていく彼女の背中を思い出して涙が出てきたなんてことはない。


 そんな風に風音は自分自身を納得させた。


「うん、行かなきゃね」

 風音は涙を拭う。ここから先は気持ちを切り替えて挑まないと恐らく死ぬ。


 風音は弓花には告げていなかった。英霊召喚の指輪の奪取方法を。それがとてつもなく危険な勝負になるということを。

 たとえ初期レベル8でもこの試練を受けることはできる。そして勝って指輪を手に入れることもできる。


 だが、容易く死ぬこともあるのである。



 そんな周回プレイヤー用に課せられた英霊召喚の指輪イベント。その内容とは…?

名前:由比浜 風音

職業:魔法剣士

称号:オーガキラー

装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・レザージャケット・毛皮のコート(フード付)・鉄の小手・布の服・皮のズボン・革の靴・ポーチ

レベル:19

体力:64

魔力:107

筋力:25

俊敏力:18

持久力:14

知力:27

器用さ:19

スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』

スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』『キリングレッグ』『フィアボイス』『インビジブル』


風音「あれ、スキルが増えてる?」

弓花「それってあのルーって人のじゃない。インビジブルッて透明化だよね。ゴースト系魔物がよく持ってるヤツ」

風音「倒した訳じゃあないのだけれど?」

弓花「イベントだと成仏でアイテム貰えるんだよね。それじゃあないかな」

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― 新着の感想 ―
なるほど、それで前話で死んでいたのは三人で、この回の冒頭で埋葬されてるのが四人なわけか。
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