第百五十九話 お叱りを受けよう
ギルドマスターから推薦されたクエストの依頼書を受け取った風音たちだが、ジンライは入院中、弓花はバーンズ槍術道場で特訓中、ティアラも母親のところに滞在中だった。またルイーズもティアラの護衛と教育係であるため、同行はできないそうだ。
「なんで、4人で行こうと思うけどどうかな?」
「まあ問題ねえよ」
再び酒場に戻ってからそう提案する風音にライルが同意する。仮入団をどうするか見極める機会だろうとでも考えているのだろう。ライルに続いてエミリィも頷く。そして直樹も当然異論はなかった。
「ま、あんたらは元々三人で組んでたんだし、問題はないでしょうけど」
ルイーズはそう言って続いて風音を見た。
「カザネ、あんたは……もう悪評を広げないでね」
「狙ってやってるわけじゃあないんだけどね」
心外とばかりに風音はむくれる。風音一人が築いた悪評ではないが、だが騒動の中心がこのチンチクリンなのは間違いがなかった。
「ああ。でも、この依頼ってランクBが参加者にいないと駄目っぽいね? この4人だと無理じゃない?」
「え、姉貴。まだランクBになってないの?」
「あたぼうさ」
風音がない胸をドンと叩く。そしてむせる。その後ゴホゴホしながら風音はアイテムボックスからカードを出して見せ、直樹が驚いた顔をする。
「とっくにランクSかAだと思ってた」
「私も」
ライルとエミリィの感想である。そう思えるほどに鬼殺し姫の噂が広まりすぎていた。
「いやだって私、冒険者になってまだ三ヶ月半ぐらいだしねえ」
その言葉にライルとエミリィが口をあんぐりと開けているが、ただの事実ではある。なお直樹は一年前にランクBに昇格し、もう一年くらいでAの昇格試験資格に届くだろうとは言われていたが、これも異常なペースではあったりする。
ランクが上がればただ強いだけではなく、クエストの達成数や達成率が重視されていく。風音は特例としてランクBへの昇格の話が上がっているが、ランクAになる資格はまだなかった。
(……というか魔法剣士って)
風音がまともに魔剣で戦ったのを直樹が見たのは、竜と化してクリスタルドラゴンの首をはねたときぐらいだ。直樹が疑問に思うのも無理はない。が、とりあえずはそうした思いは飲み込む。姉の視線が明らかに不審がっていたので。
「まあ俺がランクBだから問題はないよ」
そう言って直樹は今度は自分のギルドカードを見せる。
「なんということだ」
風音は直樹のギルドカードにあるランクBの表示を見てぐぬぬ顔になった。姉より優れた弟など到底看過できるものではない。
ちなみにこのパーティだとジンライとルイーズがランクBでランクA昇格試験参加資格者である。どちらもAに昇格していないのは、ギルドとの繋がりが強くなることで柵が増えることを嫌っているためである。ただ依頼を受けるだけならばランクBでも問題はないのだ。必要があればランクAの冒険者と組めばいい。
そしてカード勝負に負けた風音は商人ギルドの事務所に駆け込んでいった。すっかり忘れていた商人ギルドカードを発行してもらうためである。その場で鑑定メガネの魔術のラインを通し、風音の身分が証明されたことで、カードは一時間ほどで手に入った。それを見て驚く弟の姿を見て風音は満足したようだった。
さて、クエストを受けることを決めた風音たちではあったが、依頼を受けるには依頼を発注した街のギルドにまで行く必要がある。風音たちはバーンズ道場にいる弓花に出掛けることを告げて、エルマー家にルイーズを送り届け、ティアラとも話をした。弓花もティアラもやはり、今は街を離れられないようだった。それと風音はティアラのお母さんにこねくり回されていた。気に入られたらしい。
最後にジンライにも話は通してから、風音達は依頼を送ったクリミオナの街へと向かう。
