第二十話 新しい街を見よう
◎ウィンラードの街 宿屋リカルド
「ベッドがふかふかだぁね」
「リンリーさんには悪いけど宿の格の違いがすごく出てるなあ」
ギルドでランクC認定をもらった風音たちは親方のオススメという宿屋を紹介してらい、今まさにくつろいでいた。
「ま、親方のおかげで待遇は若干良いみたいだし、こっちを拠点にして稼ぐって方がいいかなあ」
「リンリーさんにはこっちにしばらくいるかもとは言っておいたけどコンラッドには戻らないの?」
「ジローくんがね。ほら私たちの狩りのこと気にしてたじゃん」
「そういえばそうだったわね」
馬車の中でジローがそんなことを口にしていたのを弓花も思い出した。
「やっぱりゲーム序盤の街だからね。ちょっと早いけど周囲の目も考えるとレベルにあった場所に移動してた方がいいと思うんだ」
「確かにそうかも」
「英霊召喚の指輪を取りにコンラッドには寄るからさ。リンリーさんにはそのときに挨拶しよう」
その風音の言葉に弓花も頷く。
「じゃあ決定。今日は休んで明日は情報収集するよ。あ、弓花は親方のところに行くんだっけ?」
「うん。良い槍があるから見てかないかって」
「じゃあ、明日は別行動だね。何があるかなあ」
初めての街。それもここはゲームには存在していなかった街だ。風音の好奇心は明日の街散策に向けて燃えていた。
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◎ウィンラードの街 ギルドの酒場
翌朝。
「ジローくん、ここにいたんだねえ」
「おうカザネ」
カザネが酒場に入るとジローが2人組と会話を交わしていた。
「うん。ジロー、誰だいこの嬢ちゃんは?」
「まさかあんたの子供じゃないわよね?」
「んな年じゃねえよ」
ジローと会話していたのはガッシリとした30前後の男に胸の大きな褐色肌の女性。
「パパァ、お小遣いちょうだ~い」
なんだか面白そうだったので風音もノってみる。
「うっせえよ、お前の方が稼いでるだろうが」
「子供はいつだってお小遣いに飢えているんだよ?」
「そりゃ大人だって同じだっつーの」
ジローはバンダナをかぶり直して風音をみる。
「たく、ユミカとは一緒じゃねえのか?」
「弓花は親方のところに行ってるよ。良い槍を見せてもらうとか」
「んー、そうか」
そう言って少し考えた後ジローは風音を改めて見た。
「そういやおめーもこっちで仕事するつもりなのか?」
「そうだけど。おめーもってことはジローくんも?」
「まあな。ランクも上がったしそろそろ一つ上で頑張ってみたくてな」
「へえ。ま、それじゃあこれからもよろしくねジローくん」
「ジロー。このこ、冒険者なの?」
と、さきほどから興味深そうに見ていた二人組の女性の方が好奇心に勝てずに声をかけてきた。
「おお、そうだ。紹介するぜ、こいつはコンラッドで同輩だったカザネだ。相棒に槍使いのユミカってのがいる」
「カザネです。よろしゅう」
「おう、俺はガーラ。見ての通りの戦士だ」
「私はアンナっていうんだ。魔術師よ」
魔術師という言葉に風音がピクッと反応する。
それを見てジローがニヤリと笑る。
「む、なんでジローくんが自慢げな顔するのかな?」
この世界において魔術師という職業につける人間は少ない。原因は単純で、ある程度の財産がある家でなければ魔術師として教育することができないためである。
「うっせえよ。冒険者で魔術師なんてそうそういないんだからな。同類を引き合わせたんだから感謝しろよ」
「え? この娘、魔術師なの?」
驚いたのはアンナの方である。逆にガーラはそうでもないようで、
(そのなりじゃあそういう特技でもねえと厳しいよな)
と思っていた。
「あ、ううん。魔術は使うけど魔術師ではないんだ」
そう言って風音はギルドカードを取り出した。
「魔法剣士、今はこう名乗ってるから」
風音はランクC変更と一緒に職業を変えていた。
「ランクC?」
「うそ!?」
もっとも二人の目は別のところを見ていた。
魔術が使えて剣も持っているのなら魔物と戦うことを想定しているのは分かる。たとえ子供でも親か仲間とパーティを組んでの指定魔物討伐ならば不可能ではないからだ。
そしてランクDまではクエストの累積で手が届くため、これも親と一緒に旅をしている子供などにはまま見られる。しかしランクCは違う。これにはギルドから派遣された試験官によって認定されなければ昇格はあり得ない。
故にギルドから正式認可されたランクCと、それより下位のランクでは冒険者としての意味合いがプロとアマチュアほどに違うと考えられている。
「ジローくん、魔法剣士への食い付きが悪い件について」
「何を期待してんだか知らねーが自己申告制の項目なんてあんま注目されることはねえぞ」
風音のガッカリな眼差しの意味を悟ったジローだが、素気なくこの世界の常識を口にする。
「そんなんで注目集めたいなら称号でももらってくるんだな。それならギルドカードにも追記される」
「ふーん、そんなんもあるんだねえ」
(つーか、ゴーレムと一緒に戦うのを魔法剣士っていうのか?)
そちらの方がジローは気になっていた。
「なるほどね。ただ者じゃないお嬢ちゃんなんだね、カザネは」
「相方のユミカも相当だぜ。旦那ともやり合えるんじゃねえかな」
「それは興味深いな」
「ところで、お二人はこんなところで何を? 新人のジローくんをイジめてたとか?」
「お前の中での俺の扱いってどうなってんだろうな。たく、ちげーよ。俺はこの二人とパーティ組むんだよ。元々その予定でこの街にも来たんだし」
「ああ、そうなんだ」
「ま、虐めるかどうかは今後次第だけど」
「そりゃねえよ。姉さん」
「ふふ、まあそれは冗談としてもジローとパーティを組めるかは実は微妙だったりするんだけどね」
「うぇ?」
突然の言葉にジローが呻く。
「ど、ど、どど、どういうこと?」
(落ち着けージローくん)
心の中で風音が忠告する。無論心の中なので届きはしない。
「落ち着いて、別にあなたに不満があるわけじゃないの。ただ、私たち二人には優先させなきゃいけないことができてしまったのよ」
涙目になりかかったジローにアンナが真剣な表情でこう口にした。
「ちょっとね。仲間の仇を取らないといけなくて」
背後にいたガーラが神妙に頷いた。
「私たちが生きていられるか分からないのよ」
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◎ウィンラードの街 宿屋リカルド
「ただいまー」
風音が扉を開けて入ってくる。
「お帰り、風音。街はどうだった?」
「うん。死にかけのジローくんが面白かったよ」
「? そう?」
弓花は何の話だかわからなかったが、とりあえず風音の機嫌も良さそうだし相づちを打っておく。
「弓花の方は…と、買ったみたいだね」
「まあねえ」
床に座りながら弓花は真新しい槍を磨いている。それはもう嬉しそうに。
「親方が打った中でも売り物にしてないヤツなんだって」
「へ…ええ?」
普段動じることの少ない風音の動揺した相づちに気付かず弓花は続ける。
「装飾もされてない地味なヤツだからって特別に2000キリギアで譲ってもらったの」
「それが…」
風音は今日の情報収集で親方のことも表向きの話は大体聞いていた。
ジョーンズ・バトロイ。ここら一帯の商業を仕切るゼニス商会の代表の一人。
匠の称号を持つ数少ない鍛冶師で、ジョーンズの打った武器は最低でも100000キリギアは下らないといわれている。中でもよく出来たお気に入りの逸品はジョーンズシリーズと呼ばれ個人的に懇意にした人物に特別に譲るようにしているのだという。
(懇意にされた人物は当然親方のお眼鏡にかなった人物で、つまりはそこから市場に流れることはほとんどないだろうし、あの槍の価値を知ったら弓花は吃驚して死んじゃうんじゃないかな)
熱心に槍を磨く弓花を見て風音はため息をつく。
(まあ、知らぬが仏か)
「弓花、それ絶対なくしちゃダメだからね」
「あったり前でしょう!」
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
装備:鋼鉄の両手剣・レザージャケット・鉄の小手・布の服・皮のズボン・革の靴・ポーチ
レベル:17
体力:50
魔力:83
筋力:18
俊敏力:13
持久力:13
知力:26
器用さ:15
スペル:『フライ』『ファイア』『ヒール』
スキル:『ゴブリン語』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー』『突進』『炎の理:二章』『癒しの理:二章』『空中跳び』
風音「ちなみに『貴重なものなので当店では買い取りできません』扱いらしい」
弓花「何の話?」
風音「こっちの話だよ。それより新しい槍の具合はどう?」
弓花「それがもう豆腐を切るみたいになんでも切れるんだよ。さすが2000キリギア出しただけあって良い出来だよねえ」
風音「………」