例のごとく道中はヒポ丸くんとサンダーチャリオットであったが、本日はジンライがお休みのためライルが手綱を握ることとなった。そしてジンライと同じ嗜好を持っているライルは当然のごとく暴走した。無論風音もノリノリだった。
◎クリミオナの街 冒険者ギルド隣接酒場
「リザレクトの街で出た這い寄る稲妻がここでも出たってよ」
「あの闘技場でも暴れたっていうアレがか」
「まさか要塞の件も悪魔の仕業ってわけじゃあないよな?」
普段は物静かなクリミオナの昼の酒場がまるで夜のごとく大騒ぎになっていた。ただでさえ廃棄されていたブルーリフォン要塞の魔物発生騒動で冒険者たちが入り乱れてざわついているところである。その上リザレクトの街で目撃された新種の魔物の姿が現れたのだ。そりゃ大騒ぎにもなる。
「兄さん」
「姉貴ぃ」
「わりぃ」
「悪気はなかった。今は反省している」
そのざわついた空気のなか、隅で俯いている若いパーティの姿があった。勿論風音たちである。ちなみに地竜の時のようにUターンやドリフトをしたわけでも戦闘モードでもなかったので、乗り心地はそこまで悪かったわけではなく直樹とエミリィは無事だった。
「まさか、あれが噂の『這い寄る稲妻』だったとは」
話には聞いていたし、そんなのと出くわしたらどうしようとエミリィと話もしていたライルだがそれがあんなものだったとは思わなかった。いつの間にやら自分が魔物扱いになってるとは思わなかった。
「直樹、お姉ちゃんは手綱に触らなかった。お姉ちゃんは悪くなかった。怒られそうになったらそう証言してほしい。お姉ちゃんからのお願いです」
「お、おう」
「あ、ずっこい」
風音のお願いに直樹はつい頷いてしまい、ライルが非難の声をあげた。ちなみに「やっちゃえやっちゃえーー」と風音は声高らかに叫んでいたのを全員が聞いている。
「いや、駄目でしょ。カザネも同罪でしょ!」
馬車の中から様子をしっかり見ていたエミリィがそう叫ぶ。
「ぐう。もう怒られたくないんだよ」
風音はリザレクトの説教を思い出す。もう怒られるのは嫌なのだ。
「それにナオキもお姉さんに甘すぎでしょ! もう!!」
「すまん」
直樹も反省である。
「そうだぜ、ナオキ。エミリィ、もっと言ってやれ」
「いや兄さんが一番反省しなさいよ。カザネもルイーズさんにもコレ以上騒ぎを起こすなって言われてるじゃない」
「仕方がないんだよ。私たちがトラブルを呼んでるのではなく、トラブルが勝手に来てるだけなんだよ。少年探偵が道を歩くと死体が転がってるのと同じ理屈なんだよ」
「言っている意味が分からないし、明らかに今回のは自分で招いてるからね!」
正論である。
「むむ、直樹。エミリィが厳しい」
「ま、そこらへんはシンディさん譲りだからな」
ジンライの嫁でエミリィの祖母のシンディは普段はかなり厳しい人のようだった。言うことを聞かない竜は拳で言うことを聞かせるらしい。
「ま、とりあえずその話は置いておいてクエストを受けに行くよ」
置いておかれた。まあコレ以上の言及はここではすまいとエミリィも頷いた。あとでまた言い聞かせなきゃとは思いながら。そのエミリィの意志を表情から察した風音とライルは(終わったら逃げよう)と頷きあった。直樹がイラッときた。そして受付でクエストを受けた後、直樹の裏切りによりあっさりと捕まるふたり。ふたりでランデブーなど直樹が許せるはずもないのだ。
なお説教を食らった風音はエミリィはシンディさんというかジンライさんっぽいかなあと思ったという。
そしてその日はこのクリミオナの街に泊まり、要塞へは翌日の出立と決めて宿を探すこととなった。
◎クリミオナの街 トイトイの宿屋
「ノーマルは室内の見張りね。ドラグーンはヒポ丸くんたちを見ておいて。武器はコレで」
ホイと風音がアイテムボックスから不滅のスコップを取り出しドラグーンに手渡した。それをドラグーンはうやうやしくという風に受け取った。竜角トンファーはヒポ丸くんの標準装備になってしまったし、3メートル魔剣はチャイルドストーン動力時では扱えないため、ドラグーンの標準装備は不滅のスコップに変更されていた。掘って良し、突いて良し、叩いて良し、切ってよしのスコップは近接戦闘最強の武器だ。
「随分と物々しいな」
ライルがベッドに座りながらそう口にした。
酒場から出て泊まる宿を見つけて中にはいると風音が突然タツヨシくん二体を起動したのである。ノーマルにもチャイルドストーンで動けるように少し改良してある。
そしてライルとエミリィはシロディエでタツヨシくんノーマルを見ていたし鬼殺し姫が人形使いであることは知っていたのでそうしたものが動き回っていることについては驚きはしなかった。
だがタツヨシくんドラグーンの物々しい姿には二人とも若干腰が引けていた。銀色のスコップが尚更異様な雰囲気を醸し出していた。
「姉貴、やっぱり外のって俺たち狙いなのか?」
だが雰囲気に飲まれているふたりとは違い、直樹には風音の意図を理解していた。直樹は弓花のように対人に優れた冒険者ではない。だがこの世界に来た当初に地竜モドキに襲われて以来その成長は『生きる』ということに特化していた。それ故に直樹は『察知』というスキルを手に入れている。直感のように全方面に有効なスキルではないが、罠を見つけたり、素材を発見したりと何かとダンジョン探索やクエストでは重宝されるスキルである。
そしてその直樹のスキルが、この街に入ってから反応していた。
「臭いからして何度か人を入れ替えてこっちに尾いてるみたいだからねえ。狙いは私たちなんだろうけど、何を狙ってるかは分かんないなあ」
そう風音が返した。風音も『直感』と『犬の嗅覚』によって誰かにつけられてるのを理解していた。だが彼らの狙いが何なのかまでは分からない。
(馬でヒポ丸くんを追い抜くのは基本無理だとしても、情報をこっちに伝える手段はあるはずだもんね。可能性としては私の監視か他の何かを狙ってるのか、それともヒポ丸くんたちを盗もうとしてるのか、この国の将軍の子供ってことでライルたちもあり得るのかな?)
現時点では単にうろついてるだけなので捕まえるにしても根拠はなく、もめ事になる可能性がある。いっそ襲ってくれた方が早い気がするな……どと考える自分をよろしくないなあと思いながら、ともあれ今夜は警備だけ強化して寝ることにしようと風音は手を打ったのであった。
名前:由比浜 風音
職業:魔法剣士
称号:オーガキラー・ドラゴンスレイヤー・ハイビーストサモナー
装備:杖『白炎』・両手剣『黒牙』・粘着剣『ガム』・魔法短剣・竜鱗の胸当て・ドラグガントレット・銀羊の服・シルフィンスカート・プラズマパンツ・竜鬼の甲冑靴・不滅のマント・不思議なポーチ・紅の聖柩・英霊召喚の指輪・叡智のサークレット・アイムの腕輪・蓄魔器・白蓄魔器
レベル:30
体力:107
魔力:181+420
筋力:52+10
俊敏力:43+4
持久力:29
知力:57
器用さ:38
スペル:『フライ』『トーチ』『ファイア』『ヒール』『ファイアストーム』『ヒーラーレイ』『ハイヒール』
スキル:『戦士の記憶』『夜目』『噛み殺す一撃』『犬の嗅覚』『ゴーレムメーカー:Lv3』『突進』『炎の理:三章』『癒しの理:四章』『空中跳び:Lv2』『キリングレッグ:Lv3』『フィアボイス』『インビジブル』『タイガーアイ』『壁歩き』『直感』『致命の救済』『身軽』『チャージ』『マテリアルシールド』『情報連携』『光学迷彩』『吸血剣』『ダッシュ』『竜体化』『リジェネレイト』『魂を砕く刃』『そっと乗せる手』『サンダーチャリオット』『頑丈な歯』『水晶化』
弓花「私ただいま修行中」
風音「ちょっときな臭い感じだからそっちも気をつけてね」
弓花「ラジャー」




